15魂
咄嗟に膝をつき揺れに耐えた私達の前を、壁を貫いた白い帯が通り過ぎていく。建物全てを貫き、轟音を鳴り響かせた白は、私達が魂と仮定した物体から伸びていた白い光だった。だが、これは光ではない。透明度がまるでなく、明確な質量を持っている。
近くで見るとその大きさが分かる。一本一本が一つの塔だと言われても納得がいく大きさだ。酷く重たい音を立て暴れ狂う白い帯は、王城も掘っ立て小屋も構わず根こそぎ薙ぎ倒していく。その姿は、のたうち回る生き物に似ていた。
「伏せろ!」
王子の怒声と共に頭を押さえられ、赤煉瓦道に突っ伏す。雷に似た耳を劈く音が響き渡る。視線だけを必死に上げた先で、白い帯が裂けていく。裂けてなお巨大なそれは、数を増やして暴れ回った。
「こんな中で本当に生還者が出たのか!? さぞや屈強な戦士だったんだな!?」
「十二の少女もいました」
「せ、戦士!?」
「病弱な、現実では身を起こすこともままならない少女です」
引き攣った声を上げる王子とは別の意味で、私も胸がひりついた。
これは、まずい。精神を基盤とした世界が、心が砕けたわけでもないのに崩壊しようとしている。それも、ある意味で物理的な衝撃によって。これは肉体が破壊された可能性がある。
「肉体に異常が発生したのかもしれません。この状態が通常であるなら、流石に非戦闘員それも魔術師でもない一般人が幾人も生還しているとは思えません」
もたもたしている暇はないようだ。あちこちで建物が崩れ始めている。それまで罵声以外音にしなかった人型達も、慌てふためきながら金切り声を上げた。奴らにとっても不測の事態なのだろう。細かく分かれてなお赤煉瓦道より幅がある白い帯が、一帯を打ち砕いていく。
「どうする? 魔術師としての意見は?」
「……白い帯の発生源となっている玉座の場はほとんど壊れていませんから、一番安全かと。けれど、そこに辿り着くまでが危険すぎます」
出来るなら玉座に二つある、魂(仮定)を確かめたい。そうでなければ、この場を離脱していいかの判断もつけられないのだ。しかし、私の魔力でどこまで太刀打ち出来るだろうか。この場には現実で身につけていた物全てがある。それでも相手が巨大すぎた。残る魔力の瓶は五つ。そのうちの二本は王子の防衛に使うとして、残り三本でどこまで出来るか。
こんなことになると分かっていれば箱で背負っていたのに。そして雷雨を背に縛り付けていただろう。魔術を使わないと一人では絶対に動かせないが。
暴れ回る白い帯の隙間から空が見える。建物が絡み合っていてずっと見えていなかったが、いつの間にか空の海は消え失せていた。門の外に広がっていた無がそこにある。恐らく、地面も同じなのだろう。私達がいた部屋も半分刮げ取られ、崩れ始めた。
王子だけは、王子だけは絶対に返さなければならない。その為に私はいるのだ。
ぎゅっと杖を握り、立ち上がろうとした私の腕を、私より早く立ち上がった王子が取った。驚いている間に引っ張り上げられ、よろめきながら立ち上がった隙に手が繋がれていた。少し汗ばみ、冷え切った手が、痛いほどに私の手を握りしめる。
「援護しろよ、魔術師!」
「王子、何、をっ!?」
私の手を引いたまま駆け出した王子は、そのまま刮げ取られた部屋の外へと飛び出した。一課の魔術師ならばともかく、二課が宙を飛ぶには少しの間が生じる。急いで術式を構成しかけた私の足は、何かについていた。それが何か認識するより早く王子は走り出していた。
地面が白い。白い、帯だ。
避けてなお巨大な白い帯の上を、王子が私の手を引いて走り抜けていく。分かれた白帯の先は今も荒れ狂っているが、根元へ向かえば向かうほど動きが少なくなる。それでもうねりは大きく、急だ。一つの段差が身長を超す。二人がかりでよじ登れば越えられる可能性もあるが、うなる白帯の上で足止めれば落下一直線だ。
風を生み出し、互いの足元に纏わり付かせる。
「私は身体能力に恵まれませんでしたので、王子がうまく扱ってください!」
「俺も初めてだから自信はないぞ、っと!」
通常人間が出せる跳躍の優に三倍を軽く飛んだ王子は、目を丸くした。その目に光が散っている。こんな状況なのに、子どもが新しい玩具を手に入れたかの如く、未知なる期待に胸躍らせる光だ。
激しくうねる白帯の上を、王子が私の手を引いて走り抜ける。突如波打った地面を物ともせず、軽々と飛び越え、羽でも生えているかのように自由に広々と。
「王子、王子、楽しいですか? 王子」
縋るような気持ちだった。誰に? 神などいないこの世界で?
