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アレス  作者: 藤原・インスパイア・十四六
6/6

アレス 1章-6

6日間連続投稿をします。


今回が最後の6話目の投稿です。


6日目に累計PVが1,000を越えていれば、続きを書きたいと思います。


越えてなくても書くかもしれません。。。

その前に次の構想を考えないといけないんですが。

 「なずな、この通過タッチ。いや、タッチしてからの通過だからタッチ通過か。確実に決めて行くぞ」

 「任せて下さい」


 (ゲートを通ることで+1打。他球へタッチすることで+1打。それを同じ1打中に行うことで、+2打の権利が発生する。ゲートボールの試合で勝つポイントの1つとして、タッチ通過または通過タッチは、欠かせない要素だ)


 1番の近くいた7番をタッチ後、7番をスパークで3番の近くへ送った。

 なずなは1番で2ゲートを狙い、強めの球を打ち出した。

 9番にタッチすると同時に1番が2ゲートを通過した。


 ≪1番がタッチ通過に成功しました。それと同時に9番も2ゲートを通過した為、なずな選手2点獲得です≫

 ≪このような展開になることを予想していなかったのか、佐藤の2から6番はラインからは50㎝程浮いた位置にあります。なずな選手これはチャンスですよ≫

 

 1番は2打権を利用し、3ゲート前にいる佐藤の2、4、6番をたてつづけにタッチしていった。


 「よし、白は全ての球がアウトだ。なずなここからお前ならどうする?」


 なずなは考えるような仕草をした。


 「3、5番がまだ1点球なので、この2つを2点球にするのと、7、9番を3点球にしたいので、1番は3ゲート前にいますかね」

 「半分正解かな。相手が佐藤じゃなかったら、それでもいいかもしれない。ただ、相手は怪物佐藤だ。1球あればどんな状況からでもタッチを狙ってくるはずだ。今の展開で次に佐藤がインボールで打てるのは何番からだ?」

 「ええと、2番からですね…。あっ…」

 「気付いたか。なずなが考えていたプランだと7番と9番を1番で通すような考え方だったと思うが、それだと2番が打つ時に浮いてしまう球が最低でも2球。7と9番が出てしまう。これを逃す程佐藤は甘くない」


 なずなが顎に手をやり、考え込む。


 「じゃあ、どうすればいいんですか?」

 「展開をもっと早めるんだ。最低でも7番の時点で全ての赤ボールを2点球にしておくこと。9番は3ゲートを狙えるようにしておくこと。その時に1番が最も有効に活用できる位置に今から配置しておく」

 「まさか…!!」

 「そう、9番が3ゲートを通過する際に確実に通過タッチが成立するように1番は3ゲートの真裏へ配置する」


 (ほぼ一巡後の戦術まで頭に入れて、考えているってことだよね。私の知っているゲートボールよりもアレスのゲートボールはどれ程先を進んでいるの…?)


 試合終了4分前。

 

 「なずなやるじゃないか。7番でも通過タッチに成功したぞ」

 「へへへ。私もなかなかやりますね」

 「いや大したものだ。さて時間もない。佐藤の2から6番はインボールだが、ライン上に入っているだけだから、2打権のある7番でもこれを取りに行くのはかなり難しい所がある」


 2、4、6番はアウトボールからの打ち入れ時に集まることはせず、ラインのギリギリの所でインボールになる通称「ちょい入れ」をしていた。

 これらの球をタッチするのは困難で、さらに相手が佐藤だとその脅威も人一倍である。


 「で、どうしましょ?」

 「相手が追いつけない程点を取りに行ってやろう。7、9番は上がるぞ。2球が上がれば何点差だ?」

 「赤は3、2、2、5、5で17点。白は3、3、3、1、3で13点。4点差で逆転しますね」


 なずなはワクワクが止まらなくなってきていた。

 自分では絶対勝てない、勝てるはずがないと思っていた佐藤を苦しめているのである。


 7、9番と次々に上がり、5点球となった。


 10番が打ち入れをし、佐藤が無表情に沈んでいた。


 (どうして、こうなった…。試合開始から20分間、試合はこの俺が圧倒してきていたじゃないか。戦術は技術をも凌ぐということなのか…)


