第17話 月華騎士団《ヴァーガルナイツ》
――四日後、ニヴルヘイム皇国・首都フヴェルゲルミルにて。
「既に知っている者もいるかと思いますが、彼――ヴァン・ユグドラシルは本日より、我が国が誇る“月華騎士団”に正式編入する運びとなりました。皆、仲良くするように」
この場を取り仕切るのは、第二皇女――セラフィーナ・ニヴルヘイム。
そして、壇上に立たされて皆の視線を一身に浴びているのは、この俺自身。セラからの紹介を受け、どこかに転入してきた子供か――と内心苦笑をしながら、視界一杯を埋め尽くす剣呑な眼差しから現実逃避をしていた。いや、そうするしかなかったと言うべきか。
ちなみに月華騎士団とは、ニヴルヘイム軍の精鋭部隊を指す。先のインフェルノケルベロスとの戦いで見かけた連中も、月華騎士団の一員に該当するらしい。それを知ったのは、つい二日前のこと。
「ユグドラシル卿は、私直属の特務近衛兵……いえ、専任騎士となるために通常の指揮系統からは外れますが、月華騎士団の一員であることに変わりありません。そのため、最初の数日はふるまいや規則等の習得・把握をしてもらうことになりますので……」
「セラフィーナ皇女殿下! 発言してもよろしいか!?」
「ハーナル卿……構いません。発言を許可します」
「はっ! お心遣い、痛み入ります!」
そんな時、いよいよ我慢の限界を超えたとばかりに鎧を着込んだ男性が声を上げ、セラフィーナの紹介が遮られる。
「率直に申し上げまして、殿下のお考えは理解出来かねます。どこの馬の骨とも分からぬ小僧を殿下の御傍に置くことなど、ここにいる誰一人として納得している者はいません!」
「そうでしょうね。皆からすれば、当然の反応だ」
「なら、どうしてそんな小僧を!?」
そのまま頭部のリーゼントが特徴的過ぎるハーナルと呼ばれた男が語気を荒げれば、他の連中からの敵意も激しさを増していく。
だが俺やセラにとっては予想の範囲内であり、動じることはない。騎士団の連中がヒートアップしていくのとは対照的に、終始顔色を変えることはなかった。
「ユグドラシル卿に関しては、こちらとしても熟考を重ねた結果……としか伝えることはできない。でも彼の力と覚悟は確かなものだ。それも単身で神獣種を渡り合ってみせるほどに……。疲弊し続ける我が国の力となってくれると断言できる」
「単身で、神獣種と!? ならコイツが魔眼を扱う……!?」
神獣種という言葉を受け、周囲の空気が張り詰めたのがはっきりと分かった。
平常通りなのは、涼しい顔をしているセラ、端で苦虫を噛み潰したような表情をしているゼーセル・オーダー、それと隊列に並ぶ一昨日知り合った若い男女ぐらいのものだ。
それ以外の全員が一様に敵意を向けて来ているとなれば、いっそ清々しい歓迎っぷりだろう。
非難轟々、四面楚歌。そんな言葉がこれほど相応しい状況はない。
尤も、俺にとっては見慣れた光景であるわけだが――。
「魔眼は滅びと災厄の象徴。そんな者を我が国に迎え入れるなんて……皇女殿下、お気は確かなのですか!?」
「そうです! まさかコイツに何かされたんじゃ……」
魔眼保持者がニヴルヘイムに入国したと噂が広がっていたのは確実。それなら、この連中の集団感情も容易に想像がつく。
「――私とて貴方たちと問答を重ねることなく、急な軍事決定をしてしまったことを詫びる想いはある。だがこれ以上の問答は無意味……この一件は皇族として判断を下したつもりです」
「皇女殿下の御心は分かりました。ですが、栄光ある騎士団で根草なしの旅人をのさばらせるばかりか、殿下の御傍に付かせるなど、我らの誇りと覚悟が許しません!」
憤慨、妬み。
彼らの中に渦巻くのは、きっとそんな感情。それも俺が魔眼保持者であるということに対してではなく、もっと直接的な感情なのだろう。
アースガルズのような歪んだ選民思想ではないにしろ、彼ら騎士団も自分たちが国を守る立場であることに誇りを持っている。その立場を勝ち取るまでにも、様々な苦悩と困難を乗り越えてきたはずだ。
そうして一人、また一人と集ったのが、月華騎士団。この国の護り手。
そんな中、突如現れた旅人といきなり肩を並べろと言われた。その上、旅人が忌み嫌われる魔眼保持者だったばかりか、皇女直属の特務将兵に任命されるという超特別待遇を受けたわけだ。
つまり俺という存在自体、敬愛する皇女自らによって騎士団が力不足だと示されたも同然。これで納得しろというのが無理な話だろう。
無論、セラの想いを知らないからこその反応であるのは言うまでもない。彼女もそれを分かっているからこそ、あくまで淡々と言葉を紡いでいく。俺も彼らに憤慨することはない。いや、必要がないというべきか。
「それで……貴方たちは何が言いたいのですか?」
「この混迷の情勢下で不安因子を取り込むなど正気の沙汰ではない。我ら月華騎士団は、その少年の存在を認めることはできません」
「改めて、その言い分は尤もですね。なら、彼の有用性を証明すればいいのでしょう?」
「は……?」
「ヴァン、お願いしますね?」
どちらの主張にも正当性がある。後はこの場をどう鎮めるのか――皇女のお手並み拝見程度の気持ちでやり取りを聞き流していると、当の皇女様はこちらを向き凛麗な笑みを浮かべた。
「は……はあぁっ!?」
対する俺は、何事――とセラにジト目を向けるが、その背後で月華騎士団の連中は、信じられないものを見たかのように大口を開けて驚いていた。
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