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第109話 混沌へ至る世界

 瓦礫と(すす)だらけになった真っ黒な街。

 痛ましい光景が視界一杯に広がる。


「街全体が()き払われるなど……人はまた過ちを繰り返すのですね」

「これが人間の性……。俺たちは業を重ねなければ、生きられないってことかもな」


 二日ぶり(・・・・)にミュルクに戻って来た俺たちは、変わり果てた街並みを見ながら、爆心地である街の中央へと足を向ける。

 目の前に広がるのは戦闘ではなく、最早災害の跡――最終局面で俺たちがいた街の中央部以外は、ほぼ炭化しかけているような状態だった。


「――同じ自爆でも、聖冥教団の時とは比べ物にならない規模……。つまり絶対に口をふさがなくてはいけない重要度の高い人間ってのも、満更嘘じゃなさそうだ」

「“神断の罪杯(カオス・グレイル)”……歴史の裏で暗躍していたとされる組織。都市伝説の類かと思っていましたが……」

「現実は伝説より奇なりというところでしょう。それも私たちが追っていた者とも関係しているとなれば、由々しき事態ね」

「というか、アースガルズにいたアンブローンさんが、その“神断の罪杯(カオス・グレイル)”の仲間なら、色々筒抜けなんじゃ……」


 荒れ果て過ぎた街並み。

 “ヨール作戦”の果てにイーサンが吹き飛んでから、既に一週間が経過していた。


 あれから何があったのかについてだが――まずイーサンの炸裂は凄まじい勢いで周囲に拡散し、いくら“叛逆眼(カルネージ・リベルタ)”であっても、全てを吸収することはできなかった。街の大部分が悲惨なことになっているのは、そういう理由から。

 とはいえ、街全体が吹き飛ぶことなく、表面上のダメージ済んだだけでも奇跡だった。


 だが生存者は各々が防御態勢を取っていた俺たちと、近くで確保されていたゲオルグさん、元々地下に引っ込んでいた数名だけであり、多くの人間が犠牲になったのは言うまでもない。

 それに加え、傷ついたエルフ戦士たちの治療やアースガルズ軍への引継ぎ、生存者の救助などを終えたのが二日前。ようやくの休養を得て、二日ぶりにミュルクにやって来たのが今――ということだ。


「……そうですね。各勢力、内通者の調査は可及的速やかに進めるべきでしょう」

「これで俺たちも自由に動けるわけだしな」


 先の一件、何が何やらと不鮮明なまま巻き込まれた挙句の自爆騒動とあって、正直散々な目に合ったと言わざるを得ないが、全く無駄な闘いだったかというわけではなかった。


「といっても、暫くは城壁の修繕にかかりきりでしょうね」

「ええ、ミュルクを奪還、なおかつアースガルズへの返還ではなく、我々の国も管理に口を出せる状況になった……と言えば、聞こえは良いですが、所詮は張りぼて……手放しで喜べるわけもない」

「街の人は一〇人とちょっとを残して、蒸発しちゃったんだもんね。あのレジスタンスの人たちも……」


 得たものとしてはミュルクという重要拠点と様々な情報。

 これは何にも代えがたい戦果と言えるだろう。

 だがその代償は、女性陣が言っている通り。

 せっかく得た街は傷だらけであり、そこに住むべきはずの人々は先の爆風に飲まれて形を失っている。ジャックやあの果てしなく無駄に賑やかな連中は、死体すら残らず炭化したんだろう。


「奴の持っていた“呪眼兵器(カースアームズ)”。あの翡翠の光が最後の後押しをしたとはいえ、元々火種はあった。遅かれ早かれ……だったのかもな」

「立派な城壁と空虚な街。大した皮肉ですね。自分たちで全て狩り尽くしたというのに……」


 俺たちがすべきことは、消し飛んだ街の人々を憂えることじゃない。

 その為、まずゲオルグ・ドライターを問い詰めた結果、この街に巣食っていた根本的な問題を知ることになった。

 一言で表すのなら、この都市の人々が国の守り手であるミュルク軍――旧アースガルズ軍を酷く邪険に扱い始めたことにより、互いの間で摩擦が生じて不和の源となったというもの。


 ミュルクの周りに作られた堅牢な城壁は、余程強力なモンスターでもなければ、突破不可能。それに街の人々も険しい辺境育ちとあって、全く戦う力がないわけじゃない。城壁の上から侵入して来る様なちょっとしたモンスター程度なら、自力で対処出来るわけだ。

 よって、市民の税で活動する兵士の存在自体に疑問を抱いていた。

 そんな状況の中、ミュルクの象徴でもあった鉱山資源も徐々に底を尽き始め、それまでの様な豪遊が出来なくなり始めた。真っ先に不要とされる金食い虫は、どこの誰なのか――想像に難くないだろう。


 結果、引き起こされたのは、住民が駐留軍を追放しようという運動。

 それに対し、不当な扱いに耐えかねた軍が応戦。


 守るべき市民を殺めて引っ込みがつかなくなったこと。

 ゲオルグ・ドライターの絶望、アースガルズ敗戦が重なり、俺たちが見たような住民への圧政が敷かれることとなった。

 つまり全ての原因は、住民の側だったというわけだ。


「守って来た人たちに、お前たちはもう要らないって裏切られた。街の人たちの言い分も分かる部分がないわけじゃないけど……勇者だった時に同じことをされたら、多分私は……」


 特にゲオルグさんは、本来こんな事をする人間ではなかった。恐らく俺の父の様に、利権渦巻くドス黒い世界に適応しきれなかったんだろう。

 しかも、そんな(うれ)いを抱えながら人知れずモンスターとの闘いや治安維持活動に勤しむ中、民衆から刃を向けられた。


 ただ一つ、守るべき者である民衆から――。


 最後のタガが外れた原因が民衆側ともなれば、皮肉どころの騒ぎじゃない。

 ある意味、最悪の状況だった。


「信頼関係が成立していなければ、命なんて懸けられない。でも軍にも問題があった。どっちもどっちってところかしらね」

「つい最近、どこかで聞いたような話ですね」

「できれば聞きたくなかったけどな」


 記憶に新しい聖冥教団の一件を思い返しながら、全ての原因となった翡翠の光が脳裏を過る。


 同時に先の一件と今回の一件を結び付ける人物の存在も明らかになっていた。


 イーサン・シュミット――奴はこの都市の人間ではない。

 “恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”の能力を持つ、“呪眼兵器(カースアームズ)”を用いて、他者の記憶を改竄(かいざん)。自分の存在を刷り込み、我が物顔で民衆のリーダーをやっていただけ。

 それと並行しながら、ゲオルグさんを含めた人間の悪意を少しずつ増幅して後押しした結果――平時であれば押し留められるはずの感情が暴走して、この一件が引き起こされた。

 これこそ、先の闘いとゲオルグさんからの情報を得て、俺たちが出した結論。


 何故奴がこんな街に滞在していたのか。

 “呪眼兵器(カースアームズ)”を始めとした、俺たちが知りえぬ領域――。


「点と点は繋がり始めています。でも、私たちは大きな渦の中に在る。どうにか抜け出さなくては何も掴めない」

「ああ、俺たちが得た物、失った物も……全て黒焦げになって消えて行った。自分たちが、そうなりたくないのならな」


 最終的な目的は分からなかったが、イーサンが“神断の罪杯(カオス・グレイル)”の構成員――それも幹部級の人間だったというのは事実だろう。

 その先にあるのは、アンブローン・フェイの存在。

 世界に巣食う混沌――俺たちが相対すべき相手がようやく明確になった。

第4章完結となります。


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