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第二話 出会い



寝て起きたら、見知らぬ幼女が居た。


そして少なくとも自分のすんでいた家ではない。

おまけに自分の体も人間のものではない。

暁大河が混乱するのも無理はないだろう。

そんな彼の混乱をよそにして、二人の幼女の間で話が進んでいく。



「とりあえずお姉ちゃんは着替えましょう。お父様とお母様はもう出発の準備を終えてらっしゃるようですよ」


「今日は何着ていったらいいんだっけ?」


「私のとおんなじでいいっていってたよ」



幼児特有の舌足らずな話し方。


セリアと呼ばれた少女――セリア・ベイリーは、自分のクローゼットを開けながら、黒いワンピースを探している。


暁大河はいつの間にか低い椅子の上に置かれていた。



何一つ状況がつかめない中、彼は周囲を観察する以外にすることはない。

その部屋は、日本でいう豪邸だろう。


床にはカーペットが敷き詰められ、大きな窓がある。


天蓋付きのベッドに、壁には高そうな絵画。


いかにも映画やドラマなんかで出てきそうな部屋である。


それに似合わない、小さな机と椅子、クローゼットが置いてあったが。


その小さなクローゼットの横にこれまた小さな姿見がある。


その前では黒いワンピースを着た幼女――カトリーナ・ベイリーが自身の姿を見直している。


セリア・ベイリーは金髪、カトリーナ・ベイリーは蒼髪であった。


(姉妹にしては似ていないな……)


そんなことを考えながら、彼は現在の状況を思う

(おそらく、これは異世界召喚だろう。なんでこんなことになってしまったのかはわからないけれども)


暁大河はネット小説やライトノベルによる知識があったために、大体の状況を理解する。


(貴族の館というかなんというか……少なくとも日本ではないなこれ)


セリア・ベイリーがカトリーナ・ベイリーと同じ黒いワンピースに着替えた時に、彼はもう一つの大きな謎を理解することができた。


セリア・ベイリーは着替え終わったあとに、低い椅子の上に置いていた彼を腕に抱えて姿見の前に立つ。


(ああ俺は……人間ではなくなったんだな)



見た目は黒い楕円形。


そして、中心より上には赤い目が二つ光っている。


(最近の異世界転生とか異世界召喚だと人間がモンスターになることもあるみたいだから、そんなもんか)


彼は自身の姿に恐怖することもなく、自分が闇にまとわれていたこと、クロちゃんと呼ばれていたことに納得する。


(なんというか……別になんてことはないな。ゴーストとか闇の精霊とかそういう類いだろうし。おぞましいモンスターでもないからかわいらしいもんだな)


