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第128話 運命の悪戯

「おぉ、っ! 流石ニヴルヘイムの戦士! 助力に感謝します!」


 スコルタイプのモンスターを殲滅して一息ついたのも(つか)の間、俺たちが駆けつける直前まで連中と戦っていた者たちが感激した口ぶりで近づいて来る。

 意図せずではあるが、先の一戦へと突入したことで彼らを救援した形となっていた。普通なら領民を守れて一安心というところだが、今回ばかりはそういうわけにもいかず――。


「はぁ……それは構いません。しかし、その意匠……見覚えのない物ですが、貴方たちは何者ですか?」

「だなぁ……ここはニヴルヘイムの領内。にしちゃあ、随分とファンキーな連中に見えるぜ」

「い、いや、それは……」


 俺たちに声をかけて来たのは、固有の民族衣装という言葉が似合う格好した連中。少しばかり北にあるニヴルヘイムで過ごすには、(いささ)か薄着過ぎる。

 とはいえ、村か街の出し物というには着慣れ過ぎているし、それならこの国で過ごして来たコーデリアやグレイブが首を傾げるはずもない。こう言ってはアレだが、怪しんでくれと言っているようなものだった。


「もしお前たちが国民なら、ニヴルヘイムの戦士……助力という言い方はしない。隠し立てしない方が身の為だと思うが?」

「このまま君たちを逃すわけにはいかない。月華騎士団(ヴァーガルナイツ)の名に懸けて!」

「う、うぐっ!?」


 今は国家間の緊張が高まっている。

 このまま連中が口を(つぐ)むようであれば、多少強引(・・・・)な手(・・)を使ってでも情報を引き出さなければならなくなってしまう。

 俺たちは加虐主義者ではないのだから、出来れば避けたい事態なわけだが――。


「そ、それは……だな――」


 いよいよ観念したのか、よく分からない被り物をしたリーダーらしき男が連中の身の上を語り始める。

 その内容は、良く言えば同情してしまう、悪く言えばこの乱世では当然に起こり得るものだった。


「我らはミズガルズ領内では、南に位置する“カール”という小さな村の出身なのですが……その村は、巨狼を駆る鳥獣騎士の襲来を受けて壊滅しました。三叉槍を持ち、袈裟(けさ)に裂かれた大きな傷を持つ悪魔に……!!」

「巨狼を駆る鳥獣騎士……だと!」

「神獣種――“アンドラス”。その悪魔の名を知ったのは、命からがら首都に逃げ延びた後……。あの悪魔にとってみれば、ただ通り過ぎただけなのかもしれませんが……」

「その後、ヨトゥンヘイムからの侵攻を受け、首都から脱出。ニヴルヘイムに辿り着いたということか?」

「は、はい!」

「なるほど……とはいえ、ここに来た理由にはなっても、ここにいた理由にはならないわけだが?」

「そ、それはですね……」


 連中がミズガルズの人間――つまりアンスロポス人であるということについて少なからず驚かざるを得ないが、俺たちが耳を疑ったのはそこではなかった。


「アンドラス……まさか、こんなところでその名を聞くことになるなんてなぁ……」

「ご存じなのですか!?」

「知ってるよ。アンタたちと同じぐらいな」


 何故なら、紡がれた神獣種の名がニヴルヘイムにとって因縁深いものだったから。

 特にグレイブたちやセラにとっては――。

 (もっと)も、当時ニヴルヘイムにいなかった俺や新兵だったリアン、コーデリアに、そこに秘められた思いを察することができないわけだが。


「――事情がどうあれ、お前たちが不法入国者であることには変わりない。見逃すには少々拙い事情を抱えているようだしな」

「ま、まさか我々を斬るというのですか!? 年若い娘もいるというのに……やはりアンスロポス人であるのが罪だと言うのですか!?」

「この大男が悪人面なのは否定しないが、今すぐ処断するつもりはない。少なくとも話は聞かせてもらうと言っている」

「それなら、我々を保護して下さると!?」

「いや、悪いが国を挙げて保護するつもりはない。俺たちはヨトゥンヘイム侵攻前のミズガルズと刃を交えている。お前たちの国で勇者と呼ばれていた男を相手にな」


 シリアスから一転、地味に肩を落としているグレイブを置き去りにして話は進んでいく。


「なんと……!?」

「そして結果的にではあるが、ミズガルズの勇者を討った。その影響で、そちらの主戦力は壊滅。一方的に吹っかけて来たのがそっちだとはいえ、因縁がないわけじゃない。まあ何にせよ、お前たちの身柄は拘束する。異論があるなら、本当に斬るが?」

「い、いえ……!」


 斎藤翔真の能力は底知れない恐ろしさを秘めていた。

 とはいえ、担い手があの木偶(でく)では、アイリス不在のアースガルズは何とかなっても、オージーン・ウートガルザには勝てなかっただろう――と続けなかったのは、俺から送る唯一の気遣い。

 別の世界から来た奴に上役が(そそのか)された時点で、ミズガルズ自体詰んでいた。お前たちは不幸だっただけ――と、この連中(いじ)めに労力を割くつもりはない。



 かつて繰り広げられたという、ニヴルヘイム――いや、セラとアンドラスの闘い。

 崩壊したはずのミズガルズから脱した者たち。


 断片的な過去が絡み合って一つの線となっていく。

 運命の悪戯(いたずら)なのか、それとも――。

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