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第138話 消滅国家《Destruct Burst》

 翌日、混乱を避ける為に集められた首脳陣は、衝撃に目を見開いていた。


「“ニザヴェッリル”が消滅!? まさか、そんな!?」

「一体何があったというのですか!?」

「混乱しているのは私も同じです。ひとまず、冷静になりなさい」


 だがセラに諭されている重鎮たちの驚きは尤もだろう。

 何せニヴルヘイムと同様、九つの大国に含まれるニザヴェッリルが文字通り消滅――巨大なクレーターへと変わっていたと知らされたのだから。


 因みにニザヴェッリルとは、小人――“ドワーフ”の住まう国。

 武力自体は大したことないとされているが、先天的に魔力が宿った武器や宝を製作する優れた匠が住まう国。言ってしまえば、武器商業国家。

 人種として戦力が劣っているにもかかわらず、どんな武器が飛び出して来るか分からない。故に大国の一つとして認識されている。

 そんな国がどうして――というのは、エゼルミア陛下からの書簡で情報を知り得たセラも含めた共通認識だった。


「まさか、またヨトゥンヘイムが!?」

「いえ、恐らくその可能性は低いでしょう。ね、ヴァン」

「そうだな。国土が文字通り更地になったってことなら、連中の仕業じゃない」

「うん、私もそう思う」


 侵攻理由も起こった現象も不明。

 だが一番あり得そうな要因を即断で却下した俺たちに対して、オーダー卿を含めた面々が首を傾げる。


「――?」


 それとアイリスの頭に乗っているニーズヘッグも皆の真似をして首を傾げていた。


「連中の目的は覇道だ。戦いの中で必要なら民族殲滅だってやらかすだろうが、敵の国土を丸ごと消し飛ばすなんてありえない」

「何故そう言い切れるのだ?」

「逆にもしニヴルヘイムが戦争を起こすとしたのなら目的は? どうしてアースガルズはこの国を執拗に狙ってきた?」

「戦争の目的……そういうことか……」


 オーダー卿は何やら得心がいったと頷く。

 とはいえ、理解出来た者と出来なかった者は半々だったようであり、注釈を入れるようにセラが言葉を紡ぐ。


「端的に言ってしまえば、他国に攻め込む目的は領土拡大。国元の力を高める植民地とする為です。捕虜は新たな労働力、資産や文化を破壊しては戦う意味がない。単純な理屈ですね。ましてやヨトゥンヘイムは資材が困窮(こんきゅう)していたわけでも、モンスターの襲来を退ける力がないわけでもないですから」

「それに巨人の人たちは近接メインだから、もし戦ったとしても破片一つ残さず国が吹き飛ぶなんてないだろうし……」


 だがセラとアイリスの説明を聞けば、(おおよ)その事情は把握できるだろう。


 もし大陸残った勢力が二つだけなら死に物狂いの殲滅戦もあり得るが、この状況であれば仕掛けない。何故なら、もし戦争に勝ったとしても、何の利益にもならないからだ。

 それどころか、損耗していく人員や装備、遠征費用に兵糧など、本来なら敵国からの戦利品で(まかな)うべき物を消し飛ばすなんて愚の骨頂。負債を抱えるだけの闘いには、何の意味もない。ましてや戦争で損耗した所を他国に攻められでもすれば致命傷となるのだから尚更。


 故にこれまでの九つの国は、お互いがお互いを抑止し合う関係にあった。それこそが薄氷の平和であり、“九つで――”という勢力図が変わろうとも、その本質は今も変わっていない。

 だからこそ、ヨトゥンヘイムが動いたわけじゃないと予測できる。

 それに――。


「前回の闘いでの傷も癒えていないでしょうし、ミズガルズ統治の安定まで考えれば、今は雌伏(しふく)の時とするのが賢い選択であるはず」

「そうだな。あの男は誰よりも誇り高い戦士であり、征服者の王。でも、下種(げす)や外道じゃない。それだけは信じていいと思うが……」


 骨肉を断ち穿ち、地形が変わる程の死闘。

 オージーン・ウートガルザと刃を交えた俺だからこそ、そう断言できる。奴は生命(いのち)を奪うことに躊躇(ちゅうちょ)はなくとも、生命(いのち)を奪うことを愉しんだりはしない。奴が望むのは、血肉踊る強者との闘いだけなのだと――。


「となれば、一体何が起こったのでしょうか? 我らには、皆目見当がつきませぬ」

「そうですね。ですが、事実として知っておくことは重要です。更なる国防体制の強化……その為には……」


 この一件はヨトゥンヘイムの仕業じゃない。それは確実と言っていい。

 それならカールナイツの様に神獣種の襲撃を受けたのか。実際、可能性はないわけではないだろう。神獣種の力は強大であり、未知数。国一つ吹き飛ばしても何ら不思議じゃない。

 だが鮮血一つ残さずに国が消し飛ぶなんて、あまりにも状況が無機質過ぎる。生物が暴れたとすれば、もっと荒々しい破壊跡になるのが当然なのに。


「まさか……」


 そんなことを考えている傍ら、不意にこれまでの闘いが脳裏を過る。

 無機質で純粋な力の炸裂。そんな現象に心当たりがないわけではなかったから。


 そして、もし俺の荒唐無稽(こうとうむけい)な想像が現実の物だったとすれば――この世界は本当に滅亡への道を突き進んでいるのかもしれない。

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