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ウェイン、キャンプを知る


 森に入った時は、怒りに身を任せて大木を殴り付けていたウェインであったが、すっかり大自然に魅了され、そして癒されていた。


「いや~、思い切って森の奥まで来て良かったな」

「そ、それは良かったですね。 (ちくしょう、俺の分まで魚食いやがって!)」


 ウェインは目をつぶって、ゆっくりと深呼吸した。

 そしてバルカスの方を見た。


「何て言うか、心が洗われた気分だよ。あんたのお陰だな」

「いえいえ、とんでもない。 (領主邸に早く帰れよ、クソっ)」

「何だか悩んでいた事がバカらしくなったよ。本来の自分に戻ったというか……」

「そうそう、自然回帰と言いますか、原点回帰ですかね、それが出来るのかもしれませんねえ」



 バルカスは適当にウェインの言葉に合わせていたが、その言葉を聞いてウェインは黙ってしまった。


「ど、どうかされましたか? (何かまずい事言ったのか!?)」

「……そうだよ、それだよっ、原点回帰だっ!」


 ウェインは、何やら考えている。


「げ、原点回帰がどうかしましたか?」

「あんた、いや、貴方はやっぱり素晴らしい人だ! ぜひ師匠と呼ばせて欲しい!」

「いやいや、私はそんな立派な人間ではありませんよ! ……ていうか、そろそろ日も暮れて来ましたし、帰った方がいいのでは!?」


 バルカスは必死でウェインを追い返そうとする。



「ん? いや今日は野宿するつもりなんだよ。俺も寝床を作らないとな」

「そ、そんな……!?」

「あれ、どうかしたか師匠?」

「い、いえいえ、全く問題ありません。」

「よーしっ、じゃあ一晩宜しくな師匠」



 こうしてバルカスのスパイ活動(?)、第一日目は終わるのであった。




♨♨♨



 

 ウェインが森で野営している頃、ドルヴァエゴの長老宅では領民達による話し合いが再び行われていた。


「それで、新しい領主はどんな奴だったの、ステファンさん!?」

「それが……、私は未だに信じられないのですが……」


 領主邸の執事として、新領主ウェインの様子を伺っていたステファンは、リアナや他の領民達に今日の出来事を報告し始めた。


「それでステファンさん、そのウェインとかっていう領主は、税金をどれくらい搾取するつもりでいるの!?」


 リアナが眉間に皺を寄せて、ステファンに尋ねる。


「そ、それが『税金は当分の間無し』だと彼は言うのです」

「な……!? ぜ、税金は無しですってっ!?」


 数秒沈黙した後、リアナは大声で笑い出して話を続けた。


「私達は随分バカにされたものね! 新しい領主はふざけてるわ。どうせ私達を喜ばせておいてから奈落の底に突き落とすのよ! そうに違いないわ!!」

「そうだ、リアナの言う通りだ! そんなうまい話があるかよ! 税金無しでどうやってこの地を運営していくってんだ!」


 リアナ達を静かに見つめ、ステファンは再び口を開く。


「それが、彼は領主邸を売却して、その金で食糧を買って領民に配るというのです」

「…………!?」


 リアナと他の領民、そして静かにそれを見守っていた長老も、しばらくの間言葉を失った。

 いや、正確に言うと長老は居眠りをしていた!



「ば、ばかな!? やはり俺達を騙そうとしていやがるのか!?」

「それが、彼はとても真剣な眼差しで私にそう言ったのです。そして彼はこうも言っていました。『税金や農作物を搾取する奴は、俺が剣で切り捨てる!』と」


 領民達はステファンの言葉に再び言葉を失った。



「とりあえず、明日の朝には新領主のウェインは領主邸に帰って来ます。本当に邸宅の売却をするのか、この目で確かめてみようかと思います」

「ど、どうせ、その領主は口から出任せを言っているんでしょうけど、もう少しだけ様子を見てもいいかもしれないわね」


 領民達はリアナの意見に賛成し、事の成り行きを見守る事にしたのだった。


「ステファンさん、ウェインの化けの皮が剥がれたらすぐに連絡してね。すぐに私達は領主邸に乗り込んでやるんだからっ!」


 しかし、領民達はリアナとまったく同じ考えであり、ウェインに対する警戒心はそのままであった。




♨♨♨




 その日の夜、ウェインはバルカスと供に焚き火に当たりながら自己紹介などをして、星空を眺めていた。


「か~、星空なんて何年ぶりに見たんだろ? 最高過ぎるだろ、これ!?」

「そ、そうですね。 (まったく、いちいち感動するんじゃねえよ!)」



 バルカスは一泊していく事になったウェインに嫌気が差していた。


 どうにか追い返さないとまずい!

 このままだと、ずっと一緒に野営するハメになる!

 こんな危ねえ奴に、俺がギルトン様の手先だとバレたら、きっと酷い殺され方をするに違いないんだ!

 


 しかし、ウェインの近況を報告する義務がある以上は、遠くに逃げる訳にもいかない。

 バルカスはどうにか上手い事ウェインを追い返せないか、必死に考え込んでいた。


「師匠はいいなぁ。いつもこんな暮らしをしているのか~。俺もずっとこのまま野営をするかな」

「ウェインさん、実はこれ、野営ではないんですよ」

「えっ? どう考えても野営だろ?」

「いえいえ、正確には『キャンプ』という物なのです」

「キャンプだと!?」


 ウェインはあまり思い出したくない言葉を耳にした。

 彼は自分のスキルが『キャンプ』だと知られ、笑われるのが嫌になっていたのだ。


 そんなウェインは、バルカスの顔を険しい顔で覗き込む。

 バルカスは冷や汗が止まらなくなる。



「……キャンプってあれだろ? 今貴族の間で流行りつつあるっていう」

「そ、そうです。それもキャンプの一種です。がしかし! あんな豪華な物は本当のキャンプではないのです!」

「本当のキャンプじゃないだって!?」


 ウェインは驚愕の表情を浮かべた。


「その通りですウェインさん。屋外で贅沢なパーチーをするのがキャンプだと、貴族の方達は勘違いされているのです!」

「パーチーって、もしかしてパーティーの事か?」

「そ、そうです、それです! いいですかウェインさん、キャンプとは昼間も言いましたが『原点回帰』なのです。ナイフ一本でサバイバルするのが本当のキャンプなのです!」

「やっぱ野営じゃねえか」


 バルカスはウェインを追い返したい一心で、頭を回転させる。


「ち、違います! キャンプとは自然回帰です。ウェインさん、例えばもしこの場で熊に襲われたら、貴方はどうしますか!?」

「熊? ……ああ、とりあえずこの剣でぶっ殺すかな。前にそうした事あるし」

「…………!?」


 剣一本で熊を殺したと言うウェインに、バルカスは戦慄した。

 こ、こいつならマジでやりかねない、マジで危ねえ奴だ! とバルカスは再び冷や汗をかくのだった。




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