チャイムが鳴ると
教室にチャイムが鳴りひびく。
授業と休み時間の切りかえを告げる合図だ。
机のうえの教科書とノートをしまうと、おのおのが好き勝手に行動を始め、室内がにぎわい始める。
ボクが机の上を片付けていると、前の席に座る友人がこちらを振り返った。
友人は静かに、真剣な表情でだまりこんでいた。
朝からなにか言いたそうにしていたが、いまだに話す決心がつかずにいるようだ。
「あのさぁ……」
そこで言葉を区切り、友人はふたたび静かになった。
急かすようなことはせず、ボクもだまって友人の言葉を待っていた。
沈黙ののち、ふいに、友人がクチを開く。
「オレ、今日を何度もくり返しているんだ」
「……へぇ」
ボクの気のない返事に、
「いや、ウソとか冗談とかじゃなくて、マジ! マジな話なの!」
友人は思わず声を荒らげた。
友人によると、ある特定の時間帯から抜け出せなくなる、それに類似するような現象を『タイムリープ』だとか『タイムループ』だとかいうらしい。
「夜の十二時を過ぎても次の日にはならなくて、また今日にもどってきちゃうんだ」
すでに何十回もくり返しており、今回初めてボクにそのことについて話してみたのだという。
友人は、『くり返す時間のなかにフラグ的なものがあり、それをこなすまで抜けられない』と考えているらしい。
二人で、今日一日の行動をリストアップし、いままで試したことやタイムリープの原因考察などを話し合う。
とは言っても、友人がひたすらに考えを話し、ボクはつねに聞き役にまわり相槌を打つだけだった。
すべてを話し終えると友人は、ボクに話したことでひとまず満足したようだ。
そうこうするうちに休み時間の終わりが近づき、みんなが席にもどり始めた。
そして、机のうえに教科書とノートを並べ始める。
友人もボクに礼を言い、話を切り上げて前を向いた。
教室にチャイムが鳴りひびく。
授業と休み時間の切り替えを告げる合図だ。
おのおのが好き勝手に行動を始め、室内が談笑の声でにぎわい始める。
前の席の友人がこちらをふり返った。
「あのさ……オレ、今日を何度もくり返しているんだ」
「……へぇ」
ボクは、何百度目かもわからない気のない返事をする。