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アレス  作者: 藤原・インスパイア・十四六
3/6

アレス 1章-3

6日間連続投稿をします。


今回が3話目の投稿です。


6日目に累計PVが1,000を越えていれば、続きを書きたいと思います。


越えてなくても書くかもしれません。。。

 なずなが打撃のスティックを構え、第1ゲートを狙い始めると、会場は静まり返った。

 警備員が各所におり、選手のプレー中の雑音があると、音を出した人は強制的に会場から退席させられ、罰金も支払わされるシステムがプロスポーツ化した当初から徹底されていた。


 ヘッドの重さを利用し、振り子のような軌道のバックスイング。

 腕には力が入っておらず、ヘッドの重さだけでボールを打ち出しているかのようだ。

 高めの打撃音が聞こえ、1番球が第1ゲートに吸い込まれるように通過していく。

 まばらではあるが、拍手が起きた。


 ≪1番が第1ゲートを通過しました!本来ゲートボールは1打毎に次のボールに打撃権が移りますが、ゲート通過もしくは他球をタッチした場合のみもう1打続けて打撃する権利が与えられます。さぁ、解説さん。なずな選手、次はどこへ打つでしょうか?≫

 ≪ゲートボールは点数を多く取らないと勝てないスポーツですが、他球をタッチすることで、味方の球はより有利な位置へ。相手の球はより不利な位置へ。配置することができます。なずな選手としては、第2ゲートを支配する為にもまず第2ゲートを通れるラインに寄った位置へ布陣することが定石でしょうね≫


 解説者が言ったようになずなは1番球を打撃し、第2ゲートを斜めから通過できるライン際にボールを運んだ。


 ≪それにしてもなずな選手。アイドル選手の割に…、おっと失礼しました。まだ若いにも関わらず、スイングそしてボールの回転がキレイですねぇ≫

 ≪練習量も多いんでしょうが、癖の少ないバックスイングからの無駄な力の入っていないインパクトが良い回転を生んでいるのでしょうね。タッチ力も相当にありますから、はまれば怖い存在ではありますよぉ≫


 2番がコールされ、佐藤がボールを置き、打撃の態勢に入る。

 コール後、沸いていた黄色い歓声も一気に静まり返った。

 ゴルフのパターは直立に近い状態でボールと距離を空けずに構える。しかし、佐藤は膝を曲げ、ボールから身体を離し打撃の態勢に入った。


 (ゴルフのパターを打つ際に一番重要なことはラインを読むこと。次に方向、距離と続く。ゴルフボールは軽く45g程、パターでは極力バックスイングを少なくすることで、重要なライン、方向、距離へ全意識を集中させることができる)


 佐藤が大きくバックスイングを取る。固定するのが難しい体勢にも思えるが、バックスイングの間も身体がブレることはない。


 (反対にゲートボールのボールは230gとゴルフボールのおよそ5倍の重さがある。ゲートボールは四角いコートからボールが出てアウトボールとならないようにする為、方向も重要だが、最も重要なのが距離。重いボールで距離を重要視する為、バックスイングの大きさによって距離を調整する必要がある)


 佐藤のインパクトの瞬間。なずなの打撃では聞くことができなかった方心地良い打撃音が会場に響いた。


 (ゴルフよりもバックスイングが大きくなる為、方向性が定まりにくい。それを克服する為にフォームは力強い打撃ができる上、腕以外の部分が動かないよう固定しやすいフォームが理想)


 ≪聞きましたか!?あのインパクトの音。佐藤ならではの心地良い音色ですね。それだけボールの芯にスティックのヘッドの芯をぶつけている証拠です≫

 ≪佐藤はプロゴルファー時代でもパターを得意としていた選手ではありました。しかし、ゲートボールのボールはゴルフとは違い、重い。この重さを克服し、あそこまでキレイな音を出せるようになるには、血の滲むような努力を積み重ねてきたことでしょう≫


 2番球が停止した位置から佐藤が続けて打撃の姿勢に入る。


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 ヒロトは興味が無さそうにポケットに手を突っ込んで、試合を眺めている。

 横にワンカップを持った初老の男がやってきた。


 「兄ちゃん、ゲートボールは初めてかい?」

 

 ヒロトは一瞥をくべたが、返事はしなかった。


 「ははは、いいぞ。若いモンはそんなもんで丁度いい。あの白の佐藤ってやつ。あそこから2ゲートを狙ってくるぞ」

 

 初老の男が懐から競馬新聞のようなものを取り出した。何か丸やバツなどを入れて、書き込みをしている。


 「ヤツはプロゲートボーラ―の中でも1番精度の高いプレーをするんだ。」


 佐藤が打ち出したボールは第2ゲートへ吸い込まれるように通過した。

 会場が沸く。

 黄色い声援だけでなく、佐藤のプレーに感嘆とした観客が拍手をしている。


 「えらい人気だな。俺はああいう奴は好かねえが、お嬢ちゃんには悪いが、この試合佐藤が勝つよ」


 ≪我らが佐藤!圧巻のプレーです!第2ゲートまでおよそ9m程の距離をものともせず、佐藤の2番球は第2ゲートを通過しました。第1ゲートを通過後、直接第2ゲートを通過すること自体は技術としては難しすぎるとは言えませんが、佐藤の驚くべきポイントはその通過率の高さ!≫


