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第181話 揃わぬ足並み

 ()にも(かく)にも全てが統合された統一戦線。今まで触れてこなかった文明同士の交わりには、良い面もあれば悪い面もある。


 良い面としては、視野と他文明への理解が広がること。

 悪い面としては、勢力間の摩擦と小競り合いが生じること。


 正にリスクとリターン。


「貴様ァ! 我ら巨人族を愚弄するつもりか!?」

「ん、まァー、そんなこと言ってないでしょ? 僕たちが楽しむ間、少し向こうへ行っていてくれというだけなのだよ、お願い(シルブプレ)?」

「ったく、何言ってんだよ。俺たちは神殿の警備をしてる真っ最中だろうが!」


 通りがけの俺たちの前、本国から派遣されているグレイブが(いさ)める中で、巨人族とヴァナヘイムの男女兵士がいがみ合う。

 前者は身体の巨大さと(シモ)関係を揶揄(からか)われて憤り、後者は単純にモチベーション低さ故にどこか真剣味がない。

 というか、兵士ですらそうであるようにヴァナヘイムは、この一件に対するスタンスが他と違い過ぎる。一国だけ直接的な被害を被っていないとあって、どこか楽観的なのが原因なんだろう。

 事今回に関しては、ヴァナヘイム側に問題の比重が傾いているようだった。


「そんな固いこと言わずにさぁ、もっと肩の力を抜いて行きましょうや! 何なら、お二人も一緒にどうですか?」

「ええ、大歓迎ね。私は五人までなら同時に相手をできるわよ。まあ、巨人族のがどれだけ(たくま)しいかは初体験だけどねぇ」


 聞けば聞くほど最低な発言。

 一方でこれが彼らにとっての日常でもある。


 ヴァナヘイムとは愛の国。

 隣の奥さんと向かいの旦那さんが――なんてのは、日常茶飯事。というか、普通なら慰謝料なりなんなり請求されるような非難される行為や関係も国家直々に肯定されている。

 それも性に奔放過ぎるどころか、親子、兄姉弟妹(きょうだい)、従妹、叔父叔母――血縁関係もお構いなし。性別すらも超越して“そういう事”になることすら珍しくないのだそうだ。

 結果誕生したのは、くっ付いては別れを繰り返し、誰もが肉欲の愛を求め合う。繁栄も二の次――そんな下半身直結国家。

 ただヴァナヘイムの人々の場合、血が濃くなって先天性な異常を抱えかねない組み合わせで生まれた子供に問題が起こった事例はほとんど無いとのこと。


 事実なのかは知らないが、神話の神々も性に関しては少々奔放すぎると記されている。ドワーフが神話の時代から技術を受け継いだように、この丈夫さが彼らの性質と推察できなくもない。

 まあだからと言って、ここから先の闘いに役立つわけも無し。考えるだけ気持ち悪いので、完全に閑話休題であるが――


「脳内ピンク共が! そういうことは、プライベートだけにしやがれ! って、オメェも抜刀してんじゃねぇよ!」


 対して巨人族の性質は、言うまでもないだろう。

 戦と己の武に誇りを持つ、良く言えば武人。悪く言えば融通の利かない種族。

 戦闘本能の強さと巨躯からして、性豪という意味合いなら他の種族と比べても凄まじいのかもしれないが、意外にも紳士的というかちゃんと統制が取れているようだった。

 故にヴァナヘイムとヨトゥンヘイムの性質は真逆であり、水と油。

 これこそ違う文化、思想を持つ者同士が初めて交わった弊害。コミュ力お化けのグレイブですら手を焼いていた。


 一方、そんな光景を目の当たりにした俺たちも中々愉快なことになっていた。


「何も聞こえない。頭の上に乗せないで……」


 ちょこんと佇むフェリスは、背後からセラに耳を塞がれて不満げな表情を浮かべる。聴覚を遮断されてご立腹な様だった。


「子供たちには早すぎます」

「母親か、お前は」


 因みに俺たちもヴァナヘイムの連中からそういう事に誘われ、断ったことがあるのは言うまでもない。セラに至っては既に三桁を突破しているとのことで、見るからに無垢なフェリスを下ネタオンパレードから庇ったのも、そういう理由から。

 とはいえ、こういう下世話なやり取りに慣れていないせいか、どういう顔をしていればいいのか分からないというのが正直なところだった。


「――」


 一方、フェリスの頭の上に豊満な物体が乗っている所為で、俺の肩に避難してきたニーズヘッグも自分で耳を塞いでいる。まあこっちに関しては、セラとフェリスを真似ているだけであり、事情を理解しているわけではないんだろうが――。


「――退け、通行の邪魔だ」


 そんな最中、紅蓮の光が煌めいた。


「へっ、ぬおおおぅ!? なんで、俺まで!?」


 すると、揉めていた連中が屋外へと弾き飛ばされてしまい、各所で空気が凍り付く。


「随分強引ですね。我が将兵を巻き込んで……」


 現れたのは、ゼインとフレイヤ。

 いくら揉め事を起こしていたとはいえ、横から同盟軍に自国の兵士を撃たれるなど戦争案件。自然とセラの目尻も吊り上がっていく。


「あら、それは気付かなかったわ。でも人の家まで来て、しょうもない喧嘩をされたこっちの身にもなって欲しいものだけど」


 対するフレイヤもご機嫌斜めとまではいわないが、少しばかり皮肉気。ヴァナヘイムが悪目立ちしているが、まだまだ足並みが揃っていないのは明白だった。

 補足ではあるが、吹き飛ばされた連中も各国有数の戦士であったことが幸いして、全員が軽症で済んでいる。(もっと)もゼインが手加減していなければ、四人仲良く消し飛んでいたのは言うまでもないが。

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