第191話 勝利への限界突破
“グングニル”の柄と白銀の戦斧が鍔是り合う。
「ぬうぅっ!」
「はあああっっ!!!!」
地表で炸裂したにもかかわらず、空中の俺まで揺らめくほどの衝撃が戦場を駆け抜ける。
“大陸最強”――そう称された巨人は、“禁忌魔眼・解放”と神々の領域に素で入門して来る、紛れもない怪物だった。
加えて、さっきまでは複数人でなければ拮抗できなかった神々の攻撃に一人で打ち合えているという事実は、これまでの闘いが決して無駄ではなかったという証明でもある。
絶望するには、まだ早い。
「連中も消耗している。神々も無敵じゃない……ならばっ!」
オージーンの特攻で降り注ぐ神光の威力は弱まっている。
黒翼の羽ばたきと共に急加速し、白い光の中を漆黒の流星となって翔けた。
「斬る――ッ!」
“蒼剡穿つ叛逆の剣”――破裂寸前まで吸収した魔力が蒼き炎となって斬撃に宿る。
「ぬっ!?」
蒼炎斬破。
オーディンの肉体に真一文字の傷が刻まれる。
「“雷神怒涛”――ッ!!」
瞬間、武神の神雷が戦場を駆け抜け、神界の大地が割断された。
正面激突の状態から弾かれ、再び神々と相対する。
「限界突破した“ミストルティン”での一撃とアンブローンの特攻……存外効いているようだな」
「ええ、ですが……」
「このままでは、まだこっちの方が不利だ」
これまでの闘いで加えてきた攻撃の数々は、確かに神々に蓄積されてダメージとなっている。
目に見えて動きが悪くなっていると感じさせないのは流石だが、攻撃の出力が若干落ちている辺り間違いないだろう。
だがそれは俺たちも同じ。
「三神健在では、いずれ押し切られる……」
眼前から迫る神の三光。
四人同時に斬撃を放って迎撃するが、押し返しきるところまでは至らず拮抗。
戦局は膠着状態へと突入する。
この通り、こちらの残存戦力は実質四人。
さっきまでの闘いを思えば、誰一人を討てていない状況でこの戦力なのは、頼りないどころの話じゃないだろう。神界に乗り込み、最初に“ミストルティン”を放って以降、常に後手に回ってしまっている。
その一方、全く希望がないわけではなかった。
「フェリス……負担をかけることになるが、俺たちの強化を頼めるか?」
持久戦になれば、勝ち目はない。対抗策があるとすれば、大出力で一気に押し切ることだけだ。
その上で可能性があるとするなら、三体の神獣種と闘ったあの形態だけ――。
「今は、一人が限界。というか、もう限界……」
対してフェリスは戦闘中であるにもかかわらず、既にこっくりこっくりと舟を漕ぎ始めていた。小さくなったニーズヘッグが頭の上から尻尾で叩き続けていなければ、今にも眠ってしまいそうだ。
正に誰もが限界。
しかし、それについても織り込み済み。後は皆が力を貸してくれるかどうか――。
「実際に戦うのは俺たち四人。残った連中は、フェリスに魔力を供給し続けるんだ」
「残った者を魔力タンクへ……支援能力があるフェリスを起点にして、今戦える私やヴァンたちを一極強化というわけですか? しかしどこかで供給が途切れれば、漏れなく全滅。何より、疲弊した状態で力の受け渡しなど、彼女自身初めてのことでしょう。リスクが大きいと言わざるを得ない」
「だが、他に方法は無かろう。今の我らは友軍……。何より、あのいけ好かない連中を打ち倒す為なら、残った巨人族の力を結集させることに異論はない」
「そうね、アルフヘイムの力も好きに使ってちょうだい」
「ダークエルフ一同、反対意見はありません」
「あーあ、こうなったら協力しないわけにはいかないじゃないか。まあ僕たちは戦力外みたいだし、君たちでダメなら後はどうしようもない。我がヴァナヘイムは、皆の意見に賛同しよう」
「世界の中心と言われて幾星霜……どんな形であれ、戦乱の引き金となった我が国が責任を取るとすれば今だけです。王に変わり、このフィン・アウズンがアースガルズ全軍の力を貴方たちに捧げましょう」
元々同盟を結んでいた国々はともかく、全ての国から色好い返事が来たのは嬉しい誤算。
皆の力が一つになっていく。
「ふん、気に食わん!」
「ダメ、ゼインも……」
「そうね、私たちはこの時の為に集まったんでしょう?」
それは“神断の罪杯”も同様。
少しばかりの希望が見えた瞬間だった。
「姫様、共に歩むこと叶わず申し訳ありません!」
「後は任せますぜ、旦那ァ!」
「ユグドラシル卿、私たちの未来を……!」
色とりどりの魔力光が皆の身体を包む。
「ヴァン……!」
「そんな顔をするな。まあ、何とかしてくるよ!」
そして、アイリスの黄金がフェリスに注ぎ込まれた瞬間、戦場を光が包む。
「またも変化した? その姿は……」
津波の様だった神光が消し飛んだ先には――蒼金に翡紅が混じり、二対四枚の黒翼を携えた俺の姿。
加えて、セラとゼイン、オージーンもその出で立ちを新たに戦場へと帰還した。
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