第183話 最後の出陣
――“葬黎殿”。
全世界による同盟軍が始動してから早数ヵ月。
浮遊大陸には数多くの英傑たちが集っていた。
「うーっ、寒い。やっぱ雲の上だけあって、寒さがキツいぜぇ」
「ええ、流石の私も厚着せざるを得ません。吹雪もあって倍プッシュですが……」
「というか、普段が露出し過ぎなのでは?」
「僕はノーコメントだ」
グレイブや第七小隊、コーデリア、リアンらを始めとした月華騎士団。
「王都に仕えると誓って生きてはきたが、よもや自ら伝承の神々と相対することになるとは……」
アウズン将軍率いるアースガルズ軍。
「エルフの誇りに懸け、姫様の身を第一に行動せよ! 例えどんなに厳しい戦いになるとしても……」
アムラスが先頭に立つアルフヘイム軍と、その近くで整列しているズヴァルトアルフヘイム軍。
「闘争を求め幾星霜……我らの時代が来たということだな!」
好戦的な表情を浮かべて一際目立つのは、ヨトゥンヘイム軍。見覚えのある顔も散見され、ミズガルズ軍の生き残りを従えている。
更に付近にはヴァナヘイム軍が控え――。
「いよいよこの日が来たわね」
「ええ、この時の為に研鑽と準備を重ねてきました。決戦の時です」
天空神殿には、セラやエゼルミア陛下を始めとした王も集っている。
「ふん、数だけは一丁前だな」
「頑張る……」
それは“神断の罪杯”の面々も同様――。
「“葬黎殿”を浮上させ、虹の橋を伝って神界に転移。“ミストルティン”の先制攻撃で大打撃を与えた後、連合軍の全力で掃討。最後に虹の橋を破壊して二つの世界を分断した上で帰還。中々に骨の折れる話ね」
「電撃作戦……大事なのは、先に倒しきること。勝負を決めるのは、スピードってことだね」
「相手が相手だもの、まともに戦うだけ損ということよ」
フレイヤはアイリスの言葉に肩を竦める。
こちらの作戦と行動方針は、二人が言っている通り。切り札である“ミストルティン”で頭を叩き、一気に掃討する電撃作戦。要はかつてのアースガルズとの闘いで用いた作戦に近い。尤も今回は数ではなく質で劣っているが故の行動だというのは、何とも言えない部分ではあるが。
加えて、本来なら他国に存在を知らせる前に、是が非でも破壊すべきだった“ミストルティン”を見逃すどころか、わざわざ完成にまで漕ぎ着けたのはそういう理由からだった。
「全ては一発勝負。勝てば未来を紡ぐ権利を得られる。負ければ地上を生きる俺たちは、一生連中の奴隷。命も、生きる理由も……全ての生殺与奪が他者に握られ、管理される世界……」
「天上への叛逆とは、随分と話が大きくなったものです。それでも、私たちは……」
「ああ、最後まで戦い抜く。その為の力だ」
そうして、俺たちは後方で輝く光の螺旋に目を向ける。
正に今この時、世界の全てが一つとなった瞬間。
そして“ミストルティン”の前に立つアンブローンへと全ての視線が注がれる。
奴が手にしているのは、培養液の詰まった容器。
「火を焚べよ! これより全軍出撃する!」
連合軍総司令官となったオージーンの号令と共に、容器内の眼球から透明な光が放たれる。すると、その光が巨大な螺旋に注がれ、五色から六色の光柱へと変化していく。
“ミストルティン”の動力源は、魔眼の力。
この数ヵ月の間、俺たち魔眼保持者が行ったのも、これと同様のこと。
つまり“無銘眼”――最後の魔眼から力が注がれ、“ミストルティン”は真なる完成形態へと至ったということだ。
同時にこちらサイドの用意が全て整ったことも意味している。
「さあ、征くぞ! 今を生きる我らの誇り……その意志を神々に見せつけようぞッ!!」
敵か味方かで分けるのなら、恐らく全ての勢力が未だに敵対し合っている。ましてや仲間かどうかを聞かれれば、誰もが首を横に振るだろう。
それでも想いは一つ。
己の未来を掴む為に戦い抜くこと。
天空神殿は光に包まれ、虹の橋を浮上していく。
そして、この世界から姿を消した。
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