第127話 蒼剡ノ剣
「……悪いが、一瞬で終わらせる」
俺の両サイドから“スコルデリンジャー”の両腕――巨大な鋏が迫り来る。
目にも止まらぬ素早い動き。
鎧虫系のモンスターは、牙獣系や鳥獣系に比べて力が弱いとされているが、この連中に対しては当てはまらない。
そうして両腕の鋏で挟み込んだ後、槍の様に鋭利な尾で一刺し。強力な毒で相手を仕留める。
鎧虫種の中でもスコルタイプと称される、この連中の常套手段だ。
まあ人間程度の体躯であれば、毒に関係なく一刺しで終わるのだろうが――。
「素早く小回りは効くが、本体の機動力は低い。触れるのは容易い……」
左右の鋏が空を切る。
風圧で地面が軽く凹む程の勢いであるが、当たらなければ意味を成さない。
最初から気を付けるべきは、鋏と尾だけ。何故なら、この連中は本来活発に外を歩き回るのではなく、待ち伏せ型の狩りをするから。
故に“攻撃”は速いが、“移動”はそれほどでもない。
「相性が悪かったな」
「■……■■■!?」
更に空いた手で通り過ぎた左の鋏に触れた瞬間、炸裂音と共に外鎧の腕が砕け散る。
“叛逆眼”による直接吸収。
それも“禁忌魔眼・解放”を発動しているだけあって、巨大な腕を一瞬で喰らい尽くすほどに能力が増大している。まだ出力が全開でないのにもかかわらず――。
そして、“スコルデリンジャー”の躯体消失と共に剣に宿った蒼炎が出力を増し、猛々しく燃え上がる。
「“蒼剡穿つ叛逆の剣”――」
黒剡蒼閃。
蒼炎と漆黒が入り混じった剣戟で“スコルデリンジャー”を断ち斬った。
「■、■■■……!?」
斬滅、滅却。
群れのリーダーが蒼炎の中へと消え去り、他の“スコルイーター”も各所に散る形で逃げ惑い始める。どこか無機質にも見える蠍の群れではあるが、完全に統率を乱していた。
だがこちらの攻撃はまだ終わらない。敗残兵を狙う様で気が進まないが、この状況下で国を守るためには致し方ないだろう。
「“エアリアルシュート”――ッ!」
コーデリアが竜巻纏う矢を撃ち放ち、地面を這って退散する蠍部隊を強襲する。
麻痺で動きを封じたさっきとは違い、今度は純粋な破壊。今までのコーデリアからは考えられない力押しであり、以前とは見違えた破壊力と言わざるを得ない。
「“ライトラスティング”!」
今度はリアンが緑の光を纏って加速。
蠍の行く手に先回りして牽制すれば、統率の乱れた連中は方向を変えてこちらの思うままに誘導されていく。
辿り着いた先は、既に殺戮領域。
激烈な攻撃が繰り出される。
「“壊劫すべし、剛天裂断”――ッ!」
グレイブによる振り下ろし。
元々の地力の高さ故か、コーデリアやリアンほど目に見える変化はないが、それでもキレや破壊力は以前にも増して凄まじい。硬い外鎧など何のそのとばかりに、群れを巻き込みながら周囲一帯を陥没させてしまう。
残りは誘導に乗らなかった五体ほどが荒野を疾走するのみだったが――。
「消し飛べ……!」
“慟哭の刃雫”――眼光を十字に戻して飛翔。黒翼より刃の雨を降らせて全ての“スコルイーター”を掃討する。
“スコルデリンジャー”の脅威は、以前このメンバーで戦ったガルダクロウを超えていた。取り巻きである四〇体ほどの“スコルイーター”も含めれば、その危険は以前の比ではない。
つまりこちらの力が格段に向上したことを意味しているわけだが、俺にとっては不安と収穫が半々。
「……制御には程遠いか。でも……」
“禁忌魔眼・解放”と呼ばれるこの力。
ひとまず能力解放と解除だけではあるが、自分の意思で制御して実戦を乗り切れたのは、大きな収穫だろう。
一方、運用に大きなリソースを割かなければならず、闘い方が大味になってしまう点は目を背けられない事実。それはつまり、増大した出力を生かすという領域に到達していないどころか、そもそも能力自体を制御できていないに等しいということ。
課題は山積みと言わざるを得ない。
だが大きな収穫は、もう一つあった。
「皮肉なもんだな。全て失った今になって……」
魔眼保持者だから魔法が使えないというわけじゃない。
現に“無限眼”、“天召眼”を持つ者は、巧みに魔法を使いこなしていた。能力の感じからして“恤与眼”保持者も同様だろう。
つまり得た能力が“叛逆眼”だから魔法を使えないわけだ。その原因は、自らが放出しようとする魔力すらも自動吸収してしまっているから。
だが蒼い炎となって幻出したのは――。
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