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第14話 皇女、襲来?

 夜が明け、朝――を通り越して、既に時刻は正午過ぎ。


 ひと眠りした俺は、寝慣れない豪勢なベッドから体を起こして凝り固まった体を(ほぐ)していた。


「――しかし、とんでもない過密スケジュールだったな。流石に処理が追い付かん」


 それから程なく、着替え終わった俺は窓越しに広がる街々を眺めながらそう呟く。

 これまで辺境地に住み、幾日も荒野を彷徨(さまよ)ってきた俺にとって、目の前に広がる光景は何度見ても別世界。数日前の自分に今の状況を伝えても、信じてもらえないだろう。

 とはいえ、しばらく滞在するとは言ったものの、特に何かすることがあるわけじゃない。

 何より此処(ここ)は国の中枢機関だ。俺がゲストであることは確かだが、詳しい説明を受ける間もなく、寝入ってしまった以上、動きようがない。

 まあ、事後処理でそれどころじゃなかったのだから致し方ないわけだが。


 何にせよ、金銭の心配なく、こんな所で休ませて貰えるのは大歓迎。もうひと眠りするかと開き直った時、突如として扉が叩かれる。

 ある意味、グッドタイミングだと思いながら扉を開けば、昨夜と同様に蒼銀の皇女が立っていた。


「おはようございます。少しは疲れが取れましたか?」

「ああ、おかげさまでな」

「そうですか、それは良かった」


 俺の回答を聞き、セラフィーナが凛麗な笑みを浮かべた。そんな彼女は、アメリアや同年代の少女よりも幾分か大人びているように見える。どこかあどけなさが残っているから成人しているということはないだろうが、女性の年齢は外見では分からない。セラフィーナから薄く目を逸らしながら内心で肩を竦めた。


 因みに、何故セラフィーナを直視出来ないのかと言えば、理由はもう一つある。彼女が昨日より薄手――というより、簡易ドレスのようなラフな衣服を身に纏っているからだ。恐らくは平時の仕事着なのだろう。


 だが白と蒼を基調に金の装飾が成されたそのドレスは、セラフィーナのメリハリがあり過ぎる身体のラインをこれ見よがしに浮き彫りにしてしまう。ミニ丈のスカートから覗く白く長い脚も大概だが、特に目のやり場に困るのは、暴力的なまでに自己主張している彼女の胸元。

 その上、中央に大きく菱形(ひしがた)裂け目(スリット)が入っているばかりか、胸の下半分は剥き出しに近い。海溝のように深すぎる谷間や白い双山脈は嫌でも目に入ってしまうわけだ。かなり際どいというか似合ってなかったら、ほぼ犯罪レベルの露出度だった。


「ヴァン……?」

「いや、何でもない」


 そんな俺の動揺を尻目に、セラフィーナはきょとんとした表情を浮かべて可愛らしく小首を傾げている。

 “この女、天然か”――というのが、正直な感想。

 (もっと)も、セラフィーナが世間知らずの箱入り娘なだけかもしれないし、彼女が身に着けているような服がこの国では普通という可能性もある。聞かぬが吉というものだ。

 そうしてどうにか取り(つくろ)っていると、セラフィーナから思わぬ提案をされる。


「――よろしければ、共に食事など如何(いかが)ですか? それと今日一日、私に付き合っていただけると嬉しいのですが?」

「はい……?」


 皇女自らの提案に唖然してしまう。

 まあ、この国に多少の期間とはいえ滞在するのだから、メッセンジャーが皇女であろうとも断る理由などないわけだが。


 そんなこんなでセラフィーナに誘われて未だ慣れない宮殿を歩き、これまた別世界の豪華なランチをご馳走(ごちそう)になった。その後、やはりと言うべきか、皇女自ら案内と説明をされることとなり――。


「――というわけで、宮殿の方ではかなり不自由を敷いてしまうことになりますが、街に出られる分には制約はありません。勿論、我が国の法に従っていただくことになりますが……常識の範囲内で行動されれば問題ないかと思います。その辺りは把握よろしくお願いしますね」

「流石の俺でも街中で暴れたりはしない。精々ゆっくりさせてもらうさ」

「是非楽しんで下さると嬉しいです。それと心苦しいのですが……」

「室外に出る時は、監視が付くってことだろ? 出来れば、必要以上には干渉されたくはないけど……」

「分かりました。臣下たちにも伝えて徹底させます」


 セラフィーナの要点を()(つま)んだ説明は、大変分かりやすいものだった。その内容を単純に表すとすれば、機密事項に触れない、犯罪行為を働かない、室外行動に監視が付く――という三つ。

 俺とこの国の付き合いは浅い。友達の家に遊びに来たわけでもないし、制限が付くのは当然の処置。というより、これでも緩すぎるぐらいだ。個人的に最後の一つだけは少々気がかりだが、セラフィーナの裁量に期待するしかない。


 それからも談笑を続けながら宮殿を歩き続ける。

 周囲の視線から感じる居心地の悪さにも慣れてきた頃、俺は隣の皇女に疑問を(てい)した。


「それより皇女が普段何をしているのかは知らないけど、俺なんかと一緒にいて大丈夫なのか? 昨日の今日だし……」

「昨日の今日だから、一緒にいられるのです。夜中に出撃したこともあって、皆に休めと言われてしまって……。それに私は国の護り手になれても、普通の将兵にはなれませんから……」

「捕虜への尋問は専門家に任せた方がいいし、ましてや皇女にやらせるわけがないってことか」

「ええ、全ては彼らから証言を得られてからです。この国の身の振り方も……」


 対するセラフィーナはこれまでの穏やかな様子から一転、固い声音で答えを返して来た。


「どうした?」

「なんでもありません。それより、もう少し歩きませんか? 今は風に当たって頭を冷やしたいですから……」


 昨晩二度見せた、あの儚げな表情で――。

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