もしも神がいるのなら、優しいこの人はあっという間に連れていかれてしまっただろう。けれど神はいないから、祈っても願っても何もしてくれない代わりに、無為にこの人は奪われない。そんな世界で、祈りは誰に向かって湧き上がるのか。人はそれを、愛と呼んだのだろうか。
繋がった手を微かに引き、懇願のような声を出した私に王子は振り向いた。
「いや、全然!」
無邪気な子どもが浮かべるものと全く同じ顔で、王子は笑った。
こんな愉快な嘘があるものか。楽しくて楽しくて、まだまだ遊び足りなくて。だけど満足したら宣言される帰りを恐れる。そんな、子どもの浅知恵が繰り出した隠せるはずもない下手くそな嘘。
楽しいと言ったら取り上げられ、嬉しいと言ったら奪い去られ、恋しいと笑えば殺される。そんな生しか知らない人の嘘は、いつだって愉快で悲しい。
笑った。あなたが、笑った。
私の魔術で、笑ったの。
轟音と共にうねる白帯の上を文字通り飛ぶ王子は、この場において誰よりも自由だった。地を這い怨嗟を撒き散らすだけの人型、根元が繋がった巨大な白帯も、王子に手を引かれないと飛べない私も、誰も王子を掴まえられない。
それでいいのだ。この人は、本当はこんなにも自由に、どこまでだって飛べる人なのだ。王妃が翼をもぎ取らなければ、周囲がそれを許さなければ、他者への被害を恐れ本人が諦めてしまわなければ。もっとずっとどこまでも、生きていける人なのに。
嬉しい。嬉しくて、胸が痛い。
私、あなたに言わなくてはいけないことがあるんです。本当はずっと前に、それこそ王城への出入りが許されたときに。あなたに告げなければならなかった言葉があって。
最後のうねりを飛び越えた先はもう、玉座の間だった。凍り付いた川に囲まれた玉座は、巨大で荘厳で、二つの白を置くただの土台だ。
凄まじい風で反射的に閉じそうになる目蓋をこじ開け、着地までに出来る限り情報を取得する。玉座の前に乗っている白い物は二つ。そのうちの一つから白帯が溢れ出している状態を見て安堵した。片方は無事なのだ。ならば、肉体が損傷したのは私である。
玉座の間へ着地すると同時に、何かを通り抜けた気がした。水面をくぐり抜けたような、風の塊を真っ正面から受けたような、曖昧な感触の確かな壁がそこにはあった。
気が付けば、見慣れぬ場所に立っていた。多数の石が生えた場所。墓場だ。
空も景色も地面も、砂嵐のようにぶれている。たまに一瞬だけ本来の景色が現れているようだが、大半掠れて削れていた。
一つの真新しい墓石の前に、喪服を着た少年がいる。王子ではない。知らない少年だ。赤髪の少年は、見下ろしていた墓石から視線を外し、一際激しくぶれている場所へ向けて口を開く。
「父上も姉上も、貴方には王の資質があると最後まで信じ、死んでいった。イェラも貴方と共にある現状に不満はないでしょう。たとえ、今この瞬間死にかけていても。けれど僕は、貴方にそんなものがあろうがなかろうがどうでもいいのです。貴方の罪の有無さえどうでもいい」
これは何年前なのだろう。十歳にも満たぬ少年が向けた視線は、見上げられていない。酷くぶれたその場所に、同じ高さの誰かがいるのだ。
「貴方の生で人が死ぬ。貴方の死で救われる。その事実だけが分かっていれば充分です」
泣き濡れた痕が痛々しく残る少年の目には、何の光も残ってはいなかった。
「父上と姉上が死んだのは王妃の所為です。母上が自害したのは僕が彼女を支えられなかったからです。貴方に罪はありません。けれど、貴方が生きていれば人が死ぬ。それを分かって生き続けるのであれば、僕は貴方にこの言葉を贈りましょう」
