第173話 集う神々
「これだけ打ち込んで無傷とは……化け物め!?」
アムラスの苦々しい声が浮遊大陸に響く。
それは多分、この場にいる全員の感情を代表した物。誰もが戦闘態勢を厳にして、天に佇む神へと視線を向ける。
「やれやれ、寝覚めには少々ハードじゃのぉ」
「その割には余裕そうだが?」
「ふん、過去の亡霊が……」
「人間風情がこの儂にそんな口を利いて……む、むむっ! 貴様らのその瞳、ほぉ……これまた面妖な……人間というのも、中々どうして……」
「会話する気は皆無というわけか」
対するオーディンは魔眼を持つ俺たちを見下ろし、何やら興味深そうな視線を向けて来る。まるで大道芸の動物か何かに見られている様で非常に気分が悪い。
だが理由はどうあれ、俺たちの持つ魔眼は奴のお眼鏡に適う物だったということなのだろう。神々が実在していたことと合わせて、この魔眼が何かしらの対抗手段として作用する可能性が出て来たということなのかもしれない。
「……お前たちが神話の神々だとして、一体何が目的なんだ? この世界はかつてとは様変わりしているはずだ」
「最早、儂らの居場所はないと?」
「そうは言わない。だとしても、表舞台に出て来るのなら受け入れる準備が必要だ。人間も、モンスターも……」
「ふぉっふぉっ! そんな準備は必要ない」
「何を……」
「神々と人間たちは、そもそも次元を異にしておる。儂らが是とすれば、黒も白になる。儂らが滅びを望めば、貴様らは滅んで然るべき。それがこの世界の理……絶対の真理」
「そんな勝手な理屈! 罷り通ると思っているのか!?」
「ふぉふぉっ! そもそも議論になっておらんのぉ。罷り通るか……ではなく、そう決まっておるのだから、従うのが必然。それ以上でも以下でもない。少なくとも、儂らが戻って来た以上、貴様ら人間は少し数を減らしておくべきか。数だけおっても邪魔じゃし?」
「神を名乗る亡霊! 貴様らは、こんな連中が天に立つことを許すというのか!?」
「ゼインっ!?」
まるで俺たちに対して放った言葉。
珍しく驚きを見せているフェリスを尻目に、紅蓮の光を纏って隻眼の老人へと向かっていく。
「じゃあお前なら良いとは思わないが、今回ばかりは初めて気が合ったな!」
「ヴァン!?」
黒翼天翔。
漆黒の流星となってゼインの後を追う。
「ほぉ、やはり人間独自の進化。儂らの知り得る範疇ではないのぉ」
対して片手で髭を梳きながら、空いたもう片方の掌が迫って来る。
ただの掌底。
しかし、その圧力には凄まじいものがあった。
「“大地裂く滅獄の剣”――ッッ!!」
「“天柩穿つ叛逆の剣”――ッ!」
“禁忌魔眼・解放”発動状態での二重斬撃。
閃光が弾ける。
「くっ、ヴァン!? それに……」
「まさか、あの二人でも……」
斬撃を打ち込んだこちらが圧力で弾き飛ばされた。
浮遊大陸に二つのクレーターを作った俺たちの傍に、皆が集まって来る。
「儂の身体に傷を付けるとは……それに治りが鈍い。興味深いが捨て置くわけにはいかんかのぉ」
そんな俺たちとは対照的に、訝し気な表情で自分の掌を見つめるオーディン。
奴の掌には、二つの裂傷が刻まれている。
「ちっ、こんな奴が地上に降りて暴れでもすれば、世界は終わりだ。もう神獣種ですら、可愛く見えて来るな」
「ふん、分かり切ったことだ。有象無象など、一睨みで消し飛ぶ」
これまでに類を見ない怪物。
死闘は必至。
誰もが視線を鋭くする。
そんな中、オーディンの全身がブレた。
「起き抜けではしゃぎ過ぎたかのぉ」
「――ここがリミットだろう」
「――そういうことだな。世界もアンタの存在に耐えられない」
更に存在が希薄になっていくオーディンの両隣には、二つの巨大な影が姿を見せる。
筋骨隆々で巨大な槌を携えた存在。
オーディン以上の目深帽子を被り、他の二人よりすらっとした体躯を持つ存在。
「トール、ロキ……貴様らも目覚めたか。しかし世界の負荷を与えたのは儂だけではない。同時に貴様らが出て来たのも…」
「世界そのものが軟弱になったのだ」
「違いない。ここに来るまでチラッと下界を見て来たが、どいつもこいつも……なぁ。いくら下界の生き物とはいえ、あの時代とは比べるまでもねぇ」
前者がトール。
後者がロキ。
幾星霜の果て、繰り広げられる神々の集いとでも言うべきか。
「まあいい。今は我が宮殿へと戻ろう。これ以上、儂らが顕現していたら世界そのものが吹き飛びかねん」
トールは腕を組んで仁王立ち。
ロキは肩を竦めており、中心に立つオーディンは嘆息を漏らす。
すると、彼らの輪郭が更にブレ、大気に溶ける様に薄くなっていく。
「また会おう、人間どもよ」
直後、世界を滅ぼしかねない圧力を放っていた三人の神は世界から消え去る様に消失した。
だが白い吹雪は、未だ消えることはない。
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