夫は家長としての自覚に芽生える
その晩イエルは、久しぶりに亡き母に思いを馳せた。
母付きの侍女であったアンネの話によると、イエルの出産は相当な難産であったらしい。
丸一日以上苦しみ抜いてようやくイエルを産み落とした時、母は疲弊しきっていて、それでも男の子が生まれたと聞かされた母はそれはそれは幸せそうに微笑んだのだという。
余りわがままを言わない母には珍しく、「赤ちゃんを抱きたい」とアンネにせがみ、だからアンネは赤子の重みが身体にかからぬように注意しながら母にイエルを抱かせてやった。
赤子に頬を寄せ、「わたくしの赤ちゃん」と呟き、母はそのまま力尽きたように意識を失った。
亡くなったのは僅か五日後のことだった。
出血が止まらずに日一日と衰弱していき、危篤の報を受けてレイマス卿らが駆けつけた時は、すでに死相が現れていた。
レイマス卿が何度も呼び掛けると、父親が枕辺を訪れたことに気付いたのか、母はうっすらと瞳を開き、「イエルをお願い」と父親に声を振り絞った。
それが最後の言葉となった。
父が母の死を悼んだのかどうかをイエルは知らない。
知っているのは、盛大な葬儀を行ったということと、母が亡くなって二月も経たぬ間に新しい妻を館に迎え入れたという事実だけだ。
母のあの言葉が自分を守ってくれたのだとイエルは思う。
イエルを生んだせいで母が亡くなったのだから、本当はお祖父さまたちに恨まれても仕方がなかった。
亡くなる間際まで母がイエルを愛おしんだから、祖父も伯父たちも当たり前のようにイエルの存在を受け入れ、愛情を注いでくれたのだ。
翌日、イエルがマリアージェの寝室を訪れると、マリアージェの目はどこか腫れぼったかった。
侍女に確認すれば、明け方に目を覚まして泣いていたのだという。
当分は気持ちも不安定だろうと思ったイエルは、主寝室と妻の寝室との間にある続き扉の鍵を開けてやることにした。
寂しくなったらいつでも自分のところに来るようにとマリアージェに声をかけてやれば、マリアージェはこの日から毎晩、枕を持ってイエルの寝室に突撃してくるようになった。
とにかく甘えたい年頃なので、寝台に腰かけたイエルの膝の上に乗っかってきて、今日あったことをずっとしゃべり続ける。
修辞学が難しいだの、ダンスの先生に褒められただの、しゃべるのはたわいもない話ばかりで、それに一つずつ相槌を打ってやりながら、イエルはにこにこと話を聞いていた。
マリアージェが小さなあくびを零し始めたら、おねむの時間だ。
一緒の寝台で小さなマリアージェに抱きつかれてそのまま眠る事になる。
マリアージェの生活リズムに合わせてやるため、必然的にイエルの就寝時間もお子様タイムになってしまったが、それはもう仕方がないことだと諦めた。
気分はすっかり愛娘を持った父親である。
その代わり、朝はマリアージェを寝台に残して早めに起き出し、続きの間で朝の紅茶を楽しみながら読書にいそしむことがイエルの日課となった。
さて、こうして順調な新婚生活(?)をスタートさせたイエルであるが、すでに成人した貴族であれば他にもすることがあり、一日中マリアージェの相手をしてやれる訳ではない。
領地経営をしているのでそこから上がってくる書類に目を通さなければならないし、時には自ら足を運んでの見回りも必要になってくる。
社交上の付き合いもおろそかにできないから、することは結構あったりする。
更に今は新居の建設も進めているため、余計に忙しかった。
実は二年ほど前に、イエルは公都中心部に広大な土地を購入していた。