さっさと死んでくれ、人殺し。
ざっと砂嵐が世界を飲みこみ、少年の姿は掻き消えた。
砂嵐が世界を覆い隠す。
ざぁざぁと途切れる音と風景が、薄汚れた今にも息絶えそうな、けれどどこまでも醜くしぶとい街を隠す。砂嵐は先程より酷く、ほとんど掠れてしまっている。それは私が魔術師だからか、それとも身体が死にかけているのか。
「――は――――……い?」
そこに少年がいるのだが、ほとんど何も見えないし、聞こえない。
「――――――――――い。…………――――……ば、君――……」
ざっ、ざっと砂嵐が全てを流していく。けれど確信がある。絶対に、何があっても途切れぬものがあるのだと。そしてそれは、先程私が見たようにこれを一緒に見ているであろう人に、一番聞かせてはならない言葉だと。
「必ず、第一王子を殺すんだ」
ぶつりと、全てが途絶えた。
気が付けば玉座の前に立っていた。白帯の被害はここには及ばないようだった。外では相変わらず世界を破壊し続けているが、唯一それら全ての傍観が許される空間がここだ。
けれど床はでこぼこと波打ち、所々感触が違うようだ。ふわふわした箇所もあれば、馬車が沈み込んでいる部分もあった。どこまでもちぐはぐな世界を見遣った先で、六歩離れた場所にいる人を見つける。やはり、この中ならば四歩の制限はなくなるらしい。あえて試さなかったが、ずれなかったはずの着地点以上に離れている人を見て確信する。
当たり前だが、手はいつの間にか離れていた。
王子は、私を見ていた。
怒りも失望もなく、光もない。何もない瞳で、柔らかく微笑んでいる。
「なあ、お前はどうしてほしい?」
穏やかな声は、驚くほど静かで柔らかい。
「俺に傷ついてほしい? それとも何も感じないでほしい? 命はくれてやれない代わりに、それ以外の傷なら好きにつけさせてやる」
「……それは、心をくださるということですか?」
「お前がそれを望むならな」
じわりと何かが滲み出す。胸からは形容しがたい感情が、脇腹からは液体が。ローブがあってよかった。肉体の損傷が私で、本当によかった。魔法相手にどこまで太刀打ち出来るか定かではなかったが、影は正常に作動しているらしい。
「降参だよ。まさか昨日の今日でここまで俺の心を引っかき回す奴がいるとは思わなかった。凄いな、お前。一貫して変人で在り続けたのに、実は暗殺者でしたとか、もうお前の勝ちだよ。命以外なら好きなもの持っていけ」
互いの過去が見えたこと、肉体が損傷している方の魂が暴れていること。それを見て、ここにあるのは間違いなく私達の欠けた魂の一部だと確信する。よかった。これ以上探す時間も余裕もなかった。
「何も要りません」
「王妃は貴族として完成されている。だから、依頼をこなせば相応の対価を払う。それは間違いない。お前が何を望んだかは知らないが、俺は命だけはくれてやれないからな。王妃から受けるはずだった褒美を失うんだ。俺から何かくらいはもらっておけ。くれてやれる物は少ないが、俺に何かしらの損傷を与えれば、王妃もそれなりに納得するだろう?」
「何も要らないんです、王子」
負傷したらしい脇腹から滲み出した液体は、どんどん足元へと下りていく。ふらついて床を擦ったローブが、地面へ赤を描いた。王子の目が見開かれる。
「あなたは心をくださると言った。その事実だけで、もういいんです。だって私はもう、あなたから世界を頂いているんです」
せり上がってきた血液が喉元で滞留し、抑えきれず吐き出す。
「おい!」