状況がだいたいわかってきたために、彼の混乱はだんだんと消えていった。




「着替え終わったし、とりあえず玄関までいこっか」


「そうだね」


暁大河を抱えたまま、二人は部屋から出る。



すると外にはメイド服を着た女性が待ち構えていた。


「遅いですよお嬢様」


「ごめんなさい、カミラ」


「ローランド様とティファニー様がお待ちですので、二人とも抱えていきますがよろしいですね」


「ええ」



丁寧な言葉遣いや気品にあふれる立ち振る舞い。


まさに物語に出てくるようなメイドである。


「ねぇ聞いて、カミラ」


「玄関までであれば」


「クロちゃんの目が出てきたの、それでしゃべったんだよ」


「そうですか、お目覚めになりましたか……ローランド様にまたお話なさるとよいでしょう」


「うん、お父さんずいぶん気にしてたからね」


窓が並ぶ廊下から階段へ降り、そのまま玄関まで早足でカミラは歩いて行った。


二人が話している間、カトリーナ・ベイリーはおとなしく抱えられていた。



玄関前の広間には左右にメイドが並んでいた。


そこでカミラは二人をおろすと、玄関に立っていた男女に声をかける。


「遅くなって申し訳ないです。お嬢様とカトリーナをつれて参りました」


「かまわんよ、セリアの寝起きが悪いのは知っているからな」


「そうですよ、それに今日は特別な日ですから昨日寝付けなかったのではないでしょうか」



身長が高く、鷹揚に頷く様は貴族を思わせる。

どっしりとした存在感と優しげなまなざしから父――ローランド・ベイリーであることがうかがえる。


隣にいる、可憐な女性はその妻――ティファニー・ベイリーであった。


二人とも日本人の一般的な容姿とはかけ離れていて、ローランドは明るい茶髪、ティファニーは金髪であり、整った顔立ちであった。


年齢は若く、力がみなぎっているようなところと、堂々とした様子はやはり日本人の常識とは違う世界に来てしまったことを実感させる要因になった。



「馬車も待たせていますので、そちらに」


「うむ。セリアとカトリーナもついてきなさい」


「カミラ」


「ええ、わかっています」


メイドたちに見送られながら、カミラがローランドらを先導する。



玄関を出るとカミラの言う通り、門の外には馬車が止まっていた。

玄関から門までは石畳がひいてあり、庭には様々な植栽がある。

その色とりどりな庭の中には小さな噴水まである。

屋内からもわかっていたことだが、大きなお屋敷であった。

頑丈そうな石造りの家で、大理石のような美しさがある。

柱には彫刻での装飾がなされていた。


そして、周りの家もそのようなふうである。

いわゆる高級住宅街なのであろうか。



カミラが馬車を開ける。

ローランド、ティファニー、カトリーナ、暁大河を抱えたセリアが次々と馬車に乗っていく。

最後にカミラが乗り込んだ。


(思ってたよりかなり大きいんだな)


人が乗ることに特化したような、大人八人がゆったりと座れる大きさである。

椅子は向かい合わせになっている。


皆が腰を落ち着ける。

カミラが御者に声をかけると同時に馬車は進み始めた。


「セリアもカトリーナも今日はおとなしくしておくんだぞ」


と、ローランド。


「今日はあなたたち二人だけではないのですからね」


と、ティファニー。


暁大河は流れに身を任せて、特に何かを言うわけでもない。


(まあ、なんとかなるだろ)


相変わらずマイペースである。

と、そこでセリアがローランドに暁大河を見せてこういった。


「クロちゃんも連れて行っていいんだっけ?」


「まあいいんじゃないか。ぬいぐるみのようなものだし、多分他の子も持っているかもしれん」


「でもクロちゃん、目も出てきたし、しゃべれるんだよ」


それを聞いたローランドは暁大河をじっくりと見る。

確かに、黒い球体であっただけの体に赤い目が二つあるのがわかった。


ローランドは思案する。これからこの一家は教会に洗礼に向かうのであった。


(他人から見たら魔物か何かと思われてしまうかもしれない)


ベイリー一家では慣れ親しんでいるものであるが、何かの醜聞となることも考えられるだろう。


もし庶民の子が、訳のわからない物を持っていてもなんともないだろう。しかし、ベイリー家は貴族である。

それも、最近取り立てられた新興貴族である。

細かい部分まで気を遣う必要があるとローランドは思う。


「セリア、洗礼の間だけ預かっておくよ。他の子供達に迷惑をかけるのはよくないだろうしね」


「はぁーい……」


セリアは不服そうであったが、父の言うことは素直に聞くよい子であった。



「お父さんはクロちゃんと仲良くお話がしたいんだ。わかってくれるかい?」


「ちゃんと返してよね!お父さん!」


この一家が仲良く会話している間も一言も話さないクロちゃんこと暁大河である。

彼はこの状況をローランドに聞けると思っているので、今何かしようとは思っていない。


まあ、めんどくさがっている面もあるわけだが。



馬車が石畳の上を走っている。

道は広く、この大きな馬車が二台は余裕をもってすれ違えるほどである。

車道と歩道が別れているところを見ると、中世のヨーロッパのような雰囲気の町並みでも、案外近代的なのかもしれない。


そんなこんなしているうちに馬車は大きな広場に着く。

まるで駐車場のように多くの馬車が置かれている。


ある一角に馬車が止まった。それに気づいたカミラが馬車の扉を開ける。


一家が外に出ると、案内人がまっていた。

カミラが案内人といくつか言葉を交わし、これからいく場所を把握する。


カミラの案内にそって歩くベイリー一家。

程なく大きな教会が見えてきた。

そこには多くの人がいる。先ほどの馬車に乗ってきた者も多く居るだろう。


この教会で洗礼が行われる。

入り口は半分に分けられており、貴族とそれ以外である。

中にはいると、家ごとにおおよそ一つの長椅子に案内される。

ざわざわと人々の話し声が反響する。


やがて鐘が鳴る。それをきっかけに周りの人々も静かにしていく。

我が子に向けて静かにするように言う親も多かった。


そして、中央から神父がやってくる。

厳かに説教が始まった。

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