第156話 一時休息
ムスペルヘイム手前の街、“スルーズ”。
疲労した状態で危険地帯に踏み込むのはリスクが高いと判断した俺たちは、この街でひとまずの休養を取ることとなった。
「……陛下、本当にその格好で街を歩くつもりなのですか?」
「あら、似合ってない?」
「いえ、そういう論点ではないかと……」
振り返ったエゼルミア陛下の胸が音を立てて揺れ踊る。普段も大概露出が多いとはいえ、際どい黒ビキニ一枚では、色んな意味で目に毒であり――。
「郷に入っては郷に従えというでしょう? ともかくこの暑さをなんとかせねば……」
「駄目だ、こっちの皇女も完全に暑さでどうにかなってるみたいだな」
更に更衣室から戻って来たセラの胸も音を立てて揺れ踊る。露出度はエゼルミア陛下と同程度であり、際どい蒼色ビキニから白磁の肌をこれでもかと晒していた。
何故こんなトンチキな事になっているのかと言えば、周辺の地域では誰もが薄着で過ごしているから。熱帯ということもあって当然なのかもしれないが、むしろ普通の格好をしている方が目立ってしまう程だ。この二人はそれを免罪符に露店で水着を購入して、今に至るということ。
日焼けとか気にならないのか――と思わないでもないが、その辺りは魔法で何とかしているようだ。
因みに野郎の裸を晒しても――というのは、人間とエルフの共通認識だったのか、俺たち二人は海パン一丁になることはなかった。むしろ荷物持ちを引き受けてすらいる。無論、外を歩く男たちはその限りではないが。
「……というか、何でアイリスまで水着?」
「分かんないかなぁ、もうっ!」
その後、二人に続いて黄色のビキニを纏ったアイリスが顔を覗かせた。多少フリルが付いていたり、露出度が控えめだったりと違いはあるが、概ね眩しい肌色全開。普段はこういうノリには付き合わない質だろうと、声をかけたが何故か顔を赤くして怒られてしまう。
「――!」
更にその後、水着売り場の近くで売っていた魔女風トンガリ帽子を被ったニーズヘッグも女子更衣室から姿を見せ、混沌とした俺たちの様子を見て首を傾げていた。
「ともかく、今の私たちには休息が必要よ」
「ええ、異論はありません」
民宿の近くのビーチで日光浴をしながら、二人の王がそう呟く。
何をこの状況で休息など――と、反論する者は誰一人としていなかった。
「まあ今のまま、あの人たちや神獣種と戦えるとは思わないもんね」
「ここに来るまで連戦のオンパレードだったからな」
ニヴルヘイムを発って二週間と少し。
この間、群れのリーダーとなるような上位種を見飽きてしまう程に、ひたすらモンスターと戦う毎日だった。
先日遭遇したスコルタイプやガーゴイル、クインコブラを始めにとして、炎の竜剣士“ファイアドラゴニュート”、枯れた骨騎士“ドライスケルトン”、殺人刃宝箱“デュアルミミック”――その他諸々、北上しようとしていた多くのモンスターたち。
連日連夜の闘いで討ったモンスターは、数百ではきかないレベル。色んな意味でちょっと異常と言わざるを得ない。
「確かにこのままでは我らが参ってしまいますからね」
「そういうことよ、アムラス。トロピカルな感じのジュース貰って来て」
「……かしこまりました。全員分用意してもらいましょう」
つまり全員、予想以上の暑さと疲労のダブルパンチで参っているということ。
「――!」
「こら、濡れたまま顔に張り付かないで! きゃっ、ぁ!?」
具体的に言えば、ちゃぷちゃぷと水辺を泳いでいたニーズヘッグに飛び付かれたアイリスが海に猛ダッシュしてダイブ。即座にじゃれ付き始める程度には、暑さでやられている。
王様だの勇者だの、人に見られていることに慣れているだろうとはいえ、最早周りのねちっこい視線に一ミリも動じずダレている辺り、戦闘中とは違う意味で余裕がないというわけだ。大分テンションがぶっ壊れている。
まあ敵地の乗り込む前に休息が必要だというのは、火を見るよりも明らか。
数日滞在して国境越えというのが、全会一致の方針となったが――。
「ヴァン!? ヴァンなのね!?」
肩の力を抜いた瞬間、理外の方向から、理外の物体が突っ込んで来た。
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