「大丈夫です。あの影は、攻撃に耐えきれないと判断した場合、私の分も合わせて王子を守るよう指示しています。だから、私が負傷しあなたが無事なのであれば、正常に機能しています。二つ合わさった場合、王子を二課室へ飛ばす手筈になっておりますので王子の身体は無事です」
「それを大丈夫と呼ぶわけがないだろう!」
駆け寄ってくる王子から逃げるつもりではなかったが、せっかくなので場所を移動する。上手く動かない身体を風で後押しし、玉座まで移動した。
玉座に並んでいる二つの白い塊は、丸でもなければ四角でもない。磨かれる前の鉱物に似ていた。これは私達の魂が歪んでいるのか、そもそもがこういう形をしているのか。そういえばなんとなく丸みを帯びた形を想像していたが、別に丸ければならない義務もなければ理由もなかった。
塊は、隣り合っている部分が激しく損傷し、半ば粉と成り果てている。欠魂した魂が混ざるとはどういう状況かと思っていたが、これなら頷けた。どっちがどっちか分かりやしない。これは、きちんと分離されるのだろうか。それだけが心配だ。
片方の魂から溢れ出した白帯は、一本の細い線の先が玉座の間の境界まで伸び、そこから巨大な白帯となって突如出現している。この場では顕現出来ないらしい。どういう理屈かは知らないが、調査するには時間と情報が足りない。
王子も一拍遅れて合流する。鬼気迫る様子で私の肩を掴もうとした王子は、躊躇った。ローブを被っているから、傷口の位置が分からないのだろう。
「王子、見てください。この魂」
「後にしろ! 怪我を見せろ!」
「負傷したのは肉体ですので、こちらで対処をした所で意味はありません。それより、こちらを。半分近くが砕けていますが、この部分は明らかに意図的に削り取られています。恐らくですが、この部分が魔物の取り分なのではないでしょうか。そうなると、ここにある分を回収できたとしても私達は欠魂したままですが、それでも四歩離れれば昏睡する事態は避けられるはずです。二課に王子が飛んだ場合、誰かがイェラ・ルリックに連絡してくれるはずですから、後はお願いします。影は定期的に調整する必要がありますが、二課に依頼すれば大丈夫です。基本的に二課は無法地帯ですので王妃の影響は受けないはずです。後は――」
轟音が鳴り響き、世界がブランコのように揺れた。このままでは王子の魂にも影響が出かねない。
心を満たしたのは諦念か。いや、希望だ。
言いたいことがあった。言わなければならない言葉があった。けれどこの状況でそれを言ってしまえば、意味がない。それなら墓場まで持っていった方がいい。
王子にとっては全くよくはないだろうが、それでも先に何かがあると祈りたい。祈りとはこうして生まれるのだろう。そして、その先がほしくて、祈りを受け取ってくれる先をほしい願いが、神を生んだのかもしれない。
「王子、騙していたお詫びに、私の研究室から好きな物を持っていってください。道具の説明は、二課長か二課の誰かがしてくれるはずです。試作品も、まあそれなりに何とかなるはずです。中には魔術が扱えないと使用できない物もありますので、その場合はイェラ・ルリックに頼んでください」
「待て、待ってくれ……。お前は、結局何がしたいんだ。俺を殺したいんじゃなかったのか? それか、俺を打ちのめすよう王妃に頼まれたんじゃないのか?」
「王子、一つ質問しますが、そんな人間の感情機微に長けた依頼を私がこなせるとお思いでしょうか」
「いや無理だろ」
短い付き合いだったが、王子はよくお分かりである。ほっとした。これで思っていると答えられたら、王子の人間鑑定が壊滅的な結果となる。
