第110話 幕間:混沌に潜む者たち
――“葬黎殿”。
その最深部に聳える“臥竜の祀壇”には、“神断の罪杯”の主要人員が集っていた。
だが三人の大幹部――“三天柱”に加え、その下に付く“七地柱”――七人の幹部が集結するはずが、集っているのは九人だけ。残り一人は、もう永遠に姿を見せることはない。
「へぇ、死んだのね、あのおっさん」
「“愛溺の盃”、その言い様は可哀想ですよ」
「でも、あの男の武器に色々仕込んでいたんでしょう? アンタならやりかねないわよね」
「あら、もう少し信用していただけると嬉しいのですが」
本来この場にいるはずだった、“偽眼器”――イーサン・シュミット。
彼はミュルクの闘いで命を散らしたわけだが、その死を尊ぶ者は誰一人としていなかった。
「殺ったのは?」
「例の“叛逆眼”、“天召眼”を擁する一団だそうです。流石は“神灼の征者”の進行を押し留めた者たちですね」
「ふん、当然だ。あんな紛い物の力しか持たぬ木偶に滅せられるのなら、今すぐ俺自ら消し飛ばしてやろう」
「“呪眼兵器”との親和性は高い。でも、本人に特別な力があるわけではない。よって、元より代替え可能な存在……」
「“神灼の征者”はともかく、“永劫の座”も可愛い顔して結構えげつないこと言うわね」
「魔眼の力を軽んじて、勝手に突出した愚か者。保持者が全員強いわけではないけれど、相手が魔眼の力を十全に引き出せるなら、当然の結果……」
彼らの意識は討たれた仲間では無く、それを成した者たちへと向いていた。
「とはいえ、最早捨て置いて良い存在ではありません。討死にされるのは惜しいですが、好き勝手動かれるのも厄介そうですから」
「その子たちの進路は?」
「今は自国へと戻って……あら、ヨトゥンヘイムの方々が先に動き始めたようです。全く、少々おいたが過ぎていますね」
「あの脳筋連中……このままじゃホントに世界統一されちゃうわよ?」
「でしょうね。何せ先頭に立つのは、世界最強の戦士。正面から相手をするのは、勘弁願いたいですから」
「じゃあ、どうするの? 私が行きましょうか?」
「そうですね……では、“永劫の座”と共に出撃を願います」
「うげ……っ!」
「曲がりなりにも我らと肩を並べた者が討たれたのですから、単独行動は慎むべきでしょう。そんな顔をなさらず……」
「ん……」
白の少女は首を縦に振り、長身揃いの周囲と比べて小さな歩幅で一団を抜ける。
「ゼイン、じゃあ……行ってくる」
直後、紅蓮の青年に声をかけるも返答無し。
白の少女はそんな反応を受けて首を傾げていると、桜色の髪をした女性に肩を組まれて引っ張られていく。
「一人で歩ける。それと頭の上が重い。乗せないで」
「僻まないの。お子ちゃまがボケっとしてるせいでしょう?」
「お子ちゃまじゃない。一六歳……」
「それにしちゃあ、随分とちんまりしてるけど?」
「違う、貴方が必要以上に巨大なだけ」
ぱっと見では顔の似ていない姉妹。
色んな意味で凸凹コンビ。
「久々の外、凄く楽しみ」
「遊びに行くわけじゃないのよ」
「魔眼使いは?」
「顔ぐらいは見えるでしょう。外で遊ぶ時間が欲しいなら、お仕事を頑張りましょうね」
「頭を撫でないで。重たい」
二人の女性は輪から離れ、葬黎殿の外の世界へ向けて歩を進める。
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