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第121話 混沌の邂逅

 闇炎剣衝。

 剛裂撃轟。


 世界すら吹き飛びかねないと錯覚させられるほどの衝撃。

 吹き荒ぶ白銀に全身を()かれながらも、戦場の大地を駆け抜ける。

 黒金の刃に白銀の光すら束ねて全てを貫いていく。


 そして、破壊の波動が四散する。

 残されたのは、焦土と化した大地。


「――更に良き太刀となったな。見事だ」


 オージーンが鮮血を流しながら膝を付く。

 致命傷。

 少なくとも、今すぐに手当てをしなければ、間違いなく命に関わるだろう。


 戦況は一変する。


「閣下!?」

「くっ、これでは……退()けい!」


 不利な地形ながら、それなりの損耗で耐えきっていることを感心するべきなのか。

 強靭な力を持つ巨人大隊を押し留めているエルフたちに感心するべきなのか。


 ともかく巨人たちの戦線は一気に後退し、撤退戦の様相を呈し始める。過程は違えど、想定通りの展開と言えるだろう。

 だが巨人大隊が撤退し始めたにもかかわらず、自分でも苦々しい表情を浮かべているのがはっきりと分かる。


「ヤバいな、こっちも動けないぞ」


 何故なら、制御不可能になった力が漆黒の炸裂(スパーク)として全身に纏わり付き、断続的に俺自身を蝕んでいるから。

 つまりさっきの戦闘中より幾許かマシとはいえ、能力の暴発を抑えるので手一杯の状況には変わりないということ。加えて、満身創痍であるのも同様。

 ここから迫り来る巨人大隊ともう一戦やらかすには、あまりに状態が悪過ぎる。


「閣下をお連れして退()くのだ! 障害は全て薙ぎ払え!」

「やるしか、ないか……」


 とはいえ、疲れて戦えませんと死を受け入れるわけにはいかない。鉛の様に重くなった体を引きずって戦う決意を固めた直後、桜色(・・)の散弾が俺の周囲で炸裂した。


「“ナイトメア・リボルト”――!!」

「これは……?」

「何奴!?」


 俺にとっても未知の状況であるのは言うまでもないが、それは連中が目を見開いて足を止めている辺りからして同様。

 更に多くの散弾が飛び交い、炸裂の嵐が強まっていく。

 だが俺の周囲一メートルほどは安全圏となっており、破片一つこの身に当たることはない。余程腕の良い射手(シューター)が、この魔法を放っているということなのだろう。

 尤も、けたたましい砂塵で視界が塞がれており、その当人を目に納めることはできていないわけだが――。


「この……人間共め! 我らの道を……!」


 エルフの国へと攻め込みに来てみれば、魔眼や聖剣を持った人間にそれを阻まれる――というのは計算違いも良いところだろうが、この局面で人間“共”というのは、些かおかしな表現だろう。

 セラやアイリスが援護に来たわけでもないのに――。


「――想定外(・・・)なのはお互い様でしょう? さっさと退()きなさいな」

「貴様……!」

「最早、主君を捨てる戦いではないはずよ。私たちも手の出し様がなくなっちゃったけど……」


 聞き覚えの無い女の声。

 巨大な体躯と戦いの嵐が遠ざかっていくのを感じていると、気づかぬ間に俺の隣にも見知らぬ人影が佇んでいた。


「同じ光……」

「君は……」


 薄緑の髪を肩で揃えた白い衣を纏う儚げな少女。無垢な瞳から敵意は感じないが、妙な威圧感を放っている。

 一言で表すのなら白の少女というところか。

 突如現れたということで、困惑と警戒が入り混じる思いを抱かざるを得ないが、彼女の言葉によって後者の比率が一気に高まっていく。


「ゼインと同じ光……」


 ゼイン――ゼイン・クリュメノス。

 かつて一度刃を交え、既に魔眼の新たな境地へと至っていた者。

 この状況、局面で同じ名前の他人――という線はないだろう。

 つまり砂塵の向こうでこちらを見ながら佇んでいる桜色の髪をした女性を含め、奴と何らかの関係があるということ。


「“解放者(リベレイター)”……貴方はその境地へと到達した」

「一体、何を……」

「来て、私たちと一緒に……。貴方は私たちの同胞(・・)なのだから……」


 少女と視線が交錯する。

 混乱の戦場にありながら、時が止まったかのような感覚すら覚える瞬間だった。


「……ヴァン!」

「この混乱の中を無理やり突っ切って来るとはね!」


 直後、砂塵の向こうで蒼銀と桜色が衝突。

 更なる爆炎を炸裂させる。


「……お前たちは、何者だ? 一体何をしようとしている?」

「私たちは“神断の罪杯(カオス・グレイル)”。世界を在るべき姿に戻す……」


 “神断の罪杯(カオス・グレイル)”――それは、かつてミュルクの街を混乱に陥れたイーサン・シュミットが口にしたのと同じ言葉。

 やはり全ては、この“神断の罪杯(カオス・グレイル)”と呼ばれる組織に繋がっている。それは俺たちが追い求める真実が、彼女たちと共に在るということに他ならない。


「次から次へと……何なの、もう!?」

「それはこっちの台詞ね! とはいえ、ここで戦うのは本意ではないかしら……」


 そんな最中、黄金の光が飛来。

 アイリスもまた、こちらの戦場に介入して来た。

 これで状況は三対――いや、二対二。


 だが、やはり彼女たちから敵意を感じることができないでいた。


「逃げるのですか?」

「ええ、今日は新たな“解放者(リベレイター)”を観測できただけで良しとしましょう。こっちも帰るわよ」


 白の少女はこちらを一瞥すると、小さく頷く。


「好き勝手やられて、逃がすと思ってるの!?」

「残念、戦略的撤退よん。まあ、そっちも見た目以上に疲れてるようだし、痛み分けにしておきましょう!」

「何を……!」

「じゃあ、またね。それまであっちのボウヤをよろしく!」

「ぐ……ッ!?」


 桜色の散弾が巻き起こり、地面が衝撃に揺れる。


「この……!」

「アールヴ卿、深追いは禁物です。こちらも追撃戦をする余裕はなさそうですから」


 次の瞬間、突然現れた二人の姿は忽然と消えていた。

 得た物は大きいが、逃がした魚もまた大きかったというところか。


 一方、どうして俺が正面に立っていた少女の逃走を許したのかといえば、その理由は単純明快。


「それに……可及的速やかに解決すべき問題があるようです」


 それは革新を迎えた“叛逆眼(カルネージ・リベルタ)”の制御が不安定となり、全身に纏う漆黒の炸裂(スパーク)が俺自身を()き尽くさんばかりに激しさを増しているから。

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