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VS 熊のモンスター


 ウェインがふと気が付くと、熊をチョークスリーパーで完全に落としていた。


「し、しまった! 俺とした事が……!」


 全長3メートルはありそうな巨大な熊が、口からは泡を吹き、その目は完全にどこかの世界にイっちゃっている。


「師匠は、そっと自然に返してやれって言っていたのに! 俺は何て未熟者なんだろうか! まだまだ師匠の足元にも及ばないじゃないか!」


 ウェインが落ち込んでいると、残り2匹の熊達が唸り声を上げ始めた。

 ところがその2匹は、ウェインとは真逆の方向を向いて何かに警戒しているようだった。


「……ん? まだ何かいるのか?」


 ウェインが2匹の熊が睨んでいる先を見てみると、森の小高い丘の上に仁王立ちしている巨大な熊の魔物がいた。


 熊の魔物の全長はウェインが倒した熊よりも2倍以上あり、食欲旺盛なのか、下っ腹は地面に着くほど膨らんでいる。


「マジか!? ひょっとして俺が倒したのは小熊だったのか!?」


 実はこの丘の上に立っている熊の魔物は、「ベアデビル」と領民達に呼ばれるほどの邪悪な魔物だった。


 このベアデビルのせいで、領民は森には誰も近づけなくなってしまったのだ。



「まさか、自分の子供を絞め落とされて怒っているのか!? いやきっとそうに違いないっ!」


 ウェインは小高い丘に近づき、母親熊だと思い込んだ熊の魔物「ベアデビル」に話しかけた。


「す、すまん! つい興奮して絞め落としてしまったんだ! 本当はそっと自然に返すつもりだったんだ! 許してくれ!」


 巨大なベアデビルは、そんなウェインの言葉を完全に無視するよに、猛然と小高い丘から走り降りて来た。


――――グゥガアアァァァアアーっ!!


 ベアデビルは丘を降りると、大きく跳躍してウェインの頭を食いちぎろうとする。

 ウェインは咄嗟に身を屈めてそれを避ける。


「……だ、だから謝っているだろうが! 」


 今度はベアデビルの巨大な爪がウェインを襲う。

 間一髪、これもウェインは避けるが、その頬は引っかかれて大きな傷跡が残ってしまった。


 それを見てベアデビルはニヤリと笑う。


「て、てめえ……、その卑しい笑みは見た事があるぞ! ……そうだギルトンだ。貴様はギルトンだな!?」


 再びウェインに怒りのオーラが宿る。


「ギルトンてめえ、銃が開発されたからって、俺が極めた剣を完全否定しやがってええぇぇええー!!」

「…………!?」

「さらには、アデルが指一本触らせてくれないから、側室を作ろうとした時も頑なに反対しやがって!」

「…………!?」

「何で苦労して領主まで上り詰めて、修行僧のように禁欲生活を極めないといけないんだよ!? 俺は修行僧か? 修行をしたそうに見えたのか!?どうなんだああぁぁああぁぁああーっ!!」



 森を長年支配して来た熊の魔物「ベアデビル」は、生涯において「恐怖」という物を感じた事がなかった。


 彼は生まれながらにして絶対的な強さを持ち、森の全ての生き物を牛耳って来たのだ。


 それがどうだ!?

 目の前にいる生身の人間を前にして、自分の4本の足は完全に萎縮して振るえている。



 それでも、ベアデビルは生まれて初めて知った恐怖に打ち勝とうと、自分を奮い立たせて目の前の男に牙を向いた。


 再び獰猛な牙を剥き出しにして、ベアデビルはウェインに襲いかかる。


「ギルトンっ! 俺の長年の苦しみを思いしりやがれええぇぇええぇぇええーっ!!」


 ウェインは両拳の連打を、凄まじい速さでベアデビルのボディに叩き込んだ。


――――グゥベエェエェエエエーっ!!



 ベアデビルは悶絶する。


「オラオラオラオラアアァァアアーっ!! 俺の怒りはこんなものじゃねえぞおおぉぉおおーっ!」


 ウェインの正拳突きの連打を喰らい、ベアデビルは完全にグロッキーになっていた。


 そしてウェインは、素早くベアデビルを逆様に抱きかかえて、大地を蹴って跳躍した。


「ギルトン、てめえの薄汚ねえ脳天をかち割ってやるぜええぇぇええーっ!!」


 ウェインのパイルドライバーでベアデビルは頭から地面に叩き付けられ、半死状態になってしまったのだった。


 そんな半死状態のベアデビルを見たウェインは、ようやく我に返り落ち着きを取り戻した。



「……ま、またやっちまった! 何をやっているんだ俺は!?」


 熊の魔物を半殺しにしてしまったウェインは再び落ち込んだ。

 

「でもまあ、ギリギリ殺していないし、一応素手で倒した事にはなるか……」


 師匠の域までには全く達していないが、それなりの成果は出せたという事で、ウェインは野営地に戻る事にした。





◇◇◇





「師匠! 何とか素手で熊を倒す事が出来たぞ!」


 再びバルカスのいる野営地に戻ったウェインは、さっそく成果を報告した。


 バルカスはウェインの顔を見て驚いた。

 彼の両頬には、熊の大きな爪跡が残っていたからだ。


 しかも、その爪跡からすると物凄いデカさの前足を持つ熊だというのが、すぐに分かった。


「ああ、お帰りなさいウェインさん! (何だよ、あの顔の傷は!? この森にはあんなデカイ熊がいるのかよ!?)」 

「いや~大分苦戦してしまって、お恥ずかしい」

「物凄い傷ですね。大丈夫ですか? 消毒しないと」

「いや、大丈夫だ。少しかすっただけだから」



 バルカスは思った。


 あの傷からすると、間違いなくこの男は熊と戦ったのだと。

 イカれていやがる! 熊を素手で追い払えと言えば諦めて屋敷に帰ると思ったのに!



 バルカスはウェインの脅威的な戦闘能力にすっかり怯えてしまった。


「ん? 何か獣の匂いがするな。近くに熊でもいるのかな?」

「……ええっ!? う、嘘でしょ、ウェインさん!?」

「いや、間違いないな。どんどん近づいているぞ」

「……!!」


 何とウェインとバルカスの目の前には、魚を咥えた3匹の巨大熊がいたのだった。


 バルカスは震え上がり、一歩も動けない。


「あ! お前らさっきの小熊達じゃねえか。何か用か?」


 ウェインが話しかけると、3匹の熊達は咥えていた魚をウェインの足元に置くのだった。


「お? ……まさか俺に魚を持って来てくれたのか?」

「ま、ま、まさか、そんな事……、あ、ある訳ない」


 バルカスは震えながらも、懐に隠していた小型銃を取り出そうとする。


「お、お前ら、俺が母親熊を半殺しにしたってのに、俺に友情を感じてくれたのか!?」


 何とウェインは3匹の熊の頭を、撫で出した。

 熊達も大人しくそれを受け入れている。


「そ、そ、そんな事あり得ない! どうなっていやがる!?」


 やがて熊達は、大人しく森の中へと帰って行く。

 途中、熊達は名残惜しそうにウェインの方を、何度も振り返って見ている。


「おい、お前ら、またキャンプに来るから、お前らも遊びに来いよ~!」


 ウェインはとびきりの笑顔で、熊達に手を振ったのだった。





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