 実況の声が会場に響き渡る。


 「ほほほ、今のプレーで8割に乗ったようだ。あんちゃん知ってるか?自球が5球ある。んで、佐藤は1試合に5球の内4球は一発で第2ゲートを通過するっちゅう計算だ。じゃあ、なんでなずなは初めから第2ゲートを狙わなかったのかって思うだろ?なずなも2ゲートの通過率は悪かねぇ。5割程度といったところか」


 初老の男がこれまた懐からゲートボールの戦略・戦術ブックを取り出した。


 「まあでも、ゲートは通過する方向が決まってるんで、通過を失敗して、後方にボールが行っちまうと、また前方に戻ってゲートを通り直さないと点は入らねぇからな。ああやって、2巡目で通れる位置に行くことが順当なんだよ」


 初老の男はワンカップを一口呑み、息を吐いた。

 酒の臭さにヒロトは眉をしかめた。



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 ≪ゲートボールをスゴロクや人生ゲームなどに例える方がおられますが、言い得て妙ではありますよね。他には高速道路のETCでしょうか。ゲートボールも高速道路と一緒で逆走での加点はないんですね≫

 ≪同じボールを続けて撃つには、ゲートを通過するか、他球へタッチするしかありません。仮になずな選手が1番球で第2ゲート通過を狙い、外した場合、通過成功率8割の佐藤選手が2番球で第2ゲートを通過し、1番球はタッチされてしまいます。この時点で出だしとして不利な状況となってしまいます。なずな選手はここまで見越して2巡目1番球が通過できる位置をキープしたのでしょう≫

 ≪若いだけだと思っていましたが、しっかりと頭を使った考え方ができているんですね。ただ、脅威の第2ゲート通過率を誇る佐藤にどこまで食らいつくことができるのか!?≫


 観客席では佐藤メーターと書かれた紙を持った観客がおり、佐藤の通過率を更新していた。

 観客席だけでなく、実況と解説も含め完全アウェーの状況になずなは強く唇を噛みしめた。


 (佐藤さんは日本ナンバー1の打撃センスを持つプレイヤーだろう…。でもゲートボールはそれだけじゃない。私は私の闘い方をするんだ…!!)



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 ヒロトは観客席エリアの階段付近で手すりに手を置き、立った状態で試合を見ていたが、何を思ったのかその場を離れようとした。

 初老の男がヒロトを呼び止める。


 「おい、兄ちゃんまだ試合は始まった所だぜ?」


 ヒロトが振り向いた。

 

 「おっちゃん、その佐藤ってヤツに賭けてる1/10でいいから、あのお嬢ちゃん分に賭けておきな」

 「な、なんでそんなドブに捨てるようなことを」

 「若者の言うことは聞いておくもんだぜ」


ヒロトは向きを戻し、会場を後にした。



 会場出て少し歩くと見覚えのある喫茶店が見えてきた。

 ヒロトが扉を開けると、コーヒー豆を挽く心を落ち着かせる薫りが店内を満たしていた。


 「マスター、ホットを1つ」


 マスターは小さく頷いた後、湯を沸かし始めた。

 しばらくしてから、コーヒーが出された。カップを持ち上げるとコーヒーから立つ湯気がヒロトの顔を包むようになる。鼻から抜けるようなこの薫り高い一杯は何もにも代えがたいようにヒロトには思えた。


 マスターが扉を開け、OPENとなっていた札をCLOSEにひっくり返した。

 ヒロトがマスターを見つめていると、マスターが優しい笑顔を作り、


 「この方がよろしいかと思いまして。私は奥に下がっておきます。お代はもう頂いておりますので」


 そう言い、奥へ去って行った。

 ヒロトは腕時計型通信機から空間ディスプレイを表示させた。空中に表示されたそのディスプレイを操作し、今行われている佐藤となずなの試合を映し出した。

 耳にはイヤホンを付け、ディスプレイ上にある会話モードをONにした。


 「あーあー本日は晴天なり。本日は晴天なり」


 試合中のなずなが明らかに挙動不審になっているのが分かった。


 「誰ですか?!どこから?!」

 「あんた負けそうだねぇ。あと10分しかないんじゃないの?」

 「う、うるさい!ゲートボールは最後の5分まで分からないんだから!」


 ヒロトは肩を上下させ、嗤った。


 「ははは。お嬢ちゃん、その通りだ。あんたも勝ちたいだろ?」

 「勝ちます!」

 「ホントに?」


 なずなが声の主を探すように辺りを見渡している。


 「お嬢ちゃん、ものは相談だが、あんたを勝たせてやろうか?」

 「な、何を言ってるんですか?!こんなどこの誰かも分からない人に!」

 「あれー?名前は聞いたことあると思ったんだけどな。俺もまだ知名度低いのかな」

 「だから誰なんですか!?」

 「アレス。そう呼ばれている」

 「え…!?」


 なずながディスプレイの向こう側で固まるのが画面越しでもよく分かった。


 「あんたが望むなら、この試合俺が勝たせてやろう」


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