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第116話 イェロヴェリル攻防戦

 雲一つない青い空――。


 これから始まる戦争とは打って変わって、嫌味なほどの快晴。


「巨人族の二個大隊とは、なんとも物騒ですね」

「纏めて二ヶ国ゲットってことで気合が入ってるんでしょうね。まあ前回、向こうから仕掛けてきた以上、迎え撃つ以外の選択肢なんて最初からないのだけど……」


 敵戦力は現在確認できる限り、約一〇〇〇〇ほど。

 巨人一人が人間一〇〇人以上に相当すると言われている上、連携でも取られたらアースガルズ一〇万の軍勢とは比較にならない脅威を秘めていると考えて然るべき。

 更にその背後には、大陸最強の戦士が控えており、こと攻めにおいては凶悪極まりない布陣と言わざるを得ない――というのが現状だった。


「作戦は単純。地の利のある国境付近で連中を迎え撃つこと。勝機は頭を叩いて撤退させるか、長期戦で兵糧不足に追い込むかのどちらか……現実的なのは後者かしらね」

「ええ、あれだけの図体を維持しなければならないのですから、向こうも長期戦が厳しいのは理解しているでしょう。事実上、この衝突が勝敗を分かつと言っても過言ではありません」

「遠距離でどれだけ足止めできるか。そこが肝となりますわね。何せ向こうは数が少ないですから」


 エゼルミア陛下とセラ、セシルが言うように、こちらは長期戦、相手は短期決戦を想定して動いているのは確実。だからこそ、ヨトゥンヘイムは本来後方で控えているべき最強の王自らが戦力として、この場に赴いている。

 それに対応するためには、こちらも最高戦力を揃えて迎え撃つしかない。


 この激突で押し返せれば、確実に撤退に追い込める。

 逆に戦線を突破されれば、こちらの敗け。

 二つのエルフの国は、巨人族の物となる


 混沌の状況下にありながら、あまりに単純な構図。

 最早、戦時交渉でなんとかなるような状況じゃない。

 連中の覇道を阻むのであれば、戦う以外に道はないということ。


 故に現在――。


 俺たちと黒白のエルフは、切り立った渓谷――“イェロヴェリル”の各所に配置され、巨人族の到着を今か今かと待ち構えているのみ。


 足音で立ち上る砂煙。

 屈強な体躯をした強靭な戦士たち。


 有視界領域に敵軍の姿が映し出される。

 射程距離まで、後僅か。

 そして――。


 国境に(そび)える両国の監視塔が破片に変わった。


「岩の剣!? なんて無茶苦茶!?」


 地面に突き刺さるのは、武骨な造りをした二振りの大刀。

 乱雑な投擲ながら、国境監視塔が根こそぎ吹き飛んだことからも、その威力は計り知れないものを秘めていると一目で分かる。

 その攻撃を放ったのは、巨人族の最後尾にいる最強の戦士。


「我こそは……と、名乗りを上げるお国柄だと思っていたが、まさかいきなり撃って来るとは……」


 戦前交渉どころか、宣戦布告も無しの先制遠距離攻撃。

 はっきり言って予想外が過ぎる。

 近接戦闘を得意とする巨人族の性質から考えてもそうだし、こちらが遠距離からの波状攻撃を仕掛けて足止めする戦法だったのだから、部隊に広がる混乱は大きい。要は、以前俺とセラがアースガルズに対して行ったことを、そっくりそのままやられたようなものだ。


「前回の敗走兵からこっちの戦い方を聞いていたんでしょう! 総員反撃しなさい! デカい図体が迫って来るわよッ!」


 直後、虚を突くどころか、逆に虚を突かれた俺たちへ向けて、巨人族が周囲の地形を変えんばかりに迫り来る。


「り、了解!」


 エゼルミア陛下の指示を受け、それぞれの国土側である左の崖からはエルフ、右の崖からはダークエルフの部隊が魔法を放って迎撃。上下という高低差がある位置取りではあるが、開幕早々からの総力戦と相成った。


「我々は逃げも隠れもしない! さあ、向かって来いッ!」

「オラオラオラァ! 行くよぉ!」


 巨人の中でも特に巨大な面々が崖を上り始め、こちらに襲い掛かって来る。女性の巨人は少々目に毒ではあるが、今はそんなことを言っている場合じゃない。


「くそっ! 押し返せぇ!」

「効いてない!? こっちが一体何発撃ってると……!」


 やはりデカさは強さに直結する。

 多少の魔力弾では顔を歪めさせる程度のダメージしか与えられず、早くも距離が詰められ始めた。


「身体強化と並行して全身に薄く魔力を纏っているわけか……」

「そうですね。防御をしながら、肉体活性を飛躍的に高めているようです。その上に盾や防具まであるのですから、距離がある状態で弾幕を張っても足止めにもならない」

「ガチガチに対策をしてきたってこと?」

「いえ、近接戦闘に秀でている種族としての基本スタイルなのでしょう。とはいえ、開幕からエルフの魔力弾を弾くほどの出力で魔力を垂れ流している以上、アールヴ卿の言う通り意識はしているのでしょうが……」


 数値にして、例え一だとしても、攻撃を加え続けるのなら、理論上どんな相手だろうと打倒できる。だからこそ、戦いの場において数的有利は重要な要因(ファクター)となりえる。

 でも、攻撃を仕掛けて与えるダメージが〇では、どれだけ撃っても意味がない。むしろこちらが一方的に消耗していくだけ。

 では前回の戦闘では、どうして今と近しい戦闘手段を取る連中を封殺できたのか――。


「私たちが前面に立って足並みを乱しましょう。あちらの思惑に乗るようで(しゃく)だけど!」


 それはエゼルミア陛下やセラたちの火力が、巨人族の防御を上回っていたから。


「ええ、他に選択肢はなさそうだ」


 そして、規則正しい陣形が引き千切られたこの乱戦であれば、俺も全開で戦える。

 瞳に蒼い十字を刻み、切り立った崖を一気に駆け降りていく。

 眼下にあるのは、巨人の大地。

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