第184話 螺旋光煌めく
乾いた空、白い雲、いくつもある太陽。
神聖さを放つ神殿や悠久の大海、黒煙を噴く火山、切り立った渓谷――色んなものがごちゃ混ぜになった異形の風景。
正に別世界に来たのだと嫌でも実感させられる。今を生きる俺たちからすれば、それこそ子供の頃に憧れた絵本の世界へとやって来たようなもの。緊張感の裏では、誰もが言葉にし難い感覚に襲われているようだった。
まあメルヘンと言うには、少々物騒極まりないのは言うまでもないが。
「考察の余地もない。アレが“ヴァーラスキャールヴ”か……」
皆の視線が一転に注がれる。
神界決戦に向けての準備期間、修行や護衛だけではなく、全ての国々の情報網を最大まで広げて神話について調べ上げていたのは言うまでもない。
特にオーディン、ロキ、トール――三神を中心に情報を集めていたのは必然であり、成果もそれなり。
結果、万物の父であるオーディンが住まうのは、純銀の宮殿――“ヴァーラスキャールヴ”と呼ばれていることが分かった。
更にその高御座である“フリズスキャールヴ”に腰かけ、世界の全てを見渡しているのだそうだ。よって、眠りから目覚めたオーディンが拠点とするなら、これ以上相応しい場所はない。
恐らく、トールとロキも近辺に控えているはず。
故に狙う場所は一つ。同様に俺たちの潜入がバレる前に撃つしかない。
「総員衝撃に備えよ! “ミストルティン”……撃てェっ!!」
オージーンの号令と共に、光の螺旋が渦をまく。六色の光が一つとなり、巨大な光柱を形成。特大の砲撃となって飛翔する。
極光奔流。
地鳴りと共に天空神殿、浮遊大陸に佇む俺たちも思わず倒れそうになる衝撃。視界全てが光に包まれ、神の世界が激震する。
「まだだっ! チャージした全てのエネルギーを使い切っても構わん! 全てを破壊するのだ!」
更に連撃。
火山も渓谷も――何もかもが消し飛んでいく。神話の世界を光の螺旋が押し流す。
かつては“エーギル”やら“オーズ”やら、様々な神々がおり、今は何体生き残っているか定かじゃない。だがどんな神々とはいえ、休眠状態は完全な無防備。
元々いざ尋常に――なんてのはガラじゃないし、世界を守る為の闘いに私怨は不要。眠ったままの神々を次々と消し飛ばしていく。
そんな最中、背の高い巨人が大声を上げた。
「……敵襲ッ!?」
光の中を飛んで向かって来るのは、巨大な影。神界を住処とする神獣種。
この連中は流石に活発であり、何が何体いるのか分からないが、この数は非常に拙い。
何より、一体でも脅威だった神獣種がこうも湧いて来るとは――。
「総員迎撃っ! 大陸に取りつかせるな!」
オージーンが号令を上げ、多くの者たちが攻撃を放つ。
「“断罪の聖光”――!」
「“聖戟の刃星”――ッ!!」
セラとアイリスが聖剣を振るい、銀と金の斬撃を飛翔させる。
「“惨劇と悪夢”――っ!」
「“妖精の魔弾”――!」
「“闇妖精の破撃”」
フレイヤの散弾とアムラス、セシルの砲撃が続き――。
「“剣破する突斬撃”――ッッ!!」
「“雷鳴のストレイン”――ッ!」
グレイブの斬撃とコーデリアの雷矢。
「“絶突咆哮”――っ!」
「“金撃輝く魂”――!!」
「“乱反射せし爆裂”――ッ!」
第七小隊の連撃。
更に巨人族、エルフ、ダークエルフ、両種族の人間や生き残ったドワーフたちによる一斉射撃が空に特大の爆炎の華を咲かせてゆく。
そして最後――。
「“巨人の裂撃”――ォ!!!!」
オージーンの白銀が斬撃となって空を覆い、周囲を激震させる。
超特大の飽和射撃。
正に総力戦。
いくら神獣種と言えど、無敵じゃない。
一撃で倒せなくとも、体勢を崩させて螺旋光の中に叩き込めば蒸発させられる。
これで大きく数を減らせたはずだが――。
「やった?」
「――?」
因みに俺たち五人の魔眼保持者と護衛役のニーズヘッグは、迎撃には参加していない。理由は、近くで“ミストルティン”の安定を図る為。
大量破壊兵器を用いた戦いは、俺たちが懸念した通り、“闘い”の体を成していない。“ミストルティン”を守り、破壊を振り撒くだけなのだから、何とも単純で程度が低い闘いだと言わざるを得ないだろう。
それでも神獣種に迎撃を潜り抜けられたら、殲滅戦は逆の様相を呈してしまうはず。実際、見た目ほど余裕があるわけじゃないということだ。
そして爆炎の余波が消えるより前に六色の光が再び一つになる。
「ふん、この腐った世界を消し飛ばしてくれる!」
「“ミストルティン”掃射……!」
神々の世界は再び衝撃に包まれた。
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