自領の収益が順調であったため、新しく館を構えることにしたのだ。
館を建てることは、随分前から祖父とも相談していた。
このまま本邸に暮らしていても居心地が悪いばかりだし、いずれイエルが妻を迎えることを考えれば、美しい邸宅を一つくらい持っていた方がいいだろうと、伯父からも言われていたためだ。
イエルが有するツープの所領は、さほど広い土地ではなかったが、ここ二、三年で領地収入を大幅に伸ばしている。
これはすべて、幼い頃から領地経営の基礎をイエルに叩き込んでくれたレイマス卿のお陰で、レイマス卿はイエルに領主教育を施すと同時に、腹心となる人間の育成にも力を注いでくれた。
それが今、イエルの秘書官をしてくれている八つ年上のハンスである。
幼い頃から優秀で、いずれイエルの片腕になるようにと言われていたハンスは、レイマス家で秘書官としての仕事を学ぶ傍ら、イエルが治めるツープにも月に何度も足を運んでくれていた。
イエルが十七で正式にツープの土地を譲り受けた時、この地を富ませるにはどうすればいいか、イエルはまずハンスに相談した。
小麦などの農地収入はそこそこあるが、何と言っても土地自体が広くないので収益は限られている。
そこで二人が目をつけたのが、ツープの一角で行われていた養蜂業だった。
ツープの独自性を出すため花の種類ごとに採れる蜜を分けてみてはどうかと二人は考え、最初は赤字覚悟で品種実験を行った。
辛抱強く結果を待っていれば、花の種類によって味や質感や色、香りなどが全く違うことにも気づき、蜜の種類によっては冬場でも固まらずにとろみを保つ蜜もあるとわかってきた。
そこからは規模を拡大して蜂蜜の収穫量を増やし、やがて花の種類ごとに分けて売り出したツープの蜂蜜は、人伝えにその美味しさが広まって爆発的な売り上げを見せた。
勿論これは、イエル一人の力ではない。
イエルの後見である祖父や伯父たちが社交の場でそれとなく広めてくれたおかげで、スラン公国内で一気に名を上げる事ができたのである。
ということで、養蜂の経営が順調に進み始めた二十歳の頃に、イエルはまず土地を購入した。
その後、館の間取りを決めて建材や人足などを手配して、ようやく一年ほど前から建設に取り掛かったところだ。
因みにこのことは、父や義母たちには話していない。
機会があったらそのうち話そうとは思っているが、もういっそ家を引っ越す直前でもいいかなとイエルは思っている。
マリアージェには嫁いだ翌日には教えてやっており、新しく完成する館や庭園の設計図などを見せてやると、マリアージェは目を輝かせた。
マリアージェの部屋についてはマリアージェの希望を全部聞いてやることにしているが、子どもの好みで設えられるため、成人したらまた壁紙の張替えなどが必要になるなとイエルは苦笑している。
まあ、マリアージェが楽しそうならばそれでいい。
さて、こうして順調に絆を深めていっているイエルとマリアージェだが、義母やセガーシュは未だに野心を諦めていないものらしい。
イエルが仕事で出かけている時を見計らって、セガーシュが東棟にマリアージェを訪れ、マリアージェは大層鬱陶しがっていた。
東棟の侍女たちからセガーシュの素行の悪さを教えられたマリアージェはセガーシュのことを警戒していて(夜遊びのこともしっかり伝えられていた)、セガーシュが訪れた時には必ず騎士を自分の傍に置くという徹底ぶりだ。
ある日、「マリアージェはセガーシュを最初から嫌っているけど、どこが気に食わなかったの?」と素朴な疑問をぶつけてみたことがある。
