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第161話 灼熱の陽炎

 ムスペルヘイム近郊に臨時拠点を構えてから数日――。

 少しずつではあるが、情報は集まりつつあった。


「街の各所に火焔が灯っている炎の国。でも、それ以外に特徴らしい特徴はなさそうだね。治安も悪くなさそうだし」

「ええ、文明レベルはそれなり。軍部のレベルもそれなり。住んでいるのは、アース人……」

「南の果てのニヴルヘイムってとこか」


 このムスペルヘイムという国――鏡映しとまではいかないが、雰囲気というか在り方にニヴルヘイムと近い印象を受けた。生まれてからニヴルヘイムで育ったセラが否定しない辺りからして、多分誰もが似たような感覚を覚えていたんだろう。

 他国の争いに手を出さず静観し、外からでは実情が掴みにくいことも含めて。

 まあ最近ニヴルヘイムの治安は、とんでもないことになっている気がしないでもないが、アルバートを含めて外部からの働き掛けがあっての異常事態(イレギュラー)とあって、割愛すべきだろう。


 ともかく、ニヴルヘイムと似ているのであれば、ムスペルヘイムは問題のない平和な国であるはず。

 だが誰もが釈然としない表情を浮かべていた。


「“終焉の炎神”、“星光の聖地”……ねぇ」

「その言葉が一体何を意味しているのかは定かではありません。ですが、まだ核心部分が不自然(・・・)に隠されているのは確実でしょう」


 確かに明らかになった情報だけを素直に受け取れば、全く持って問題ない。

 統治の行き届いた国であり、平和そのもの。

 未だ乱世に顔を出していないことも相まって、ある意味では九つの国で最も優れた国とすら言えるのかもしれない。

 その一方、情報が秘匿(ひとく)されているのかと思って気合を入れて調べてみれば、予想に反して現状。短期間でも様々な情報を手に入れることが出来ていた。いや、そうさせられたのかもしれないというべきか。


「普通なら何の関係もないと退くところだが……」


 地形、地名、国柄や商工業――事実として一般的に必要な情報は、かなり詳細な部分まで集まっていた。しかし逆を言えば、それ以外の情報は煙に巻くかの様に薄いヴェールに包まれている。そんな言い知れぬ感覚の所為で誰もが気持ち悪さを覚えているということ。

 自分たちで情報を手に入れたのではなく、そもそも情報が手に入る様になっていた。そこまでが知られても問題ない領域ということなのだろう。


「この違和感……あまり好ましいものではありませんね」


 国家運営は綺麗事だけで(まか)り通るわけじゃない。そうした部分に関わる誰もが、きっと(すね)に傷を持っている。

 情報統制や印象操作もやりすぎれば独裁だが、必要悪として存在しているのも事実だ。

 言ってしまえば、自分の既得権益(きとくけんえき)を守りながら馬鹿な国民を上手く浮かれさせた上で、国家も滞りなく運営する。そんな全方位にプラス(ウィンウィン)なシステムをすることが為政者(いせいしゃ)の使命であり、優劣を分かつ要因でもあるということ。


 故に根幹に関わる情報が秘匿(ひとく)されているのは当然なわけだが、セラたち国家に関わる者が漏れなく違和感を抱いている辺り、ムスペルヘイムが異質なのは否定できない事実。


 結果、何も問題ない素晴らしい国なのかもしれないし、乱世の中心にいる強国なのかもしれない。手に入れた情報の多さと言い知れぬ違和感が相まって、誰もが二の足を踏まざるを得ない状況となっていた。

 いっそ、情報統制が厳しくて何も分かりませんでしたとでもいう方が、即潜入に踏み出せて楽とすら思えるほどに――。


「……行くしかない。自分の未来を切り拓きたいのなら」

「ヴァン……?」

「このまま何もしなければ、今までの様な闘いが引き起こされ続ける。今はなんとかなっていても、これからなんとかなる……なんて保証はない。それなら……」

「そうね、一生、誰かの掌の上なんて御免被るわ」

「手掛かりが目の前にあるかもしれない。これも国を守るためというところでしょうか」

「まあ、お忍び旅行……的な? 王様が潜入なんて非常識かもしれないけど、悪い事してるわけじゃないんだし、何もなかったらそのまま帰ればいいわけだし……」


 この選択が正解である保証などない。

 もしかしたら新たな闘いの引き金となる間違った選択なのかもしれない。

 それでもリスクは承知。


 俺たちは南の果ての灼熱の国へと足を踏み入れた。

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