 1番の打撃が終わり、2番がコールされる。


 (アレスが介入したから負けた。それはアレスが俺以上の存在だと認めたようなことと一緒ではないのか)


 佐藤は打撃の態勢に入った。狙いは味方の白球でもなく、敵の赤球でもない。ただ一つ中央にそびえ立つポールを狙っていた。


 (プロゴルファー時代、パターしか得意といえるものがなく辛酸を舐めてきた。そんな俺に生きる場所を与えてくれたスポーツ。それがゲートボールだった)

 

 佐藤は狙いを定めてから、一段腰を低くした。


 (このまま負ける?気に喰わんな。スポーツは戦術をも凌駕する個のパワー、技術によって見る人々を魅了するのだ。こそこそと隠れて指示を出す奴が勝つ。そんなことは断じて許せん)


 佐藤は心気を統一した。

 力強く2番を打ち放った。2番は物凄い速さでポールに当たっていた。


 ≪佐藤がここにきて、2番を一発で上げました!窮地に陥った状況、プレッシャーのかかるこの状況でもこれほどの素晴らしいプレーができる、まさに佐藤の真骨頂!!≫


 「アレス!俺は4、6と必ず上げて見せるぞ。これで2点差だ」


 なずなは、プレッシャーを感じたようで、一瞬固まったようになった。


 「なずな、奴は構うな。この試合勝てる。3、5を3点球にしてしまえば、1つだけでも上げれば、奴はもう追いつけない。時間的にも6番で終了するだろう」

 「は、はい…」


 3番が3ゲートを通過した。


 「よし、1番と一緒に上がるんだ」

 

 なずなが左手を擦る仕草をしている。


 3番が1番へタッチをしようとしたその瞬間


 「うああーーーー…!!」


 なずなが握っていたスティックを離し、その場に座り込んだ。


 「なずなどうした?!」

 「い、いえなんでもありません。ちょっと左手を捻っただけです」


 なずなの左手首が今までの2倍程に腫れあがっている。


 「そんなに腫れあがってるじゃないか!」

 「ははは、アレスやっぱりどこかでこの試合を見ながら指示出してたんですね」

 「そんなことはどうでもいい。その腫れ、悔しいがこの試合はここまでだ。なずなのこれからにも関わる」

 「ダメですよ。私はやりますよ」

 「何を言ってるんだ!選手生命に関わるかもしれないんだぞ!?」

 

 なずなが叫んだ。


 「ここで負けたら、私の選手生活にこれから(・・・・)なんてないんですよ!」

 「なずな…」


 4番のコールと共に笑い声が聞こえてきた。


 「天はやはり俺に味方をしたという訳だ。俺は手加減などせんぞ。アレス貴様を地獄へ突き落すまではな」


 佐藤は打撃の態勢に入った途端、凄まじい集中力を見せた。

 2番に続き、またも一発で4番をポールへ当てた。


 「ははは、これで1点差だ」


 「なずな、続けるんだな?」

 「何回同じこと言わせるんですか。私の最期の試合かもしれないんです。またしょーもないこと言ったら、指示なんて聞いてあげませんから!」


 アレスからの返答に間があった。それはアレスが覚悟を決めるのに必要な時間だったのかもしれない。


 「分かったなずな。俺もお前の怪我は気にせずに指示を出す」

 「当たり前です。何を今さら」

 「その5番何としても通過してくれ。今、点数は18対17だ。5番が通過することで19対17になる。ただ…」

 

 なずなはアレスの言葉を待ち続けた。


 「ただ、赤が1球も上げることができず、佐藤が6番を上げてしまったら、点数では19体19の同点。だが、白の方が、上がり球が多いことから内容負けになってしまう。ここは是非とも1球上げて、相手が勝てる要素を無くした」