するとマリアージェは、「あの程度の顔で、私モテるんですってどや顔しているところ」と即答し、横で聞いていたハンスが大ウケしていた。
兄を兄とも思わず、散々イエルを馬鹿にしてきたセガーシュのことをハンスは嫌い抜いており、マリアージェとは大いに気が合うようだ。
それにしても……とイエルは時々不思議に思うことがある。
マリアージェは皇女なのに何であんなに庶民言葉を知っているのだろう。
割と育ちの良かったハンスがマリアージェに感化されて、最近そこはかとなくガラが悪くなってきたような気がする。
いいのか? と密かに首を捻るイエルである。
さて、そんなハンスが常々口にすることは、イエルは別段、口下手でも要領が悪い訳でもないということだ。
要は、あんな家族に囲まれていたから自分に自信が持てなくなっているだけで、自己評価が低過ぎると言いたいらしい。
そう言われれば、商人相手に渡り合う時は言葉に詰まる事もないし、思うように商談を進めていけているから、口下手というのともちょっと違うのかもしれない。
ハンスに言わせれば、イエルに比べてセガーシュのどこが勝っているのか、さっぱりわからないとのことだった。
働かずに親の金で遊びまわり、女性関係は乱れていて性格も傲慢、まさに屑のような男ではないですかとめったくそにセガーシュをこき下ろしていた。(めったくそという表現は、マリアージェから教わった。斬新な言葉でイエルも気に入っている)
マリアージェも常日頃よりセガーシュをそんな風に思っていたようだが、嫁いできて三か月ほどは一応猫を被っていた。
セガーシュなどは、マリアージェのことを高貴な子猫ちゃんなどと呼んでいたが(聞いていたイエルは体が痒くなった)、ある日、親族が集まる席でセガーシュがいつものようにイエルを貶めようとした瞬間に、愛らしい子猫は突然、虎になった。
もう相手をするのも馬鹿らしいとばかりに、マリアージェは可愛らしい顔に殊更にこやかな笑みを浮かべ、セガーシュはいずれ管財佐になるつもりなのかと無邪気に問い質したのだ。
管財佐……。婿にも行けず、騎士団にも所属できない出来損ないの貴族の子弟が、自邸で雇ってもらう時につけられる役職である。
使用人扱いされたセガーシュは顔を真っ赤にして怒鳴り返したが、マリアージェはどこ吹く風だった。
セガーシュの抗議を聞き流し、そればかりかセガーシュの無知を嘲笑うかのように更にプライドをへし折るような言葉を重ねていく。
セガーシュも義母も父も怒りと恥に打ち震えたが、マリアージェはさりげなく大公殿下の名前を持ち出して、更には遠い故国にいる父皇帝の存在まで口にしたため、彼らにはどう反論のしようもない。
席を立ちたくなるのを堪え、セガーシュらは水で飲み込むように黙々と料理を口に運んでいた。
すっかり静まり返った晩餐の場を眺め渡し、ここは葬儀場か……とイエルは心の中でため息をつく。
ふと隣に座るマリアージェに目をやれば、マリアージェはすました顔で食事を楽しんでいた。
ぐうの音も出ないほどにやりこめられたセガーシュは不貞腐れ、そのまま愛人の家に籠った。
が、逃した魚がどれだけ大きかったかマリアージェに見せつけようと思いついたらしく、今度は意気揚々と婚活を開始した。
女性からはもてていたし、要領もいいセガーシュのことだ。
上を狙うのは難しいだろうが、やや格下で裕福な家との間にすぐに縁組みも決まるだろうとイエルなどは思っていたが、何故か思うような縁が見つからない。
