第188話 悪轟眼《イビル・アマルガム》
螺旋奔流。
熱気で視界が歪むほどの力の炸裂を経て、皆の表情が少しばかりの明るさを取り戻した。
「お、終わったのか?」
「我らの……」
「ああ、勝鬨を上げよう! 我らの勝利……」
だがそんな戦士たちの喜びは、光り輝く神々によって辛くも四散してしまう。
「――今のは、流石の儂も肝を冷やしたのぉ」
「ふんっ、造作もない」
「へぇ、それにしちゃぁ、鎧がちょこっと消し飛んでるけどなァ?」
ローブが吹き飛び、年に似合わない筋骨隆々な体を見せつけるオーディン。
一部鎧を欠損しながらも、堂々と仁王立ちのトール。
消し飛んだであろう目深帽子を魔法で作り出し、飄々としているロキ。
神話健在。
大きなダメージには違いないが、仕留めるつもりで放った最後の一撃で決められなかった。
その事実が皆の肩に重く圧し掛かる。
「お、終わった……」
「希望は、潰えたのか!?」
一人、また一人と武器を取り零し、膝をついてしまう。
皆の顔に浮かぶのは絶望、そして諦め。
「ちくしょうっ!?」
「そんな……!?」
重戦略級の破壊力を誇る“ミストルティン”を切り札に据えるのは、誰もが納得した規定事項。
人間の独自進化である“禁忌魔眼・解放”、異世界の技術までもふんだんに詰め込んで強化したのだから尚更だ。しかし、そんな切り札で決めきれなかった。皆の絶望も一入だった。
「二色の眼光、我らの領域に踏み込みかねない螺旋……中々愉しませてもらったが、ここまでじゃのぉ……」
「貴様らを勇士だと認めてやろう。しかし、所詮は下界の者……これが限界だ」
「まあ頑張ったんじゃねぇか? 胸を張って死んでいけ」
神槍に光が集う。
雷槌が振り上げられ、虚無の弾丸が巨狼を象る。
攻撃を防ぐ手立てはない。いや、防いだところで意味はないのかもしれない。
何故なら、“ミストルティン”で倒せなかったということは、ある絶望的な事実を浮き彫りにしてしまっているから。
「くそっ!? 打つ手なしかよ!?」
「ですが、事実として……」
当然ではあるが、個人で“ミストルティン”以上の火力を出せる者はいない。つまり俺たちの攻撃は、神々に通用しないわけだ。
何発攻撃を防いでも、勝ち目がないのだから意味がない。そんな絶望的な事実を突きつけられてしまえば、戦意を保てる者など極僅か。事この局面においては、最悪極まりない事実だった。
「ちっ、戯け共が!」
「それでも、立ち止まるわけにはいかないんだ!」
俺たちの未来は、絶望――。
「さあ、散れ。間違った歴史と進化は、修正されねばならない」
「――ッ!?」
だが神々の光が放たれる瞬間、背後で六色の螺旋光が再び渦を巻いた。
「何を……!?」
「まだ動くのですか!?」
放たれた神々の光と再起動した“ミストルティン”が激突。
猛烈な光の波が周囲に拡散していく。
「むっ、この出力は……!?」
この時、初めて神々の表情が驚愕に染まった。
理由は、先ほどよりも“ミストルティン”の破壊力が増しているから。
「ふふっ、ようやくこの時が来ました! 世界の根源であり、叡智の結晶……神々の力をこの身で体感できる時が!」
「アンブローン!? あのババア、どんな動きをしてるのよ!?」
極光同士が火花を散らす中、その側面を飛翔するアンブローンの姿に誰もが驚愕を隠しきれない。
「人間……?」
「今なら逃れられませんよねェ! さあ、私に全てを明け渡しなさい!」
奴の顔に張り付いているのは、狂気にも似た歓喜の表情。典型的な技術屋として認識されていたアンブローンの動きは、神々すら驚愕させるものだった。
「これは……?」
そうしてアンブローンが駆け抜ける最中、突如投げ渡された物体を手に取る。
それは以前、射影された際に見た、魔眼が浸されている容器。
元より、浮遊大陸を操ったり、改造していたのはアンブローン。
動力源として作用していたのは、奴自身の“悪轟眼”であり、力を内包したまま担い手を失っていたもう一つの魔眼。
浮遊大陸の根幹を占めるこれらが取り外されたということは――。
「まさか全ての力を攻撃に転用しているのか!?」
「……それって!?」
「この大陸が地に墜ちるのも時間の問題ということだ!」
出力が上がった要因は、言葉の通り諸刃の剣。
普通であれば、気が触れたと言われてもおかしくない独断特攻が要因だった。
しかし普通でない状況であるが故、この状況に一石を投じることとなる。
「さあ、創造神の叡智を私にッ!」
「な、にッ!?」
灰と黒の二色の魔眼。
“禁忌魔眼・解放”を開放したアンブローンが胸元に飛び込んだ瞬間、突如としてオーディンが苦悶の声を漏らし始めた。
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