第190話 超越神光
再び大陸に降り立てば、皆が慌ただしく動き回っていた。
死者、怪我人多数。
神々相手の犠牲としては最小限で済んだとも言えるが、どちらにしても、さっきの今でやることが多すぎる。
「被害状況は?」
「主動力は完全にアウト。補助はギリギリ生きてるけど、過負荷でしばらく使えないわね。“ミストルティン”も全損に近いし、ホントに滅茶苦茶やってくれたわ。結果的には、功を奏した形になったけれど……」
光の中に消え去ったアンブローンに次いで機械関係に強いのは、顔に似合わずフレイヤのようであり、当の本人はどこか皮肉気に肩を竦めている。
「修復には、どのくらいかかる? いつまでも神界に留まっているわけにもいかないし、“虹の橋”を破壊して、二つの世界を隔絶させる必要もある」
「主動力と“ミストルティン”はともかく、補助動力の問題は過負荷が抜けるかどうかだけ。少し休ませてあげてから、五つの魔眼の力で再起動できれば、帰れるかも……ってところね」
「可能性は?」
「神のみぞ知る、としか言えないわ」
浮遊大陸の主動力源と切り札である“ミストルティン”の全損。
“悪轟眼”の喪失。
戦局的な面を見ても犠牲は大きいと言わざるを得ない。
それでも神々の世界とて滅亡に近い。
後は二つの世界が二度と交わらないように通行手段を全て破壊すれば、俺たちの未来を取り戻せるはず――。
「ふぉふぉっ! やってくれたのぉ、人間よ」
「な……ッ!?」
聞き覚えのある声を受けて誰もが空を見上げれば、誰もがその表情を絶望と驚愕に変質させる。
何故なら三神とも、各所に色濃い傷を残しながらも見事健在だったから。
「まさかここまで深手を負わされるとはな」
「流石の俺もちょっと頭に来ちまったぜ」
重戦略級の一撃を浴びせられたにもかかわらずの威風堂々足る様は、皆の心をへし折るに相応しい物だろう。こちらがあれだけの犠牲を出したのだから尚更だ。
ただ先と変わらぬ様子で佇んでいるオーディンに対しては、誰もが共通の疑問を抱いている。
「アンブローンは?」
「先の人間か? 儂すらも取り込もうとした妄執と狂気は凄まじいものではあったが、所詮は人間。逆に喰らい尽くしてやったのぉ!」
さも当然のように言い放たれれば、更に重たいものが両肩に押しかかるのを感じる。
奴がこれまでして来たことは許せないし、気に食わなくはあったが、アンブローンの狂気は紛れもない本物。
魔眼の力が術者の感情で増幅されるというなら、奴の眼力はある意味で俺たちを上回っていたのかもしれないと思ってしまうほどに――。
何より、神々が生きていた時代には存在しなかった下界生物の独自進化とも言うべき“禁忌魔眼・解放”――開放状態の魔眼が能力ごと力任せに打ち破られたという事実は、勝利への希望を打ち砕いてしまうに等しいものだった。
「さて、そろそろ死ね」
そんな俺たちに対し、天より神の光が降り注ぐ。
「くそっ!?」
「ここまでかよォ!?」
先の着地の際、皆が魔力を使い切ってしまっている。
対して神々は、未だ健在。
立ち上がることすらできない戦士たちは、その多くが武器を取り零し、呆然と迫る光を見上げるのみ。
「それでも……!」
「まだ動くかのぉ?」
黒翼天翔。
両剣を手に空へと飛び立ち、神光の前に躍り出た。
“叛逆眼”は魔力を喰らって力に変える。
故に優れた使い手が放った高純度の魔力が異常なほど飽和している状況であれば、スタミナ切れはない。
加えて、魔眼の力が神々に作用するのも、これまでの闘いで証明されている。
「譲れないものは、こちらにもある!」
「良い覚悟じゃ、魔眼持ちし人間よ!」
迎撃と吸収の同時行使。
即ち、放出と魔力を喰らうプロセスを上手いこと循環させられており、膨大な神光の中に在って、この身は皆の盾となる。
魔眼の輝きが増していく。
「人間というのも存外侮れぬものだ」
「この歳になって、勉強することがあるなんてなァ!」
相手はオーディン一人じゃない。
こちらの戦力は、実質俺一人だけ。
いくらオーディンの攻撃を防げていても、他の二人から狙い撃たれれば吸収限界を超えて自壊する。
正しく、絶体絶命。
「消し飛べっ!」
「ほう、その状態で向かって来るとは!?」
瞬間、俺の隣で紅蓮光が瞬き、雷の槌と激突。
「これ以上は、やらせませんっ!」
「しつこいねぇ、全く!」
逆隣では、翡翠が混じった蒼銀が煌めき、巨狼魔弾を塞き止める。
「ヴァン・ユグドラシル! そのまま攻撃を受け止めていろ!」
更に白銀の巨体が戦場を疾駆し――。
「なるほど、味方の魔力を譲渡……結集したということかのぉ……」
自発的に力を高められるゼインはともかく、セラとオージーンの復活要因はたった一つ、単純な物。
「“巨人の剛撃”――ォ!!」
セラが纏う翡翠の残光を目で追う傍ら、動きを止めた神々に向けて白銀の戦斧が炸裂する。
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