第153話 真実へのエピグラフ
「――あら、私もその話に混ぜてもらっていいかしら?」
「貴女は……!?」
振り向いた俺とセラは、キョトンとしているアサレアを他所に目を見開く。
「お久しぶりね。二人共」
「その節はどうも……」
視線の先に佇んでいたのは、エゼルミア・アルフヘイム。アムラス・リンドールの二人。
俺たちにとっては共に数々の死闘を乗り越えた戦友であり、盟友だった。
「貴女という人は、また勝手に我が国へと……」
「前よりも酷いことになっているって聞いたけど、急いだ方がいいんじゃないのかしら? それに補給物資を持って来たんだから、そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「補給物資……貴女自ら?」
「ええ、そちらには大きな借りがあるし、前にこの国に来たときにはゆっくりできなかったものね」
超VIPである他国の王と筆頭近衛兵の登場に驚かない理由はない。
二度目の不法侵入が霞んでしまう程に。
「えっと……?」
突如始まった俺たちの会話。
状況が呑み込めるはずもないアサレアが首を傾げる。
それに気づいたエゼルミア陛下が自己紹介がてら立場を明かした後、アサレアの困惑が悲鳴と共に驚愕に変わったのは言うまでもない。
「――」
因みにニーズヘッグは我関せずでおやつタイムの真っ最中だった。
「――ふぅん、神獣種の襲来に融合……“恤与眼”保持者との遭遇ねぇ……」
「ええ、色んな意味で衝撃的でしたね。おかげで我が国はこの有様ですが」
復興活動に勤しむ面々を一瞥しながら、状況を整理していく。
重要な事実が雪崩のように押し寄せて来たのは言うまでもないが、特筆すべき情報は神獣種が何らかの役割を持つ生物であること。
“恤与眼”保持者が立場を偽り、ニヴルヘイムに侵入していたことというところか。
そして、“禁忌魔眼・解放”の発現が何らかの意味を秘めているということも――。
「神獣種とは、世界の調律者。連中はそう言っていたが……」
「他の生物とは一線を画す存在というわけね。全ての生物には、何らかの存在理由があるはず」
「植物が緑を育み、草食獣がそれを食らい、肉食獣が更にそれを食らう。ならば、神獣種は……」
「肉食獣を食らう人間を間引く……神の獣。勝手に襲来して破壊を撒き散らして去っていく。何とも迷惑極まりないですね。ですが……」
「“神断の罪杯”は明確に神獣種と敵対している。それだけは事実であり、真実とってところか」
フェリスと名乗った白の少女。
神獣種へと向ける敵意は本物だった。実際に目の当たりにしたのだから、疑いようもないだろう。
「その、マーズは……」
「世界の裏で暗躍している組織の構成員としか答えようがないな」
「でも、幼馴染なの。それにアンドラスに襲われた時に行方不明になって、違う街に逃げてる最中に再会して……」
「なるほど、そこまではっきりしているということは、記憶の改竄というより、魔眼の力で薄っすらと自らの存在を挟み込んだのでしょう。周囲が感じる違和感を消していくように……」
「なら、元々のマーズは……?」
アサレアに答える者はいない。
皆の沈黙とニーズヘッグが励ますように彼女の頬を撫でていることが全ての答えとなっていた。
だがそれでもフェリスという白の少女が、この街で過ごした日々がなかったことになるわけじゃない。後は本人が過去と折り合いをつけられることを願うのみ。
それこそがアサレアの新たな闘いなのだから。
直後、アサレアはセラの指示を受けたニーズヘッグと共に復興活動へと戻って行く。
因みにカールナイツについては、ニヴルヘイムの復興が進み次第、独立。この国から去っていく運びとなっていた。
「“解放者”……カギを握るのは魔眼。そんな理由で目を付けられているのなら迷惑な話よね」
「その一方、魔眼を冒涜する様な“呪眼兵器”なんて代物も保有している。しかも以前の物は、見るからに突貫工事……。もし完成度が上がったのだとすれば……」
「少なくとも、魔眼を持つ者や一部の人間以外は太刀打ちできなくなるでしょうね」
「でもあれだけ強い人たちが揃って、更に力を求める目的なんて……」
脳裏に合成騎士を始めとした神獣種の後ろ姿が過る。
人智を超えた超常の存在。
世界を統べるそれらを打倒するのが、連中の目的とするのなら――。
「人が神の獣に抗う力……それが魔眼なのか?」
魔眼を理解して順応していく中、この忌まわしき力の真実へと到達しつつあるのかもしれない。
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