第107話 魔眼の真髄
「そのふざけた武器が“叛逆眼”の能力を持つというのなら……」
「はっ! 自分の能力……流石に弱点は知り尽くしてるってか!?」
互いに技の類を使うことなく、“デュランダル”と“呪眼兵器”が交錯する。
“叛逆眼”は、対魔法戦において無類の力を発揮するが、物理攻相手ではその力が激減する。
つまり“叛逆眼”を相手にするなら、物理攻撃主体で攻めていくのが定石。かつてセラと話した通りだ。
だが俺と奴には決定的な違いがあった。
「所詮は紛い物。この程度で……ッ!」
「ぐお……ぉ、っ!?」
聖剣の一閃を槍で受け止められるも、そのまま力任せに押し込む。すると、イーサンの身体は宙に浮き、後方へと大きく吹き飛んだ。
「テメェっ!!」
「その迅やさでは、今の俺を捉えることはできない」
直後、跳ね起きた勢いを利用しての刺突が繰り出されるが、穂先が射抜いたのは俺の残像のみ。
等の俺は既に背後へと回り込んで、上段からの一閃を放っており、イーサンは盾とした槍を軋み上がらせながら地面を転がった。
「くそっ!? どうなってんだ!?」
「相手の魔法を一方的に封じ、自分は消費無しで強大な攻撃が放てる武器。確かに強力ではあるが……」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる! こっちは叛逆眼を目にくっつけて、魔法一つ使えねぇテメェの完全上位互換なんだよ!」
“叛逆眼”の最大の強みは、相手の魔法を打ち消すこと。
確かにそれは間違っていない。汎用性という意味でも、奴の言う通り。
でも――。
「いや、お前の武器は“叛逆眼”の優位性を殺しているも同じ。ましてや同じ能力がぶつかるなら、力の還元に制限があるそっちが押し負けるのは当然だと思うが?」
「制限……だとぉ、っ!?」
「なるほど……魔眼を武器に接合させているだけでは、喰らった力を身体能力に還元することはできない。ヴァンの様に周囲の空間から微細な魔力素を喰らう細やかな精度での運用も……」
「互いに魔法が使えないのなら、時間経過で膂力と迅やさが増していく方が有利になるというわけね」
そう、“叛逆眼”同士がぶつかって起こる戦いは、魔法無しのデスマッチ。
そして相手の攻撃を全て避けるか防御していく中、如何にして相手に直接触れるのかというチキンレース。
つまり術者自身の戦闘能力と自らの魔眼への理解度がものを言う。
いくら非効率的な周囲からの強化と言えど、身体能力へのブースト――その有無は大きな要因になるということだ。
何より力を使い慣れている俺が、既にその強化を上乗せしている以上、素のスペックでしか戦えないイーサンに劣る道理はない。
「ちっ!? 何が魔法殺しだよ! 使えねぇな!」
「笑止……確かに“叛逆眼”を含めた魔眼は恐るべき力を秘めている。だが、担い手が貴方では宝の持ち腐れでしかないようだ」
「アァ!? なんだぁ、小娘がァ!」
「神獣種、魔眼、聖剣を始めとした神話の武具……どんな力にも弱点がある。無敵でもなければ、完全でもない。実際、資質もない貴方が何らかの手段で魔眼を操れている以上、間違いはないのでしょう」
「だから、それが……」
「“叛逆眼”を手にしたから強いのではない。ヴァン・ユグドラシルが“叛逆眼”を行使してこそ、その真価は発揮される。貴方には過ぎた力だということです」
戦場でなければ、顔から火が出そうな歯の浮いた言葉ではあるが、現状を肯定するならこれ以上のものはない。
言ってしまえば、知った風な顔をして魔眼を見せびらかすような外道が、力の本質を理解しているわけがないということ。
「……ごちゃごちゃ、うるせぇなぁ! 突然変異で生まれた人間の出来損ないなんざ、俺様の役に立てれば、本望ってもんだろうが!」
「この出力……!」
だが奴は“叛逆眼”の槍が通用しないと見るや、今度は長杖を背中から取り出して魔力砲撃を放った。セラに向けて視界の隣を抜けていく砲撃は、前動作無しで放てる出力じゃない。
そして俺にとっては記憶に新しく、さっきまでの不快感を再び味合わされるものだった。
「どうだ! “無限眼”の威力はよぉ!」
「確かに凄まじい、ですが……先ほどまでの会話を何も理解していないようですね」
力の放出を司る魔眼。
先の槍と同様に、それを武器へと転用したのだろう。だが蒼銀の一閃により、真っ二つに斬り裂かれる。
少なくとも奴が生み出す破壊の波動であれば、速度重視の不意打ちだとしても、ここまで容易く薙ぎ払われることはないというのに――。
「とことんコケにしやがって、だがこいつでどうだァ!」
「自分でばら撒いた魔力を槍で吸収して……?」
「二つの魔眼の合わせ技! 魔法一つ使えねぇ、テメェにはできねぇ芸当だろうがよぉ!」
突貫、破渦。
セラに砲撃が薙ぎ払われる寸前、さっきまでの槍に身の丈以上の巨大な刃を生成したイーサンが姿を現し、猛烈な勢いで突っ込んで来る。
でも、この程度の絶望など、意に介す必要もない。
「とんだ道化ね。そんな貰い物の力に驕って、自分を見失うなんて……」
射出、進化。
背後より撃ち放たれた紅桔梗の魔力弾が魔力砲となって飛来し、俺へと直撃する。
「目玉だけ残して死にやがれェ! オラァ!!」
「多少驚かされたが、所詮……子供騙しだ」
“混沌祓う聖魔の双戟”――。
エゼルミア陛下からの魔力を受け取り、“レーヴァテイン”を抜刀。
“デュランダル”と共に膨大な漆黒を纏わせ、二振りの剣を振り抜いた。
これもまた、奴が言うところの魔眼同士の疑似合わせ技。
条件は五分。
「が……はっ!?」
しかし砕け散ったのは、魔眼を弄んだ二つの武具だけだった。
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