プランツォ家は家格自体は悪くないし、ここまで難航するか? と首を傾げていたら、ある日セガーシュが息も絶え絶えに館に帰ってきた。
一緒に茶会について行った義母が侍女にこぼした話を繋ぎ合わせると、どうやら格下のマイソール家の令嬢にこっぴどく振られたらしい。
何でも、相手がイエルならば喜んで縁を繋ぐが、セガーシュが相手では金を積まれてもごめんだとマイソール家の令嬢に正面から言われたそうだ。
胸が大きいだけが取り柄の、顔も不細工で家格も低い出のくせに…!と義母が怒りまくって侍女たちに当たり散らしており、下手に顔を見せるととばっちりを食らいそうなので、イエルはマリアージェ共々、その晩は東館へ引きこもった。
「マイソール家のご令嬢って何と言うお名前ですの?」とマリアージェが聞いてくるから、
「確か、イェーナさまじゃなかったかな?」とイエルは何とか記憶の隅から名前を引っ張り出した。
「そう言えば、ここ二年ほど社交の場で姿を見かけていなかったけど、病気でもされていたのかな」
デビュタントの年に何度か顔を合わせたことがあったが、イェーナはその頃セガーシュに夢中だったような気がする。
それが今では金を積まれてもごめんだと言うのだから、きっとあいつが何かやらかしたに違いない。
まさか、結婚前の令嬢に手は出していないよなと思わずイエルが心配そうに眉を寄せていたら、マリアージェがひどく不安そうな声で「イエルさま」と呼んできた。
「ん? どうかした?」
「イェーナさまってきれいなお方ですの?」
問われてイエルは困ってしまった。
きれいか不細工かの二択で問われれば、ぶっちゃけ不細工である。けれど女性のことを陰で悪く言うことは嫌だったから、イエルは必死に言葉を探した。
「雰囲気のある方って言えばいいのかな。
とにかくスタイルが良くて、そういう面では男性の目を引く方だったと思う」
一言で言えば爆乳だが、そんな変な言葉を可愛いマリアージェには教えたくない。
イエルの言葉にマリアージェはふいと横を向き、「ふうん……」と呟いた。
何だかマリアージェの元気がなくなった気がして、イエルはマリアージェの顔を覗き込んだ。
「マリアージェは、何でご機嫌が斜めなのかな。
セガーシュがふられて、わたくしが言った通りでしょうって言ってくると思っていたのに」
マリアージェはぽすんとイエルの胸に顔を埋めてきた。
「マリアージェはなかなか体が大きくなりません」
「まだ八つだからね」
イエルはマリアージェの頭を撫でた。
「心配しなくても、そのうち背も伸びると思うよ」
「わたくしは早く大人になりたいです」
何だか声が湿っている気がして、イエルはあれっ?とは思った。
でも、マリアージェが悲しく思うようなことに心当たりはなかったし、手を繋いで眠る頃にはいつものマリアージェに戻っていたから、イエルはすぐにそのことを忘れてしまった。
マリアージェが家出をしたのは、その翌日だった。
その日は蜂蜜の件でいくつかの商店に足を運んでおり、昼過ぎに館に帰ったところ、アンネが慌てた顔で駆け寄ってきた。
「マリアージェさまが、行き先も伝えずに家を出てしまわれました!」
余りに衝撃的な報告に、イエルはその瞬間、尻から魂が抜け落ちたかと思った。
「出ていった? 出ていったってどういうこと? 歩いて外に出掛けたの? それとも馬車で?」
アンネが言うには、イエルを見送った後に急にぽろぽろとマリアージェが涙を零し始め、「マリアージェはお里に帰らせていただきます!」と宣言して、いきなり馬車に乗り込んでしまったのだと言う。
「お里?