 なずなは、暑さからくる汗ではない汗を拭いながら力なく微笑んだ。


 「本当にアレスあなたって人は…。怪我人に対してとんでもない指示を出すんですね。わかりました。私、絶対上げます」


 5番はなんとか3ゲートを通過した。しかし、その球威はほとんどなく、ゲートを通過するのがやっとといったところであった。

 5番の停止位置から上がりまでの距離は先ほど3ゲート通過の距離のおよそ2倍。

 なずなにそれ程の距離を打ち切る力が残っているのか。

 なずな本人にもそれは分かっていないであろう。


 (最期にこんな試合ができて、私は幸せ者だな。悔いの残らない一打を…)


 なずながスティックを握り、構える。握るだけでも激痛が走っている。苦痛の表情を滲ませながらも弱音を吐かず、口を食い縛る。

心気を統一させる。

 スティックを振り上げ、渾身の一打。

 

 5番が転がっていった先で心地良い金属との接触音がした。

 コーン


 静まり返っていた会場が大いに沸いた


 ≪1うhjふぃあいおsじゃ8うはうひさふぃじゃいおfさいjふぃさjふぃおじゃしjふぃあsjふぃあじfじゃいjふぃさjふふgほいんうぃhf8あh≫


 あまりの出来事に実況は何かを喋ってはいるものの、興奮したまま喋り続けているため、聞き取れるような内容ではなかった。


 先ほどまで厳しい顔をしていた佐藤が拍手をしている。

 会場中が喝采の渦に包まれた。

 初老の男性が買っていたくじが全て外れて、悔しがっている。

 外れたくじを破り、踏みつけている。


 なずなは佐藤に勝ったという高揚感から痛みも忘れ、呆然と立ち尽くしていた。

 佐藤が近付いてきた。


 「君を誤解していたようだ。なずなさん、あなたは素晴らしいプレイヤーだ。たしかにアレスは気に喰わんが、この試合アレスの力だけでなく、あなたの力があったからこそこんなエキサイティングな試合になったんだと思う」

 「あ、ありがとうございます」

 

 なずなは照れるように頭を下げた。

 

 「アレス、まだいるんだろ。今度は正々堂々と俺と勝負しろ。お前を今度こそ地獄へ落としてやる」


 なずなは、アレスが喋っているのであろう。何かを聞いてから


 「考えておく。と言ってます」


 そう答えた。

 佐藤は鼻で笑い、背を向けて去って行った。


 佐藤が去って行く背を見ながら、なずなは呟くようにアレスに話しかけた。

 「アレス、今日はありがとう」

 「………」

 「ねぇ!聞いてるの」

 「ああ、聞いている」


 なずなはお立ち台の方に歩いて行く。


 「私に作戦を教えて!」

 「………」

 「何か答えてよ」

 「あまり深く関わらない方がいいさ。またな」


 回線が切断される機械音がかすかにした。

 なずなが何度話しかけても、それ以降アレスは応えはしなかった。

 なずなはお立ち台に立ち、インタビューに応えていたが、心がここに無いように表情も晴れてはいなかった。



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 なずなは、その後も色々な関係者に捕まりながらも、乗ってきた車の方に向かった。


 朝運転してくれた運転手が帽子を取り、軽く頭を下げてきた。

 なずなは自然と表情が綻んでいた。


 「勝てて良かったですね」

 「見ててくれたんですか?!」


 運転手は頭を掻きながら、バツが悪そうにした。


 「いやあ、それが昼を食べようと思って外に出たら、どこも混んでまして。先ほどwebニュースで知りました」

 「もう!そこは嘘でも見てましたって言ってくれればいいのにぃ~」

 「ああ!す、すみません」


 なずなが前のめりになり、運転席に近付いてくる。


 「運転手さん、ゲートボールやってみませんか?私教えますよ」

 「プロの方に教われるとは、何とも恐縮ですが」

 「ねえ、一緒にやりましょ!絶対楽しいですよ」

 「ははは、考えておきます」


 ミラー越しでなずなは頬を膨らましていた。

 ヒロトは苦笑いを作った。


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