第104話 革命の集団殺戮
更に日付が変わり、再びの夜。
やけに人口密度が低いレジスタンス拠点は、重苦しい緊張に包まれていた。
「――なるほど、そちらの心情とこの街の状況は把握した。こちらは好きに動かせてもらう」
「おいおい……此処まで一緒にやって来たんだから、そりゃないぜ。協力した方がお互いにとっても、良いこと尽くめだしよォ。お宅らせっかく良いもん持ってんだろぉ?」
「会って二、三日だし、何も見せた覚えはないんだが」
理由は、俺たちとイーサンらが袂を分かとうとしているから。
目的は近い。でも手段と思いが違う。
何より、一見気の良さそうな連中ではあるが、行動指針、態度――おそらく連中の最終目的は、ミュルクを独立国家として存続させること。口には出していないが、そんな感情が透けて見え始めていた。
つまり限りなく敵ではないが、いずれぶつかることになりかねない相手だということ。
既にこの街を蝕む要因については、見当がついている。
それ故に、どちらの勢力にも加担するわけにはいかないという結論だったが、何故か向こう側からは名残惜しそうな視線を注がれている。
「セラティアもなんで、そんな奴に付いてくんだよ!? 俺たちと一緒にいろよ!」
「発言の意図を理解しかねますが、それ以上は私に対する侮辱と受け取らざるを得ませんね。これは私の選択ですから」
「な、なんで……」
ただの少女である“セラティア”から、聖剣の皇帝である“セラフィーナ”へ。
「ミアお姉さん……」
「ごめんなさい。貴方たちのママにはなれないのよ」
「アイリちゃんも行っちゃうの?」
「友達が増えるとすれば嬉しいけど、ずっと一緒にいるわけにはいかないから」
「アムラ様! いやァっ!」
「私には使命がある。すまないが失礼させてもらう」
他の皆もそれぞれ素の一面を覗かせ、レジスタンスを一蹴する。
所詮、彼らの前で見せていたのは、偽りの姿であるということ。
今の俺たちには果たすべきことがある。
こんなところで立ち止まるわけにはいかない。
「――いや、もう遅ぇぜ」
「何を……ッ!?」
その直後、拠点全体が地響きに襲われる。
知った風なイーサンを尻目に地下から外へ出れば、ミュルクの街には怒号と悲鳴が渦巻いていた。
「これは、軍とレジスタンスの全面戦闘……?」
「そうだ。もう戦いは始まってる。俺たちの“ヨール作戦”がな」
俺たちの視線がイーサンを射抜く。
「今日から一週間と少し、城壁外に出て妨害活動する交代人員には、連中の主戦力が割り振られている。つまり街内の戦力が手薄になっている今こそ、革命の好機ってことだなぁ」
「なるほど、この機会に乗じてゲオルグを討って街を取り戻すというのが、お前たちの電撃作戦……ここまでの反攻活動は、今日の為の資産と人員集めだったわけか」
「そうよ! つまり今日、今、この時、ミュルクの行く末が決まるわけだ! ここにいるお前らも無関係じゃいられねぇ!」
「そんな戯言が罷り通ると思っているのですか?」
「通るさ! ウチの連中が宴会で酒の入ったミュルク軍に襲い掛かっている。戦力が足りねぇから、一人でも多くの民衆を焚き付けてなァ! このごった返した中、お前らの顔を見れば、連中は助けを求めるだろう。共に戦おう! 力を貸してくれってな!」
「貴方という人は……」
「さあお前らは連中の無垢な視線を裏切って、自分だけこの街から脱出できるってのか!? ここにいる子供たちを見捨てて逃げるってのか!?」
正直、このレジスタンスがどうなろうが知ったことじゃないが、ゲオルグ一派との大規模戦闘が始まってしまった以上、関わらないわけにはいかない。
何よりこの男は、突発的に現れた俺たちすら作戦に取り込み、否応なく戦わざるを得ない状況を作り出した。小規模内での人心掌握術においては、そこら辺のオッサンと済ませられるものじゃない。
「一緒に戦って勝利を掴もうぜぇ! 俺たち仲間だろ!? なぁ、おい!!」
それにイーサン以外の誰もが、一片の疑問すら持つことなく純粋な眼差しを向けて来ている。これではまるで意志を感じさせる人形――明らかに異常な光景だった。
「今は彼らの誘いに乗るしかないようね」
「ほぉ、話が分かるじゃねぇか。んじゃ、頑張ってくれや!」
「何か勘違いしているようだけど……」
「あん?」
「こちらの目的はこの街の開放であって、貴方たちを助けることではないわ」
「だから、同じことだって……」
「障害は全て排除する。お前も身の振り方を考えておいた方がいい。色々隠しているのは、お互い様だろうしな」
「な……テメッ!?」
直後、イーサンの両手足をエゼルミア陛下の拘束魔法が縛り上げる。奴は芋虫の様にレジスタンス基地の床に転がった。
「今は殺さない。お前には話を聞かないといけないからな。とはいえ……」
そんな会話を余所に、俺は吹き飛んできたミュルク兵を蹴り飛ばしながら言葉を紡ぐ。
「まずは喧しい地上を何とかします。小都市全土を巻き込んでの集団殺戮なんて、笑い話にもならない」
「ええ、私も出撃ましょう。エ……」
「ミアさん」
「……ミアさんたちは、この周辺の守りと監視をお願いします」
「りょーかい」
「それと、気を付けて……」
「互いにね」
エゼルミア陛下と頷き合うと、俺たちはニヴルヘイムとアルフヘイムの二手に分かれて、この狂った革命を止めるべく行動を開始した。
少なくとも俺の想定が正しければ、ゲオルグさんを討っても、何も解決などしない。元凶は――。
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