第176話 全ての魔眼
「それは……」
「“無銘眼”……先代の術者から譲り受けた魔眼。今は担い手を失い、力だけを内包した器となっていますがね」
アンブローンの言葉をそのまま受け取るなら、六種類の魔眼がこの場に集ったことになる。
一方、あまりの速さで流動する事態にこちらの誰もが驚く中、あちらの面々は物憂げな表情を浮かべていた。
つまり連中には連中なりの過去や背負うものがあるということ。
かつて相対したイーサン・シュミットとは、根本が違うのだろう。
尤も、それを確かめる術を今の俺たちは持っていないわけだが。
「過程はどうあれ、全ての魔眼が揃ったわけか。これがお前たちの望み……」
「出来ることなら、お力を貸していただきたいところですねぇ」
「世迷言を……!」
「生き残った神々への対処には、絶対的に必要な力かと思いますが?」
神々の力は、この身で体験した。アンブローンの言わんとしていることも理解出来なくもない。
それにマーズと過ごしてきた日々、これまでの闘いで刃を交えた中で、この連中がただの下種でないというのも理解はできる。
しかし俺たちが力を貸すということは、連中に世界を滅ぼせるだけの力を与えるも同じ。
続くように言葉を発したアムラスと同様、アンブローンの発言には誰もが険しい表情を浮かべていた。
だがそんな中、またも周囲が騒がしくなり始める。
射影体のアンブローンが大陸下の映像をこちらに飛ばして来るが、映し出された物は奴自身を含めて予想だにしないものだった。
「あらあら、さっきの攻防で認識阻害が解けてしまっていましたか。再展開もしばらく無理そうですねぇ」
“我、創造の神に在りて”――記憶に新しい神光が脳裏を過る。
これまで大陸全てを覆い隠す魔法が発動し続けていたことにも驚きだが、道理で誰もこの地に辿り着けないわけだと得心がいった瞬間でもあった。
逆に浮遊大陸を守って来たヴェールが引っぺがされたということは――。
「世界は大混乱……下手をすれば、撃たれかねないわよ?」
「しかし、先の戦闘の余波は大きい。各部摩耗しちゃってますし、少々負荷がキツ過ぎましたねぇ。おっしゃる通り、修復する前に人々が突っ込んできちゃいそうです。何せ人々からすれば、新たな新天地……あら、もう偵察部隊が……」
「眩しい……」
大陸周辺をフワフワと浮かぶ魔力球。
それはどこかの国、権力者が放ったであろう偵察魔法。フェリスが魔力弾を放って即座に叩き落としたが、下の連中がどうなっているのかについては想像に難くない。
「“世界が耐えられない”……か」
「玉座とやらに戻る。この世界には、強大過ぎる存在ということなのでしょうね」
オーディンの言葉を額面通り受け止めるなら、あの神々は世界というキャパシティを超えた存在。
そんな連中との戦闘だからこそ、これまで覆い隠されてきた浮遊大陸が暴かれてしまった。
であれば、アンブローンの言う通り新天地として侵略して来るのか、エゼルミア陛下の言う通り敵対者とみなして撃って来るのか――どちらにせよ、芳しくない状況なのは明らかだった。
「迷っている場合じゃないか」
こんな状況でも新たな偵察魔法は飛び交い続けている。
俺もホルスターから引き抜いた小剣を投げつけ、魔力球の一つを撃墜した。
「ヴァン・ユグドラシル。何のつもりだ?」
「このままでは下の連中と戦争一直線だ。仲良く手を繋いで協力する気はないが、どうやら今この大陸を失うわけにはいかないようだ」
正直、押し寄せる事態の波に行動指針を決めかねていたが、こうなってしまえば即断するしかない。
あの神々の支配から逃れる為には、全ての者の力を結集する必要があるはず。それは全ての国々であり、“神断の罪杯”も含まれる。
「ほぉ、ではどうするおつもりで?」
「呉越同舟……今残っている全ての国で同盟を組む。それぐらいしないと、どうにもならないだろう? 神々は……」
「勝手な理屈だな」
「お互い様だ。それに仲間になるわけじゃない」
「なるほど、互いに利用し合おうというわけですか?」
「落とし所としては、ちょうどいいと思うが?」
特にそろそろ力を取り戻したであろう巨人族辺りは、嬉々として侵略して来るだろう。
今は下で内輪揉めなどしている場合じゃないし、知らぬ間に世界が支配されるなんて誰もが御免被るはず。
加えて、“神断の罪杯”側としても、魔眼を持つ俺とエゼルミア陛下がいなければ、“ミストルティン”を完成させることは不可能。
ギブアンドテイク。どちらにも利があるのだから、話し合いの卓に付かざるを得ない。
故に歴史上初めてとされる、世界全土を巻き込んだ話し合いの場が設けられることとなった。
第7章はこれで完結。
いよいよ次からが最終章となります。
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