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なぜ、わたしはどん引くのか?


「おはよう、目が覚めたみたいだね。良かった」


 えっと、ああ、博士の声だ。

 やっぱり低くて落ち着く声だなあ。

 

 意識はだんだんと覚醒する。

 それによって、自覚する体中の痛み。


 なんだか背中に違和感があります。何でしょうか。

 頭痛もする。頭全体が締め付けられているようだ。

 体中がきしむ。


 ああ、目覚めたくないなあ。


「……おはようございます、博士」


 わたしは目を開け、博士の姿を確認し、挨拶した。

 博士は椅子に座って、こっちを見ていた。

 いつも通り、ポーカーフェイス気味な冷静な表情と、澄んだ瞳をしていた。


「はかせ…ここどこですか」

「病院だ」

「病院、ああ病院ですか」


 わたしは思い出した。気を失う前の出来事を。


 あの気味の悪い化け物の鎌で背中を刺されたのだった。

 そのあと、どうなったんだろうか。


「博士、ミナさんとかはどうなりましたか」


 とか。に含まれてしまうユルートだった。

 助けようとしてくれたことはありがたいが、元はと言えば、あのおかしなサークルのせいで、こんな目に遭ったのだ。

 しかも、結局、役に立たなかったし。


「ミナくんは無事だ。遺道を使い過ぎただけで、大きな怪我もないし、命にかかわることではないよ」

「良かったー。えっと、そのユルートさんは」

「ああ、彼も命は無事だ。けれども目に何かをあびたらしくてね。片目は使い物にならなくなったそうだ」

「そう……ですか」

「心配しなくてもいい。本人が望むのであれば、人工的に作成した義眼を移植することで元通り見えるようになる」

「はい」


 博士は「いい報せが1つある」といつもより少し高いトーンで切り出した。

 わたしの落ち込んだ雰囲気に博士は気を使ったのかもしれない。


「いい報せですか」

「何だと思う?」

「いい報せ、いい報せ……もしかして!」

「そう、盗まれたデータが見つかった。調べたが、データがどこかへ送られた痕跡もない」


 わたしは嬉しさで体を起こした。


「ほんとですか!いててて」

「背中の傷が案外深い。もうしばらく安静にしておきなさい」


 わたしはゆっくりと、体を倒して横になった。


「博士。あの場所は何だったんですか?」

「あそこはね。数千年前、異世界について研究を行っていたカルプス・フィエルドの実験室だ」

「…カルプス・フィエルド」

「彼は異世界の存在を初めて示唆した人間だ。どうやって異世界があるか気づいたかだけど、この宇宙のエネルギー量がそもそも」

「博士」

「ん?」


 わたしは博士の言葉を遮った。

 頭も痛いし、きっと今のわたしでは少しもわからない。


「多分、理解できません」

「ああ、そうだった。君は研究員ではなくモルモットだったね」

「はい」

「だからね、命は大切にしなさい」


 どうして命の話になったのか、わたしにはわからなかった。

 けれども、博士の中では繋がっているのだろう。



 わたしは2週間ほど入院した。

 病院でいる間、何度も部屋について考えた。

 やめようと思っても、頭にちらつくのだ。


 あのガラクタの山は何だったのか。

 わたしは1つの可能性を考えた。

 あれはフラトリィカレッジに住む幽霊が集めたものではないかと。

 だからデータもそこにあった。

 幽霊がいるとして、何であんなことをしていたのかはわからなかった。


 そして、エイナはなぜ、あの部屋のことを知っていたのだろうか。

 入口は本館から繋がっているらしいが、あの部屋は何千年も前に閉ざされたらしい。

 もしかしてエイナが幽霊なのではと考えたが、それはないと判断した。

 わたしがエイナに会ったときは昼頃だったし、わたしの目にはっきりと見えていたのだから。


 そして、何よりあの化け物だ。

 どうして、あの部屋にいたのか。今はどこへ行ってしまったのか。

 なにより、化け物の言葉だ。


 ――アカ、アカ、シュヨ。ボクニユルシヲ。ドウカ、ドウカ。ボクヲユルシタマエ


 どういう意味だったのだろう。

 やはりこれもわからなかった。


 答えという答えも出ないまま時間は流れ、わたしは退院した。



 そして久しぶりにベン博士の研究所へ帰ってきた。


「あら、お久しぶりですね、モルモットさん。元気そうで残念です」

「レイさん!お久しぶりでーす!」


 わたしはレイさんに飛びつき思い切り抱きしめた。


「うざいです、リンさん。元気なのはわかりましたから、離れてください」

「ずっと会いたかったんです!」

「わたしは会いたくありませんでした」


 わたしはパッとレイさんから離れた。

 そろそろ殴られそうな気がしたからだ。

 レイさんはこう見えて、意外と強かったりする。殴って人を気絶させられるほどだ。


「1回くらいお見舞いに来てくれても良かったんですよ」

「顔も見たくないのに、お見舞いになんて行くわけないじゃないですか。それにわたしはそんなに暇じゃありません」

「そんなこと言ってほんとは会いたかったんでしょー。知ってますよ!」

「リンさん、あなた入院してからうざさが増しましたね」

「そんなことありません」


 わたしは久しぶりに戻ってきた研究所やレイさんを見てテンションが上がってしまっているようだ。

 めったに会わない友人や親せきと会った時の感じと似ていた。


「それより、さっき博士が今日は大事な報告があるって言っていましたが、リンさん、なにか知っていますか?」

「いえ、全く」


 そういえばまだ今日は博士の姿を見ていない。

 どこかへ外出しているようだった。


 レイさんはわたしに温かいコーヒーを作って実験室に戻った。

 やはりレイさんの作るものはなんでも美味しい。


 わたしがコーヒーを飲みながらゆったりしていると、扉が開いた。


「博士、お帰りなさい……」


 しかし、そこに立っていたのはわたしの知らない人だった。

 なんとなく知的な感じのする女性だった。

 おそらく研究がらみの人だろうとわたしは思った。


「ほうほう、あなたがモルモットこと有希リンか」

「え、あ、はい。初めまして。どちら様ですか?」

「有希リン!」

「はい!」


「とりあえず服を脱げ!そして見せろ!触らせろ!解剖させろ!」


「うわぁ」


 また変な人が現れたとわたしは思うのだった。


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