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第149話 交わる禁忌の瞳《Dual Forbidden》

 六つの槍が旋風を纏って突き出される。

 俺たちは他の連中にヘイトが向かない様、()えて奴の間合いへと飛び込んで、各々が多腕、頭から繰り出される激しい攻撃と斬り結んでいく。


「さて、このデカブツをどうしたものか……」

「力任せに押し出すのは、建設的ではありませんね。出来るのかという問題もありますが……」

「正攻法では、善戦止まり。正直厳しい……」


 俺が全面に立って奴と相対し、白の少女がそのサポート。セラが撃ち漏らしを迎撃しながら、カウンターの機会を虎視眈々(こしたんたん)と伺う――という陣形(フォーメーション)での戦闘。

 戦況はギリギリ互角というところ。

 無論、今はという言葉を付け加えるのが大前提ではあるが。


「■■■■■■――!!」


 奴が(またが)る巨狼が咆哮し、射出されたブレスを漆黒の交差斬撃で上方へと弾く。

 次いで吐き出された毒液塊を翡翠の砲撃が塞き止め、その大部分を蒸発させる。

 更に二つの直槍(スピア)による乱撃が放たれ、蒼銀の大刀によって打ち払われた。


 だが並行して全ての攻撃を繰り出していても、多腕が完全に塞がるわけじゃない。膨大な魔力を纏いて、次々と連撃が迫り来る。


「腕、たくさん……」

「厄介ですね!」


 迎撃を完了した直後の白の少女が二叉槍(バイデント)を、黒翼で飛翔した俺が三叉槍(トライデント)を、攻撃の硬直から復帰したセラが直槍(ランス)を捌いていくが、今度は最初に迎撃した巨狼や大蛇が牙を剥く。


 一撃一撃が必殺の破壊力。

 代わる代わるの迎撃でどうにか――という現状は、まるで津波の中を必死に泳がされているかの様な感覚を味合わされるものだった。


「機動力が封殺されている事だけは唯一の救いか……。でも……っ!」


 フヴェルゲルミルの街は、元より人々の栄華の集合体。更に周囲を城壁に囲まれている。

 奴からすれば、人間の建造物など移動の妨げにならないとはいえ、あの巨体なのだから天馬の疾走力――機動力の低下は決してゼロではない。

 無論、上からズドン――と大技を放たれれば、俺とニーズヘッグ以外追えなくなるということもあり、空中に逃さぬように奴の殲滅領域(キルゾーン)に身を晒して近接格闘戦を行っているのは言うまでもない。

 結果、この街は形を保っていられるということ。

 だが今はそこが限界地点だった。


「■■、■■■■■――!!」

「ちっ!?」


 ここまでの実戦で新たな領域へ体が慣れ始めているとはいえ、今の俺はオージーン戦より出力が低い。あの時の様な暴走覚悟ではないのだから当然だろう。

 当然、さっきの闘いで消耗しているのも言うまでもなく、そう遠くない内にセラや白の少女の限界も訪れるだろう。

 つまり今は(こら)えているものの、相当に拙い状態であるのは火を見るよりも明らか。現に致命傷ではないが、俺たちの身体にも少しずつ傷が増え始めていた。


「訂正、正攻法では無理。致し方ない」


 だが閉塞された闘いの中、翠紅の光が瞬いた。


「これは……!?」


 体の奥底から力が膨れ上がって来る。

 漆黒の光に翡翠の光が織り交ざっていく。


「このままでは全滅。力を集約する」


 俺の身に起こっている現象としては、先のグレイブ、シェーレと同じもの。

 だが開放状態の“叛逆眼(カルネージ・リベルタ)”に、同じく開放状態の“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”が合わさっているのだから、文字通り次元が違う。

 それも天地を画す雲泥の差で――。


「ヴァン……!?」


 全身から放出されるのは、膨大な力。

 黒翼は二対四枚へと形を変え、更に巨大化。漆黒の波動とは別に、翡翠の粒子を振り撒いている。

 基礎出力が違う。体の奥底から膨大な力が溢れて来る。


「……行ってくる」


 過ぎた力は身を滅ぼす。

 別の魔眼を持っているエルフの女王も同じような事を言っていたと思い返しながら、翼を翻して戦場へと飛び立つ。

 今の俺は、セラの心配を解消してやれる言葉を持ち得ていない。それなら結果で示すしかないだろう。

 多分、彼女の心配は、そこではないのだろうが――。


「■■■■■■――!!」


 六本の槍が一挙に迫り来る。

 纏う烈風の余波で、アサレアが上っていた高台が根本から引っこ抜けて宙を舞う。

 災害を超えた何か。異常な破壊力と言わざるを得ない。


「遅い……」


 だが今の(・・)俺にとっては、もう災害級の脅威とまではなり得ない。

 二刀で捌きながら力任せに押し返せば、奴の巨体が僅かに揺らめいた。


「おいおいおい! あの化け物と正面切ってやり合ってやがるぜ! 流石、旦那って言いたいところだが」

「どっちが怪物なのか分かりませんね。陛下は勿論、あの小さな少女もですが……」


 これ以上、攻撃で街を焼くことは許さない。

 半面、余波がとんでもないことになっている為、プラスマイナスでマイナスな気はしないでもないが、今は更に出力を上げて異形の怪物に攻撃を加えていく。


「■、■■■■■――!」


 流石の奴も俺の異変を感じ取ったのだろう。

 六本槍を起点にして、その中心に特大の魔力を収束させ始める。

 それはたった一発でフヴェルゲルミルの街が消し飛びかねない程の力を内包しており、戻って来たアイリスとニーズヘッグが魔力球に直接攻撃を打ち込んでも、微動だにすらしない程の出力だった。


「お、終わった……」


 リアンが長剣を取り零す。

 更にコーデリアたちも迎撃の構えすら取ることが出来ていない。

 何故なら、決死の覚悟で戦うだとか、死ぬ気でやれば何とかなる――だとか、そういう次元の話じゃないから。

 どうにもならない物。運命とか天命とかそういう類いの――。


「■、■■■■■――!!」


 避け様の無い確固たる脅威。

 絶望の光が砲撃となって放たれる。


 そしてニヴルヘイムという国は滅却され、人々の営みが焦土と化そうとした時――翠紅を纏う蒼金の光が輝いた。

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