お里って、えええええええっ! アンシェーゼに帰ったの?」
イエルは慌てふためいて、騎士の一人に単騎で国境沿いまで行ってもらうことにした。
取り敢えず、八つの子どもが馬車に一人乗って国境を越えようとしたら、そこで止められている筈だ。
本当はイエル自身が颯爽と迎えに行きたかったが、本気で馬車を追う気なら、騎馬に慣れた騎士が向かった方がいいに決まっている。
だからイエルは涙を呑んでお留守番だ。
それから先は仕事なんてもう手につかず、はらはらしながら騎士からの報せを待っていたが、そのうちイエルはふと、マリアージェは本当にアンシェーゼに向かったのだろうかと考え始めた。
アンシェーゼに帰ったとてマリアージェの母は王宮にいない。
父皇帝はマリアージェに一片の興味も抱いていないと聞いているし、住んでいた宮殿は閉鎖されたから馴染の侍女も残っていない筈だ。
そんなところへ本当にマリアージェが帰ろうとするだろうか。
「まさか、お祖父さまのところか…?」
マリアージェはイエルの祖父になついていた。
小さい頃から母親の愛情しか知らなかったマリアージェは、お祖父さまという存在に憧れていて、だからイエルもレイマス卿のところへよく連れて行ってやっていた。
レイマス卿も孫は皆もう成人していたから、思いがけず義理の孫となった八つのマリアージェを大層可愛がり、傍から見ると二人は本当の祖父と孫のようだった。
おうちとは大事な人たちがいる場所のことだと、マリアージェは以前話していたのではなかったか。
だとすれば、マリアージェの言うお里とは故国アンシェーゼではなく、お祖父さまのところだ。
イエルが出かける準備をしていると、ちょうどレイマス家から報せが入った。
マリアージェがいきなりやってきて、お祖父さまに縋りついて泣きじゃくっているのだという。
「出かけてくる」といったイエルに、アンネがほっとしたように頷き、「そう言えば」と呟いた。
「夫婦喧嘩をした時は、妻はお里へ帰らせていただきますっていうものだって、マリアージェさまが言っておられましたわ。
もしかして、喧嘩をなさいました?」
心当たりがないんだがなあと首を傾げながらお祖父さまのところへ向かえば、マリアージェは散々泣いた挙句、泣き疲れて先ほど眠ったと伝えられた。
姿を現わしたお祖父さまに何があったのか聞いてみると、要は焼きもちを焼いたらしいと教えてくれた。
「マリアージェを不安がらせるようなことをした覚えがないんですけど」と正直に言えば、お祖父様は何ともいえない顔で、「マイソール家の令嬢は胸が大きいことで有名だからな」とため息をつかれた。
「は? 胸、ですか?」
「マリアージェはまだ八つだからな。胸がまっ平らなのを気にしているらしい」
「……」
イエルは脱力した。
そりゃぁまあ、大きいのと小さいのとどちらが好きかと言われれば、大きい方が好きではあるが、もしマリアージェの胸が育たなかったとしても自分は別に気にしない。
マリアージェはマリアージェだから愛おしいのであって、例えばマリアージェが何かの事故で顔や体に傷を負ったとしても、自分は変わらずマリアージェを愛しく思うだろう。
マリアージェは自分に自信を持てなかったイエルを、ありのままに好きになってくれた。
家の中でどうしても委縮してしまうイエルに気付いていても、そのことを不満に思うでもなく、却って毛を逆立てて怒ってくれた。
イエルの傍で毎晩幸せそうに眠るマリアージェが愛おしく、これ以上悲しい思いや寂しい思いをさせないようにと気を配っていたが、まだ余りに子どもなので、妻として見たことはあまりなかったように思う。
けれど、マリアージェにとってはそうではなかったんだとイエルはようやく気が付いた。
小さいけれど、この子は自分の妻なのだ。
きちんと恋をしてくれて、焼きもちを焼いて泣きじゃくるくらい自分のことを好きでいてくれている。
帰りの馬車の中でマリアージェを膝に乗せ、好きなだけ甘やかしてやりながら、イエルは改めて自分の生きざまを振り返った。
幼い頃から父や義母に表立って逆らったことはなかった。
弟や妹たちから散々に馬鹿にされ、惨めさに涙したことは数え切れないほどあったけれども、逆らえば性根の悪い子だと更に言葉で傷つけられたから、何も反論せずに距離を置くことで自分を守ってきた。
それが悪いこととは思わない。幼い自分を守るために、それはおそらく必要なことだった。
でも、もうそれだけではいけないのだ。
殻を破る時期に来ているのだとイエルは思った。
冷静に考えれば、今のイエルに父や義母を恐れる理由などどこにもない。
今まで自分が相手にしてきた海千山千の商人たちに比べたら、彼らの相手をするのは赤子の手をひねるように簡単な筈なのだ。
自分はいずれ家長となる。
そして妻であるマリアージェと、いつかマリアージェが産む子どもたちを守るのは、家長であるイエルの役割だった。
強くならなければならないとイエルは思った。
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