「王子、皆好きなように生きているんです。私も自分の望みに沿って行動しただけですので、それを理解しようと思う必要はありませんし、結果を背負う必要はもっとありません。正妃が嫁いで来る直前に娼婦を孕ませた王も、嫁いできた国で好いた男に関することでのみ愚かになる王妃も、王妃の依頼を受けた暗殺者も、あなたを守った人々も、その人々の死であなたを責める者も、あなたに寄り添い続けるイェラ・ルリックも、皆自分の希望に添って、やりたいようにやっているんです。その結果、死んだり失敗したりあなたを罵倒したり、好きなように行動するんです。ですから、あなたも好きなように生きればいいと思います。様々な事柄に答えは存在するかも知れませんが、答えを提示される可能性は限りなく低く、自分で研究しなければ得られないものが多数です。自分なりの答えに辿り着いても合っているか確認しようがないものも多いので、そういったものはいつか分かれば得をしたと考えとりあえず措いておくことをお勧めします。その上で次はどうするか考えてください。王子、誰もあなたの人生の責任など取りません。あなたに立場や感情全てを押し付けても、あなたの人生の結果を負う人はあなただけです。誰しもが、自分の人生だけを負う責任しか持たないのです。他者の世界に介入する権利を持たず、他者からの介入を拒絶し、けれど他者の権利を侵害する矛盾に疑問すら抱かない。皆、好きなようにしています。受容も反発も諦念すらも。だから王子、王子もお好きなようになさってください。私も好きにしました。そうやって生きても、父が望む通りに生きても、最終的な結論はあいつはそういう人間だったで変わらないでしょう。ですから、最後まで好きにやりたい放題生きるつもりです。王子も、王子をやめたければ二課に相談してください。王妃に追われないような何かを興味を引かれれば作ってくれるはずです。王子として生きたくとも同様に。自分の望みと他者の興味が合致すれば、大抵の物事は進み始めます」
「――長いっ!」
「申し訳ありません。以後気をつけられませんので諦めてください」
ぎゃんっと吠えた王子に謝りながら、私の魂へと手を伸ばす。
罅が入った歪な形の中、一部スプーンでくり抜いたかのように整ったへこみが存在する。どんな感触なのだろう。温度は? そもそも触れるのか? 持ち帰って成分を調べてみたい。疑問は尽きないが、疑問より興味より、大事なのはあなただけだ。
「待て! それで結局、お前はどうしたんだ! 俺を殺しに来たのならお前は誰から攻撃を受け、俺が二課へ飛ばされるというのならお前は今どこにいるんだ!」
大切なのはあなただけ。あなただけなのだ。
「さあ」
だから、それ以外は全て些事である。
それ以外へ回す思考の余裕は、もうなかった。
「エリーニ!」
そういえば王子、私の名前、知ってましたね。
不意に聞こえた王子の声に、私はきっと、笑ったのだろう。
王子の目が、大きく見開かれた。
その顔が可愛らしくて、綺麗で、美しくて。その瞳が、星のようで。もっと見ていたかったけれど、もう時間がない。恐らく、私の身体が保たない。私の崩壊に、王子を付き合わせる気はさらさらなかった。
口元から溢れ出した血液を拭えず、身体の向きを変える。大雨に降られたかのようなローブが、地面に赤を撒き散らした音が聞こえた。王子の制止を振り切り、崩壊を始めている白い塊に触れた。出現地点をずらされていたかのように境界へ現れていた白い帯が、塊から噴き出す。白帯は触れた手に巻きつき、あっという間に私を飲みこんだ。




