第160話 嵐の前の静けさ
ビーチクライシス――もとい、束の間のバカンスを終えた俺たち一行は、上位種二体を含めたモンスターの遺骸を見て、大騒ぎになっているスルーズの街を人知れず後にした。
初見が神獣種だった上、ニヴルヘイム加入直後にガルダクロウと戦った辺りで既に感覚が麻痺し始めていた感は否めないが、そもそも上位種のモンスターが人間の領域まで降りて来ること自体が稀。万が一、抑えきれなければ、ちょっとした街程度なら壊滅的な事態を負いかねない自然災害ですらある。
直近、神獣種三体襲来があったり、日常の中で大量の上位種と戦っていたりと、現状がどれほど異常事態であるのかが浮き彫りになった瞬間でもあったのだろう。
そんなこんなでいつも通りの装備に身を包んで旅を進めていた俺たちは、目的地付近へと到達した。
「さて、ムスペルヘイム国境までやって来たわけだが……」
「流石にミュルクの様にはいきませんね。どうやって潜入したものでしょうか」
セラの言う通り、似たようなシチュエーションだったミュルクの時とは違い、今回はあまり不用意なことはできない。
何せ、今から訪れようとしているのは、この乱世を生き抜いている大国の一つ。軍とは名ばかりの連中がいただけのミュルクとは、文字通り次元が違う。それに何より、ミュルク潜入はあくまでアースガルズの一部だったから――という大義名分があっての行動。
今から俺たちがやろうとしていることとは、似ているようで根本的に違う。
「潜入って言っても強行突破は揉め事の元だし、近くで情報収集をしてからって感じなのかな?」
「それがベターでしょう。ですが、皆国元を空けている以上、あまり時間はかけてはいられない。状況次第では、一度戻るなり戦力を分けるなり、柔軟かつ正確な対応を迫られる事態です」
俺たちがすべきは、この難しい状況の中で選択肢を間違えないようにしなければならないということ。
アイリスやアムラスの発言は尤も極まりない。
「そうねぇ、とりあえず外から内情を調べた上で、突っ込むか引くかを見極めるというところが安牌かしらね。下手をすれば、四国同盟とムスペルヘイムで戦争ってことにもなりかねないもの」
「我らとてムスペルヘイムとの外交問題は本意ではない。今はそうするしかありませんね」
話し合いの結果、意見は一致。
ムスペルヘイムが“神断の罪杯”と通じている悪の国で、俺たちが正義の味方――なんてことはあり得ない。
ましてや我が物顔で突撃して、当たり前の日常を謳歌している人々に危害を加える権利などあるはずがない。
実際、武器を手にしている以上、誰かを傷付ける覚悟自体はできている。現に俺たちも戦争に参加して――いや、何かを犠牲にして生きているのだから、かつてのカールナイツの様な存在を何人も生み出しているのだろう。
だが不必要かつ好き好んで、そんな存在を生み出したいわけじゃない。その想いは皆同じだったわけだ。
俺たちは世界の王でもなければ、何をやっても許される神様ではないのだから。
「……それにしても灼熱の国か。アースガルズぐらい大っぴらに情報を公開してくれていれば、ここまで頭を悩ませずに済むんだが……」
「ですが、情報が秘匿されているということは、何があるとも考えられる。吉と出るか凶と出るか……。私たちの選択が前者であることを祈る他ありませんね」
「――!」
セラの外套の中から顔を覗かせて敬礼しているニーズヘッグを見て、皆が表情を軟化させる。その後、それぞれが行動を開始した。
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