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第158話 ビーチクライシス

「え、なんで!?」

「冷静に考えてみろ。俺には無関係だ」


 本当に驚いたような顔をしているアメリアを前にして、頭痛が増していく。更に多少掠れてはいるが、声帯まで老け込むはずもない。つんざく様な甲高い声が俺をイラつかせる。


「どういう思考回路をしているのか知らないが、俺がそんな言葉を受け入れるとでも思っているのか? ここに至るまでのやり取りを思い出してみろ」

「でも、これは愛の試練だったのよ! 私はヴァンのところに辿り着いたわ! そう、別れた二人の道は今交わるのよ!」

「えっ、と……?」


 俺の隣で話を聞いていたアイリスとジュース両手に戻って来たアムラスの目が文字通り点になった。

 一方、セラは構ってアピール中のニーズヘッグをじゃれ付かせており、海水でひんやりした温度を堪能しながら我関せず。エゼルミア陛下に至っては、大道芸の猿でも見るような目でどこか楽し気ですらある。


「……清々(すがすが)しい程に前後の文脈がぐちゃぐちゃだな。自業自得の被害者アピールはもういいから、さっさと消えてくれ」

「えー、ひどーい! ずっと一緒にいる!」


 ささやかなバカンスぐらいは、ゆっくりさせて欲しいという思いを抱かざるを得ないやり取り。


「同じ人間と会話しているとは思えん。なんでモンスターと戦ってる方が楽なん……だ?」


 コイツ相手にデリカシーなど不要だろう。

 いっそ戦っている方がマシだと毒を吐き捨てる傍ら、アメリアの背後――視界の端に映り込んだとんでもない物体に気が付いてしまい、思わず目を擦ってしまう。


「え、アレって……」


 それは背中越しであるアメリアを除いた皆も同様であり、信じられない物を見るかの様に目を凝らす。


 鼻の下を伸ばしながらセラたちを見る野郎共。

 とりあえずこれは不問としよう。


 同じく鼻の穴を大きくしながら俺たちを見る女たち。

 これもまあいいだろう。


 美女を連れた集団に女が金切り声を上げながら乱入した修羅場に興味津々な野次馬。

 人の苦労も知らずに腹立たしいが、一人一人対処している場合じゃない。


 でも――。


「地面から脚……?」


 俺たちが唖然としたのは、地面から吸盤の付いた物体が出現してゆらゆらと揺らめいている光景。


「モンスターと戦ってる方が楽とは言ったが、本当に来いとは言ってないぞ!」

「そこの人、逃げ……」

「ちょっとヴァン! 逃げようったって、そうはいかないんだから!」


 会話の滞りっぷりがあまりにも混沌(カオス)

 とはいえ、付近にいた連中も足元から出現した触手に気が付いたようで、悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 だが一人だけ逃げ遅れた者がおり、アイリスが語気を強めながら言葉を紡ぐ。


「ちょっと、何で逃げないの!?」


 いや正確には、逃げ遅れた男性は内股でぴょんぴょんと跳ねながら健気に前進しており、逃げる気がないわけではないという方が正しい。


「あ……いや、アレは逃げないというか、逃げられないというか……。物理的に……」


 いくら俺たちがビーチで注目されていたとはいえ、男性との距離は微妙に開いている。さっきのアイリスの言葉で、初めて触手の存在に気付いたということは、俺たちのことを見ていたという証明。男性から見て視線の先に収まるのが水着姿の女性陣であるのは明白。

 つまりあの男性は、セラたちへ劣情に(もよお)した挙句、公然の場でハッピーなジョブに勤しんでいた大変な変態であるということ。


 なんという理由で死にかけているんだ――と頭を抱えたくなる思いだが、そんな感情を置き去りにするように更なる触手が出現する。


「いや、ともかく! おじさん……もとい、()じさんに触手が巻き付くのは、色んな意味で(まず)い! 目が腐るッ!」


 とはいえ、俺が水着姿ではなくフル装備なのが幸いした。

 ほんの一瞬だけ脳裏を過りかけた最低な光景を振り払う様にビーチを疾駆し、逆手で引き抜いた“デュランダル”で有視界域の触手を叩き斬る。


「ちっ、末端の触手だけ斬っていても話にならないか……」


 触手に痛覚が通っているのかは定かじゃないが、地中や海中に変化がないことから見て、恐らく違う。

 挙句、触手一本で人間を縛り上げられる太さともなれば、十分過ぎる脅威だった。


「本体は!?」


 更に五本ほど出現した触手を纏めて叩き斬った最中、文字通り海面が盛り上がっていく。


「■■■■――!!」


 薄蒼の身体をした巨体。

 下半身には先ほどから出現している触手を大量に備え、上半身は烏賊獣人型イカのヒューマノイドタイプという異形の魔物

 “エルドクラーケン”――海中に住まう上位種。


「このクラスのデカブツがこんな浅瀬に姿を見せるとは……」


 一方、このモンスター、生息域は深海とされており、人間の領域(テリトリー)まで進出してきた事自体、異常と言わざるを得ない。

 やはりこの南の地で何かが起こっているという確信出来たのを尻目に黒翼で飛翔。触手を喰らって得た力で、海面を巻き上げながらクラーケンに肉薄。聖剣に漆黒を纏わせる。


「厄介だが、脅威にはなり得ない。これで……!」


 黒閃乱舞。

 クラーケンの上半身を斬り刻む。

 更に黒翼から発生させた刃の嵐を叩き込めば、海の魔物はその命を散らしていく。


「……っ!?」


 だがその直後、地中から出現した触手がセラの四肢を絡め取った。

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