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第123話 旅の終幕

 ――アルフヘイム王国・首都フロディア。


 “イェロヴェリル攻防戦”が集結して既に三日が経過。

 そして、旅立ち――帰還の朝。


「もう身体はいいのかしら?」

「ええ、丸二日寝込んでいましたから……」

「それで、俺が寝ている間に何か変わりは?」

「まあ、それなりに……悪い知らせじゃないはずよ」


 早朝、宛がわれた客室にエゼルミア陛下が訪ねて来て、労いの言葉をかけてくれていた。

 (ちな)みに、あの後見事にぶっ倒れてしまい、ずっと寝込んで一晩――からの今、ということだ。


「まず、ヨトゥンヘイムには動きなし。それとアルフヘイムとズヴァルトアルフヘイム……二つの国の間で、外部侵攻に対しての同盟を正式に締結したわ。言ってしまえば、アースガルズで私たちが行ったのと同じことね」

「なるほど、一時の協定ではないと……」

「肩肘張って滅ぶくらいなら、やれることをやるべきでしょう? それにウチの連中を含めて、今回のことが教訓になったみたい」

「種族の違い……排他的(はいたてき)な考えが変わったと?」

「そうね。戦争にならなきゃ、誰もそんなことを思わなかった。誰もが現金な奴ということかしら」


 エゼルミア陛下から知らされたのは、この二日間に起こった出来事。

 それは色んな意味で衝撃的な内容と言わざるを得ない。だが彼女が言う通り、そう悪いものではなかった。


「それとここが一番大事な話なのだけど……ズヴァルトアルフヘイムが同盟に加入したいと願い出て来たの。セラフィーナは了承済み。後はアースガルズと話を付けなきゃだから、正式決定はもう少し後になるけど……」

「一国でどうにかなる状況じゃない。ほぼ確実にそうなるでしょうね。となれば、四国同盟……」

「そろそろ名前でも考えないといけないかしら?」

「かもしれませんね」


 エゼルミア陛下は肩を竦めながら冗談交じりに伝えて来るが、九つの大国――文化や技術の交流はおろか、長らく冷戦状態にあった国同士が少しずつ纏まりを見せ始めているのは、歴史上から見ても凄まじい変化だろう。


 結果、“アースガルズ”、“ニヴルヘイム”、“アルフヘイム”、“ズヴァルトアルフヘイム”の四ヶ国が同盟を結び、“ヨトゥンヘイム”が“ミズガルズ”を吸収。

 残る“ヴァナヘイム”、“ニザヴェリル”、“ムスペルヘイム”は未知数――だが、何も影響がないわけがない。今後も何らかの動きがあって然るべき。

 つまり今回のような戦争がいつ起こっても不思議じゃない状況には変わりない。

 それが世界の現状だということ。


「とはいえ、勢力が大きくなれば、綻びも生まれる」

「そうね、彼ら(・・)の素性が分からない以上、他国と交流を深めるのはリスクが高いと言わざるを得ないわ。でも、疑心暗鬼になってしまえば、魔眼狩りなんて言ってる連中と同じ……こっちから動かないとね」

「ええ、今この時を逃せば、連中の足取りを完全に追えなくなる。俺たちが戦える内に何らかの決着を付けないと……」


 それに加え、“神断の罪杯(カオス・グレイル)”と名乗った者たちの存在。

 アンブローン・フェイ、ゼイン・クリュメノス、イーサン・シュミットに桜色の女性と白の少女――誰も彼も一癖、二癖もあり、紛うことなき危険人物。そんな彼らが一つの組織に集っているともなれば、懸念事項どころじゃない。


 一方、少しずつ、でも確実に真実へと近づいている。

 連中が何を考えているのかは分からないが、戦うにせよ、対話するにせよ、今は力が必要だ。

 その為の――。


「そういえば、あの時の力は……」

「多分、魔眼を極める中で到達する境地の一つ。力は増しますが、ただでさえ不安定な現状のバランスを完全に壊す領域。あまりおすすめはできませんね。でも……」

「でも?」


 バイザーを外したエゼルミア陛下が首を傾げる。

 光を放つ目が細められ、長髪がさらりと流れた。


「連中は俺のことを純粋な敵として見ていないように思えました。それに“解放者(リベレイター)”……至った者だとも……」

「“解放者(リベレイター)”? どんな意味があるのかは分からないけど……言葉尻だけを取るのなら、あのゼインとかいう子も同類ってことなのかしらね」

「あの白い少女はそう言っていました。同じ光だと……」

「言われてみれば、この間の戦闘もミズガルズの勇者を狙ってという風に受け取れたし……妙ね」

「連中の意図は定かではありませんが、魔眼を持つ者は確実に何らかの形で目を付けられている。お互い、身の安全には気を付けるべきでしょうね」


 得た物もあれば、失った物もあり、分からないこともある。

 今は自分が正しいと思ったことを、出来ることを精一杯やるしかない。

 己が望む未来を紡ぎたいのなら――。



 この後、俺の様子を見に来たセラとエゼルミア陛下がやり合いになったり、アイリスがアースガルズの元勇者であると発覚した結果、まさかのアムラスが庇い立てるという展開になったりと、一悶着どころじゃない騒がしい出発となったが、これも俺たちがこの旅で得た物なんだろう。

 それは、最後に挨拶に来たセシルを含め、恐らく他の何にも代えられない物。


 こうして俺たちの諸国放浪の旅は、ひとまずの終幕を迎えることとなった。

第5章最終話となります。


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