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第180話 世界統一

 皆が忙しなく動き回る中、俺とセラは敵の本拠地だった“葬黎殿”を勝手知ったる他人の家とばかりに歩いていた。


「ここまで音沙汰がないと、逆に不安になって来るな」

「そうですね、先の戦闘での余波が未だ世界を蝕み、彼らの顕現を許していないということではあるのでしょうが……」


 ムスペルヘイム潜入からの流れで“神断の罪杯(カオス・グレイル)”、神々との戦闘、王の会合を終えてから既に一ヵ月が経過している。

 結果的にではあるが、残存国家全てによる同盟が締結され、世界は一時的な平和を取り戻していた。

 それは敵の本拠地だった“葬黎殿”を俺とセラが歩いているのが、何よりの証。


「でも再びの襲来は時間の問題。その時真っ先に狙われるのは、“ミストルティン”があるこの場所……」

「――!」


 更に俺たちの前を歩くのは、白の少女ことフェリス。頭の上にニーズヘッグを乗せている辺りも、今は(・・)敵対していないという証明となっているだろう。

 同様に眼下の浮遊大陸には、それぞれの国家に所属している巨人族やエルフの姿も見られる。正にこれまでにない光景が広がっていた。


「だからこそ、前線基地となる“葬黎殿”に戦力を集めているんだろう? 気に食わない話ではあるが、“ミストルティン”を失うわけにはいかないからな」

「ええ、今は世界全体の共有兵器となっていますし、神々に対抗する最後の手段ですから」


 そんな俺たちが視線を向けるのは、天へと立ち昇る螺旋の光。

 紅蓮、翡翠、紫紺、蒼月、白灰の光が渦を巻いて凄まじい存在感を放っている。


 前回の会合を含め、話の焦点となった“ミストルティン”の所在については、セラが言っている通りだ。さっきの今で他勢力を信用できるわけもないし、大きすぎる力は争いを呼ぶ。一極集中させるのは危険ということで全ての勢力が互いに監視、抑制し合う形で守りについている。

 とはいえ、実際のところ、どこかの国が突出して“ミストルティン”を奪うのでは――という懸念も、今は杞憂。通常の国家運営にプラスして今回の一件にもリソースを回さなければならず、どの勢力にも余裕がないからだ。

 結果、他勢力が暴走するなどのトラブルが起こることもなく、一ヵ月の日々が流れていた。


「後は“無銘眼アノニマス・エトランゼ”の力を組み込んで最終調整をするだけ……もう少し出てこないでくれると助かる」

「――!」


 平和な時間が続いている一方、外は未だ白い吹雪が舞い荒び続けているまま。異常事態が収まっていないのは明白であり、いずれ来る脅威に対して気を抜くわけにはいかないのが現状。

 下に様々な種族が集っている通り、この浮遊大陸には立ち替わり入れ替わり各勢力から精鋭が集い、前線基地の護衛についているというわけだ。


「しかしこんな形で互いに反目し合っていた世界が一つになるとは……いえ、こんな状況だからこそ……ですか」

「今はどこの国も余裕がないからな。外交ルートはズタズタ、モンスターの異常分布と相まって被害は増えるばかり。各所で戦争してみたは良いものの、まともな戦果はミズガルズを得たヨトゥンヘイムだけ……とはいえ、直後のエルフの国々との闘いでは、王自らの出陣の結果、撃退されて戦力を損耗している」

「不景気。誰かを頼らないとやっていけない」


 王が暴走したとはいえ、アースガルズの情勢が逼迫(ひっぱく)しているのは言うまでもない。

 ニヴルヘイムも度重なる事件と先日の神獣種三体襲来で甚大な被害を被っているし、一番順調そうなヨトゥンヘイムに関しても、各所に戦いを仕掛けて領土を広げたは良いが、風呂敷を広げ過ぎた内政が芳しくないのは共に過ごす中で伝わって来る。

 同様に“神断の罪杯(カオス・グレイル)”も、俺たちとの闘いで何人かの幹部を失っている。比較的余裕があるエルフの国々とヴァナヘイムも、前者はヨトゥンヘイムとの闘いの傷跡、後者は単純に国力がそれほどでもない為に明日は我が身。

 誰も彼も大きな問題を抱えている。


 だがこれまでの関係性を考えれば、安易に助けを求めるわけにもいかないということで、合法的に助け合えるこの同盟自体、満更悪い物ではなかったようだ。


「……敵の敵は味方、偶発的な異文化交流」


 現に混成部隊として編成された連中の距離は少しずつ縮まり始めている。心身ともに余裕がないのは、少人数単位でも同じだからだ。

 セラの“こんな状況だから”――という言葉が事態の本質を突いているのだろう。

 故にそれぞれの思惑はあっても、今は世界全てが同じ方向を向いている。

 自由な時は争い合っていたのに――と、何とも皮肉極まりない話ではあるが、なりふり構っていられない状況によって、これまで横たわっていた大きな溝が埋まりつつあった。


「訓練、面倒……」

「貴女は体力がなさ過ぎます。負担が大きいのなら、魔眼を使わずに戦う術を磨くべきでしょう」


 とりあえずセラに引っ付いて、いやいやと首を振っているフェリスを引っぺがすところから始めるべきか。

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