突撃! 農家の娘さん!
バルカスの想像を遥かに超える戦いっぷりで、帝国兵士を倒していく農家の男達。
しかし、それ以上に暴れまくっている、1人の少女がいた。
その名はリアナ。
農家の娘にして、長老の孫でもある。
彼女はまさに男顔負けの戦いっぷりで、次々と帝国兵をなぎ倒していっている。
しかし、そんな彼女にはある一つの欠点があった。
「あ、危ない! ……総司令官殿を殺らせるものかっ!」
バルカスに斬りかかろうとしていた帝国兵を、リアナが防いだ。
「ハア、ハア…… そ、総司令官殿! ここは私に構わず、先に行ってくださいっ!」
リアナは自分が犠牲になってでも、バルカスを先に行かせようという顔付きで、バルカスに訴えた。
「……あ、いや、リアナさん、もう相手の兵士達は絶命してますよ」
「……ん? あ、ほんとだ」
バルカスは思った。
こいつ、完全にかぶれてやがる!
俺を「総司令官」と呼びたがってた時から、嫌な予感してたんだよ。
そういう世界に憧れてたんだなぁ。
でも、3000人の兵士を目の前にして、それをやるか?
こいつは結構まともな奴だと思ってたが、どんでもない。
単なる頭の痛い娘じゃねーかっ!
「うおおぉぉおおーっ! 今宵の我が魔剣は多くの血を求めているぞっ!!」
リアナはそう叫びながら、畑仕事で使う鍬を振り回すのであった。
「な、何だあの女の武器は!? 畑を耕す鍬じゃねえか!?」
「いや違う! 似ているが鍬にしては強力過ぎる!」
「くそっ、最新型の武器に違いあるまいっ! 気を付けろ!」
リアナにも警戒する帝国兵達だったが、リアナはどんどん前に出て彼らを薙ぎ倒して行った。
◇◇◇
ウェインの仲間で1人だけ、その場にふさわしくない燕尾服姿の男がいた。
その名はステファン。
ドルヴァエゴの出身ながら、各地を転々として執事の仕事を学び習得して来た男だ。
執事の仕事はもちろん、政治経済、軍事戦略、なども猛勉強の末に習得し、大陸に伝わる正統な剣術も極めたのだった。
誰からも完璧な執事だと認められた彼は、最後は生まれ故郷に戻って地域に貢献したいという気持ちから、ドルヴァエゴの前領主ゴルネオの専属執事となった。
がしかし!
ゴルネオは、以前の領地で問題を起こし、辺境の地であるドルヴァエゴに左遷させられていた男だったのだ。
その為、どんなにステファンが領民の苦しみを訴えても、ゴルネオはまるで聞く耳を持たなかった。
1人、また1人と領民が餓死していく中、己の無力さを呪ったステファンだったが、ゴルネオがドルヴァエゴを去り、新たな領主が赴任して来るという話を聞いたのだ。
そして、今度の領主も「悪徳領主」と呼ばれていたという話を聞いて、彼は絶望した。
しかし、実際にドルヴァエゴにやって来た新しい領主は、噂とは正反対の男だった。
彼は、税金はいらないという。
屋敷や執事もいらないという。
そして、畑を荒らしていた凶暴な熊を倒してくれた。
さらに、魚を独占していた熊の魔物も倒してくれた。
自分の衣服と大事な結婚指輪すらも売却した。
その金で農耕具や設備を買ってくれた。
100年以上も交流の途絶えていた、ヤメーメ族との交流も蘇らせた。
領民であるヤメーメ族の女が攫われると、先頭に立って帝国に戦いを挑んだ。
領民の為なら、帝国すら敵に回す男なのだ。
ステファンは、ウェインこそ、長い間求めていた理想の主人、英雄だと確信していた。
「ゴルネオ! 我が故郷ドルヴァエゴはウェイン様によって生まれ変わった! この地で勝手な真似は許さんぞ!」
ステファンは見事な剣さばきで、襲ってくる帝国兵士を次々に切り伏せていた。
◇◇◇
「ゴルネオ様、奴らは一点突破でどんどん近づいて来ています!」
伝令の兵士を前に、ゴルネオは歯ぎしりしていた。
「くそがっ! 一体どこの誰なんだ!?」
ゴルネオは再び双眼鏡を覗きこむ。
すると、こちらにどんどん向かって来る集団の中に、見覚えのある男の顔があった。
「んん!? あれは確か執事のステファンではないかっ!? あいつがどうしてこんな所に……!?」
ゴルネオは考えを巡らせる。
執事のステファンがいるという事は、もしや一緒にいるのはドルヴァエゴの新しい領主になったウェインという男か!?
まさか、ヤメーメ族の女達を攫ったのがバレたのか?
しかし、交流の無い山の蛮族が攫われたくらいで、領主が動くだろうか?
故郷思いのステファンが、ウェインに懇願したのか?
それなら可能性はあるな……。
「おい、人質のヤメーメ族の女達を出せ!」
「は!?」
「奴らはきっと、ドルヴァエゴの領主とその仲間だ。人質を盾にするのだっ!!」
「……はっ!! かしこまりました! 直ちに連れてまいります!!」
ゴルネオはヤメーメ族の女達を盾にして、ウェイン達を殲滅しようと動き出した。