なぜ、サークル棟は消えたのか?
フラトリィカレッジ本館、その東に位置するサークル棟。そこには様々なサークルの部室が押し込められていた。特にその一番奥に存在するのがオカルトサークル“エイナ”。このカレッジで最も伝統のあるサークルと言えば聞こえはいいが、簡単に言ってしまえば古い、のである。
ミナさんはノックをするために握った右手を胸元辺りまで上げたところで動きが止まっていた。
「入らないんですか?ミナさん」
「ちょっと心の準備をしていました」
「はあ」
ミナさんは深呼吸をしてドアを叩いた。しかし、中から返事はなかった。ノックが聞こえなかったのではと思って、もう一度ドアを叩く。しかし、やはり何の反応も返ってくることはなかった。
「留守でしょうか」
「かもしれませんね。また出直しましょう」
ミナさんが引き返そうとしたとき、わたしはなんとなく、ドアノブをひねってみた。
「あれ、カギ空いてますよ」
「え」
わたしはそのまま扉を押し開けた。中は一見すると電気がついてないようで暗かった。しかし、何も見えないわけではなかった。床に謎の円形の模様が描かれており、それが青く発光していたのだ。その光の周りには何かが座っているのがわかった。全員が黒いフードを被っていて顔は見えない。
また、よく耳を澄ませると、経のように、声がブツブツと聞こえてくる。今にも悪魔が降臨しそうだった。
どうやらわたしは入ってはいけない場所に入ってしまったようだ。わたしは無言でゆっくりと扉を閉めた。そしてすぐにミナさんの方を見た。
「…お取込み中みたいです。時間を改めましょう」
「気にするな」
後ろから突然、声が聞こえた。振り返ると頭まで黒いフードを被った、背の高い男が立っていた。
「だ、誰ですか?」
「俺は4法の悪魔を従え、13の地獄を統べる陰の支配者、その名も!ブルエル・ファイ・カウルト、ダッ!」
わたしが目の前の人の発言を飲み込めず口を開けていると、ミナさんが補足してくれた。
「この方はオカルトサークル、“エイナ”の部長のナシエ・ユルートさんです」
「ミナ、それは仮の名だ。俺のことは、陰の王 ブルエル・ファイ・カウルトと呼べ!」
「この通り、頭のねじが1つとんでいます」
ミナさんの様子からわたしは理解することにしました。この人は頭のねじが1つとんだ残念な人。そう、優しくしてあげないと。
「始めまして、ユルートさん。わたし、有希リンって言います。よろしくお願いします」
「リンというのか、よろしくしてやる。ダガッ!俺の名は陰の王 ブ」
「突然すいません、フラトリィカレッジに住む幽霊ってご存知ですか?」
ユルートさんは腕を組んで、頷いた。
「ミナよ、まだ探していたのか」
「ミナさんが幽霊探していること知ってるんですね」
「ああ、1度相談されて、一緒に探したからな」
「結果はどうだったんですか?」
ミナさんは首を横に振った。どうやら、あまりいい結果は得られなかったらしい。
収穫ゼロでした、と言葉を小さく口から漏らした。
ユルートさんは依然、腕を組んだまま堂々とした態度を崩さない。結果は何も得られなかったのに、どうしてそんなに胸を張っていられるのだろうか。
「それで、ミナよ。またこの俺に頼りに来たのか? この!ブルエル・ふぁ」
わたしはユルートさんの戯言を遮るように質問した。
「ユルートさん、ムクアラってわかりますか?」
「今度はムクアラか……やれやれ。もちろん知っている。このカレッジにある秘密の部屋のことだろう?」
「どこにあるかわかりますか?」
「無論……知らん!!」
「帰りましょう。ミナさん」
「はい」
「ちょっと待て!」
帰ろうとするミナさんとわたしは肩を掴んで引き留められた。
「確かに、正確な場所は知らない。だが、そのムクアラであるかもしれない場所を俺たちは見出した!」
「どこですか?」
「フッフッフッ、聞きたいか。聞きたいよな!」
「もったいぶらないで教えてください」
「どうしても聞きたいのなら、この陰の王! ブルエル・ファイ・カウルトに絶対服従を誓え!!」
わたしもミナさんもため息をついた。あまりにうざすぎる。くどすぎる。
そして何なんだろう、あの頑なに脱がないダサいフードは。ここまで話してきたが未だに顔がわからない。わかったのはうざいということだけだった。
ミナさんが最後の手段といったのも頷ける。どんなに酷い手段でさえ、この人と話すよりかはましに思える。
引き返そうとするわたしとミナさんだったが再び、肩を掴まれ、引き留められる。
「待ってくれ。今回は特別に服従しなくていい」
「じゃあ、教えてえくれますか?そのムクアラがあるかも知れないって場所を」
「ああ、教えてやろう!フラトリィカレッジ四大不思議、秘密の部屋その名は“ムクアラ” その場所は!」
息をのむ。こいつの言っていることなので心配なところは多いが、もしかしたら少しは手掛かりを得られるかもしれない。
ミナさんのデータも見つかるかもしれない…というのはエイナが嘘を吐いていなければではあるが。
「ここダッ!」
そういってユルートが指さしたのは自分の足元だった。
なんだろう、今度は俺のいる場所がムクアラだ、とでもいうつもりだろうか。そんなことを言われたら、そろそろ殴ってしましそうだ。
「ここって言うのはどこですか?」
ミナさんが不安げに質問した。ミナさんも目の前の男がまた変なことを言い出したと思ったのだろう。
「だからここだよ。つまり俺のいる場所…」
「ふんっ!」
人には我慢の限界というものがある。
「リ、リンさん、殴らなくても。ユルートさんお腹抱えて倒れちゃいましたよ!」
「いいんです。あきらめて帰りましょう」
そのとき、オカルトサークルの部室の扉が勢いよく開いた。
「王! カウルト様!!」
「ウッ!」
扉の前でうずくまっていたユルートさんに開いた扉が命中する。
「カ、カウルト様! どうしてこんなことに!」
「心配するな、執行者エリスよ。作戦はどうなった?」
「途中まではうまくいきました。計算通りであれば貫通するかと。ただ…」
「ただ何だ?」
「範囲をミスりました!」
「計画では部室内で収まるよう直径1メートル程度だったはずだが」
「おそらくサークル棟が吹っ飛ぶくらいかと」
それを聞くとユルートは何事もなかったように立ち上がり、手を挙げて叫んだ。
「全員退避ぃぃぃぃぃ!!」
ユルートはそのまま入口へ向かって走り出した。部室から出てきたフードを被った三人組と執行者エリスとやらもすぐに入口へ走り出した。
状況がわからずポカンとしていたわたしにミナさんが言った。
「どうしたんでしょうか?」
「わかんないですけどわたしたちも」
逃げたほうがよさそう、と言おうとした瞬間だった。
オカルトサークルの部室内から耳を塞ぎたくなる甲高い音と凄まじい光が漏れ出していた。
「こ、これは!バカですか、あの人たち!絶対バカです!」
「何が起きてるんですか?ミナさん」
「伏せて!」
普段ではめったに出さないような大きな声をミナさんがあげた、その時だった。
強烈な光、そして爆音と爆風がわたしたちを包みこんだ。
かつてあったはずのサークル棟は跡形もなく消し飛んだ。
そこに残されたのはかつてサークル棟を形成していたであろう残骸と巨大な穴だった。




