第103話 不協和音
「持ち場、作戦……一体どういう……」
「おい、セラティア! そんなとこに突っ立ってねぇで一生に食おうぜ! 飯が冷めちまう!」
「いえ、先ほどアイリさんが言っていたように、私たちは自前の食料を用意していますので」
「いいじゃん、いいじゃん! そんな硬いこと言わないで一緒に食おうぜ!」
「そう、そう! せっかくの……機会だしぃ?」
「うっせー!」
事の次第をイーサンに問い詰めようとしたが、各所から人の波に吞み込まれて身動きが取れない。これが“敵”であれば、全て蹴散らすところだが、“敵でもなければ味方でもない相手”なのだから、強引に進むわけにもいかないだろう。
今この状況でこのレジスタンスから脱するとすれば、今後街での隠密活動は不可能に近い。
何故なら、街の中央部はミュルク軍、外周部はレジスタンスが牛耳っており、双方と敵対などすれば、どうやっても周囲に見つかってしまうからだ。
俺たちには都市内での拠点と情報を、連中には必要があればこちらの戦力を――つまり利用し合う関係がベストと判断したが故の現状。
とはいえ、主要人物らしいジャックを一蹴してしまった俺以外の面々は、存外この場所に馴染んでいるようだった。
「ミアお姉さん、私たちと……」
「ごめんなさい、あっちのお兄ちゃんたちとお話があるから」
「えぜ……み、み、あ……くそっ! 呼び辛い!」
「アムラス様! お待ち下さいまし!」
「失礼する!」
原因は溢れ出るカリスマ性か、優れた容姿か――王や勇者という肩書抜きでも、お近づきになりたい者は多いようだ。まあ注目されている当人たちが戸惑っているのは、言うまでもない。
「本当に、よくこの状況で……」
というか、比較的庶民連中と感性が近いと思われる――いや、思いたくない俺ですら、このポジティブ祭りに戸惑っているのだから、皆が困惑するのは無理もないだろう。
因みに先ほどから頻り話題に上がっていた食料関係についてだが、レジスタンスと俺たちで食事が別口であるというのが原因だった。
何故こんなまどろこっしいことをしているのかといえば、連中の食料事情を気遣って――というわけではなく、単純に自衛の為。簡単に言ってしまえば、食事に何か仕込まれかねないと警戒しているわけだ。
今の状況を見越していたわけじゃないが、旅ということもあって、たんまりと食料は買い込んで来ている。それに必要であれば、城壁の外で調達も可能だ。連中には悪いが、当面世話になることはないだろう。
「しっかし、もっと薄着になれよ。いくらミュルクが北の方だって、地下までフル装備している必要なんてねぇだろ?」
「いえ、少しばかり温暖な所から来たばかりなので、まだ気候の変化に慣れているとは言い難い。お気遣いだけ受け取っておきますね」
「お、おう……」
そんな中、外向けの笑顔を張り付けるセラを前に、ジャックは耳どころか首まで赤くしながら壊れた機械の様に湯気を上げている。
まあセラを含め、俺たち全員が外套を着用しっぱなしであるというのも、連中には気になるところなんだろう。と言っても、理由は食事関係と同じ。
“レーヴァテイン”、“デュランダル”、“グラム”、“プルトガング”、“テュールゲイルス”。
どれも超国宝級の代物であり、世界規模の馬鹿が見ても商人が持っていいような代物じゃない。ましてやこれだけ揃い踏みなのだから、芋づる式に正体がバレてしまう。
それはアイリスが一応持ったままであるクリスクォーツの剣や、アムラスたちの武器ですら同様。
無策で行動するより、石橋を叩き過ぎるぐらいでちょうどいい。これがこちら側の共通認識であるということだ。
「だが……」
ゲオルグ・ドライターを捕らえれば、この事態が解決する――と、連中の様に喜べない自分がいる。あの人が軍事政権のトップであり、事態沈静化の為に必要な人物であるのは間違いないはずなのに。
それに――いくら社交的だろうが、お国柄だろうが、初対面で敵かもしれない余所者に対して、こんな距離の詰め方をしてくるのだろうか。
一人や二人なら分からないでもないが、組織として全面の信頼を向けて来るなんて――。
先のアースガルズとの戦争に端を発したこの一件、何かもっと大きな意思の元、事態が動いているように思えて仕方ない。それがどんな思惑なのかは分からないが、世界を満たす混沌はもうこんな辺境の街ですら激しく渦巻いている。
既に多くの人間を巻き込みながら。
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