第137話 不穏な出迎え
「お疲れさん!」
「いやぁ、まさかこの目でモンスターとの戦いを見ることになるなんてなぁ!」
ガーゴイルの群れを退けて、フヴェルゲルミルに帰還した騎士団を待っていたのは、住民からの労いの言葉。
パーティーとまではいかないが、それなりの料理と用意での出迎えには驚きを禁じ得ない。街の避難場所へ退避するなり、家に引っ込むなりするのが普通な連中が出迎え用意ばっちりで待っていたのだから当然だろう。
だがそれ以上に俺を驚かせたのは――。
「あ、お……お帰りなさい」
先日騒ぎを起こした少女がフリルのついたエプロン姿で食事の乗った皿をせこせこと運んでいる光景。更に辺りを見回せば、他のカールナイツの面々も忙しなく動き回っていた。
これだけ大々的に動き回っている以上、集団脱走ではないはず。とはいえ、それとこれとは別問題だ。ちょっとおかしな光景に首を傾げざるを得ない。
それと目を引いたのは、もう一人。
「えっと、なんだ?」
「……」
エプロン姿の少女より、更に小柄な少女は俺を見上げたまま微動だにしていない。良く言えば無垢、悪く言えば無機質な視線を向けられ続けているのだから、流石に居心地が悪い。ついでに何故か隣のアイリスからは、微妙な視線を注がれていた。
「ごめんなさい。この子は、マーズ・エリュニス。ちょっと変な子だから……。あ、あと、私はアサレア・ハインツっていって……」
「いや、それはとりあえず良いけど、どうしてお前たちはこんな所にいるんだ? 随分と喧しいけど」
「ああ、それは……」
だがそんな微妙な空気は、カールナイツリーダーの大声によって搔き消されてしまう。
「皆さんへの恩返しです! 本当なら、我らも前線に立って戦いたいところですが、皇帝陛下から釘を刺されてしまっております故、自分に出来ることは何か……と模索した結果なのでございます!」
「相変わらず、顔面は凄い圧だな」
少々喧しいが連中が一般的な感性を持っているなら、他国の税金で養われるだけの生活に申し訳なさを感じるのは当然。
その結果が現状。
一言で表すのなら、働かざるもの食うべからずということだ。
実際、ド素人丸出しで戦場に来られるよりは遥かにマシだし、アサレアと名乗った少女も随分と落ち着いているように見える。負債を生み出すだけの連中が食堂のおじさんとして勝手に働いてくれるなら、誰も損はしない。だからこその受け入れというところか。
「それにしても、この料理は?」
「ああ、それはせっかく手伝うならミズガルズの料理も並べて良いって言われて……」
「代用の材料はいくらか使いましたが、腕によりをかけて作りましたぞ。末席に加えていただくだけですがな!」
そんな最中、グレイブは相変わらずのコミュ力で誰隔てなく接し、第七小隊も年相応の表情を覗かせている。アイリスも俺と同様に見覚えのない品々に目を丸くしてはいたが、詰め込んだ料理で頬がぷっくりと膨らんでいる。まあ皆それなりに祝勝会を楽しんでいるのだろう。
実際、戦争に巻き込まれたり、神獣種の存在があったりで麻痺しがちではあるが、ガーゴイルとの戦いとて、普通ならどれだけの被害が街に出ていたのか分からないレベルだった。それにもかかわらず、死者、重傷者無しであれだけの大部隊を討つという本来なら勲章物の闘いをしたのだから、肩の力を抜いて然るべき。
先の戦闘に点数を付けるなら、一〇〇点満点中、九〇点越えでも良いレベルだったということだ。
「私はお皿並べを頑張った。偉い?」
「ん、ああ……そうだな」
それにしても、マーズと名乗った少女といると、どうにも調子が狂う。ボヤっとしているというか、掴みどころがないというか――。
直後もセラと共にやって来たニーズヘッグをボケーっと眺めており、白い竜皇と首を傾げて見つめ合うという不思議な空間を作り出していた。
そんなこんなで穏やかな雰囲気が広がる一方、やって来たセラの表情はあまり芳しいものではなく――。
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