第144話 呉越同舟《Chaos Impact》
「この、光! まさか……!?」
降り注ぐ高台が更に中腹で砕け、左右に分割される。両方の破片が地面にめり込みながら墜落するが、民間人たちの所は完全に無傷。
目を見開いて現実を受け止められていない彼らの先陣に立つのは――。
「マーズ……!? あれ、っ、でも……!?」
カールナイツの一人であり、今や半ばマスコットとなっていたマーズであるはずだった。
「マーズって、誰、なの……!?」
少なくとも、短く切り揃えられた朱色の髪が、薄緑に変わっていなければ――。
「“認識阻害魔法”……いや、それだけじゃない。この感じは……!?」
そして、少女の瞳にSが二つ折り重なったような紋様と、翡翠の光が煌めいていなければ――。
「――災厄の死徒。滅殺する」
姿を現したのは、“神断の罪杯”の一員である白の少女。衣装こそ違うが見紛うことはない。
更にアサレアが零した“誰”という言葉こそ、マーズ・エリュニスが仮初の姿であることを示していた。
何せ、その瞳に顕現しているのは、“恤与眼”。
それも聖冥教団の連中に宿っていた贋作ではなく、真作の魔眼。マインドコントロールに頼らなければならなかった連中とは雲泥の差であり、カールナイツの記憶に自らの存在を付与、改竄するなど容易いことだったのだろう。
だが俺たちを驚かせたのは、彼女の侵入と魔眼の存在だけではなかった。
「神獣種と戦っている……?」
その理由は、白の少女がアイムと戦闘を開始していたから。
つまり“神断の罪杯”にとっても、神話の怪物は制御できるものではないのだろう。だが俺たちとは何度も刃を交えた間柄なのだから、ニヴルヘイムが滅ぼうが関係ないはず。
行動を共にしたカールナイツに仲間意識を抱いて複雑な気持ちになった――というのも、ない話ではないかもしれないが、それだけの理由で三体の神獣種が飛び交う戦場で大立ち回りするというのは、あまりにも不合理過ぎるだろう。
少なくとも、彼女は熱血で先走るタイプでないと断言できる。
何故なら、彼女の眼差しは意志が感じられない無垢なものでありながら、どこか冷たさも秘めていたから――。
「コーデリアじゃないが、本当に次から次へと厄介事を……!」
「■■■、■!」
「そうですね、わが国を土足で……!」
「――!!」
「■■、■■■■!!」
そんな傍ら、俺とエリゴスより遥か上空で戦いを繰り広げていたセラたちが、何度もぶつかり合いながら戻って来る。
両者健在。
加えて、一挙集結。
「其処の貴女、これは一体どういう状況なのですか?」
「答える言葉を持たない。ただ災厄の死徒と戦うというのなら、刃を向けるつもりはない」
「敵の敵は味方ということか。でも、そんな言葉を信じられると思ってるのか?」
「……私としては、すぐにこの場を離れてもいい。フレイヤやゼインと合流した後に仕切り直しても変わらない」
「それなら、今もまだこの場にいる理由から察してくれ……と?」
白の少女は薙刀に翡翠の光を纏わせながら攻撃を払い落とし、首を縦に振った。
此処に残っている以上、カールナイツに対して思う所がないわけじゃないんだろうが、俺たちが少女を信用できない様に、こちらから彼女に手を出さないという保証もないというのが大前提。
実際、彼女の視点で戦略的に見れば、カールナイツやニヴルヘイムが滅んだとて何の痛手にもならないはず。
だがこんな危険な戦場に留まり続ける意味を考えれば、今は刃を向けるつもりはない――という彼女の言葉に多少なりとも信憑性は出て来るだろう。
「アレは私にとっても目障り。今はそれだけでいい」
「連中をどうにかする方が先決……か」
「呉越同舟……そう願いたいところですね。新しいお客さんも来たようですし……」
何にせよ、三体の神獣種を無視していられるような状況じゃないのは明らか。
その上、セラが言った通り、アイムが通ってきた穴からは奴の配下が、上空からはエリゴスの配下らしきモンスターの群れが姿を現していた。
戦闘域に直接現れた前者は論外、後者もアイリスが抱えきれる量を超えている。
つまり戦況は大混戦の様相を呈しており、それぞれがそれぞれの相手に相対して全力を尽くさなければならない状況にあるということ。
「――!」
「ええ、空中の雑兵は貴方に任せます。月華騎士団は地中からの敵にも気を付けながら、配下の蛇騎士に対応。市民と自らの命を守りなさい!」
飛び立つ白い影と散らばる月華騎士団。
人口密集地での戦闘である為、市民を守る為には戦力を分散させざるを得ない。
結果、残されたのは――。
「■、■■■■――!!」
俺とセラと白の少女。
そして、三体の神獣種。
まさかの襲撃、そして“神断の罪杯”との共闘と相成った。
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