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アレス  作者: 藤原・インスパイア・十四六
2/6

アレス 1章-2

6日間連続投稿をします。


今回が2話目の投稿です。


6日目に累計PVが1,000を越えていれば、続きを書きたいと思います。


越えてなくても書くかもしれません。。。

 選手控室で佐藤は対戦相手の情報を確認していた。

 プロスポーツの普及の為、よくいるアイドル枠の『なずな』という選手だ。登録も苗字登録でなく、名前登録な所も人気取りがメインで、腕も大したことはないのであろう。

 このスポーツは、ある富豪一人の財により短時間で築かれた王国である。

 その為、スポーツとしての成熟度もまだまだ発展途上であり、他のプロスポーツからの流れ組が40~50%程を占めている。

 今日の対戦相手のなずなという少女もビリヤードをしていたとはあるものの公式大会に出ていたという記録はない。アイドル選手の場合、プロフィールは盛るのが当たり前のようなものなので、何が本当で何が嘘か判断し辛くもある。

 かくいう私もプロゴルファーからの転職組だ。

 元々、パッティング技術には自信もあったので、プレーでは他を寄せ付けない自信と誇りはある。

 ただ、このスポーツのやっかいな所は、技術だけでは片づけられない所にある。

 

 マネージャーが扉を開け、佐藤を呼ぶ。

 佐藤はスティックを持ち、鍛え上げられた肉体をポロシャツ越しに鏡で軽く確認してから、控室を出て行った。


 競技場に出るとすぐにマスコミからの囲み取材となった。

 無粋な記者が「今日は勝てますか?」と聞いてきた。


 「君の記事は毎回、世間の関心を引くような記事なのかい?結局の所は書いてみないと分からないだろ?君の聞いていることはそれと一緒さ」

 「優勝争いも終盤となってきていますが、本日の自信は?」

 

 佐藤は眩暈が起きたように額に手を当てリアクションをとった。記者の一部からも笑いが起きた。


 「言い方を変えただけじゃないか。今日は、というより毎回勝つつもりだ。ただ、万が一負けることもあるかもしれない。スポーツくじもあることだし、不用意な発言は控えておこう」


 佐藤は、以前はビッグマウスとも言われており、マスコミも面白がって色々と聞いてくる。だが、自信たっぷりな発言をする一方でスポーツくじを嗜む人々からのバッシングもひどかった。

 自信があるからといって、毎回勝つ訳では当然ないのだ。


 「優勝争いは、プロパー組の黒田選手との争いとなりますが」


 黒田。私が今最も倒したい相手の一人だ。こいつの他にもう一人。

 黒田は私のような転職組ではなく、プロスポーツ化する以前からゲートボールをしていた選手で賭け試合などもしていたような得体の知れなさがある。あまり良い噂も聞かない。

 ただ、プレーについては独特の凄味を見せる。


 「プロパー組はプレーの技術よりも戦術を強みとしている選手が多くいますね。佐藤さんもプロパー組との対戦成績はあまり良いようには見えませんが」

 

 この記者はいつも人の癇に障るようなことばかり言ってきやがる。

 心を乱すのも馬鹿らしい。ここは適当に答えておこう。


 「ところで、ここ最近話題の〝アレス゛について佐藤選手はどう思われますか?」

 「アレスだと?!」


 気付いたら質問してきた記者の胸倉を掴んでいた。

 咄嗟に手は放したが、まだ心が乱れているのは自分でも感じられた。


 「私は、ああいった不正行為は我慢できない性質(たち)でね。警察や協会には一刻も早くああいった犯罪者を野放しにしないよう取り締まって欲しいよ」


 アレス。黒田同様、私が抹殺してしまいたいヤツだ。

 一度私の完勝のゲームをアレスにジャックされ、相手の逆転勝ちに持って行かれた。

 アレスは試合に姿も現さず、どこからか劣勢の選手に戦術指示を出す。しかも試合の30分の内、残り10分になってからだ。

 あの屈辱はヤツをこの世界から抹殺してしまうまで収まることはないだろう。


 両拳に力が入る。


 今日の対戦相手は知能も技術も低能なアイドルプレイヤー相手だ。アレスの入り込む隙も与えず、勝ちを掴めるだろう。

 だが、次俺の前に現れた時が、アレス。貴様の死に場所となるだろう。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 広い控室の中、緊張のせいか正座で、部屋の端でぼんやりと鏡に映る自分を見ていた。

 控室の扉がノックされた。

 なずなが返事をすると、そこには先ほどの運転手がいた。

 

 「あ、運転手さん」


 なずながそう答えると、運転手は彼の肩を掴んでいた関係者たちを払いのけた。

 

 「だから言っただろう。俺はこの選手の関係者だって」


 運転手の肩を掴んでいた関係者たちが渋々とその場を後にする。

 運転手はまだブツブツと文句を言っている。


 「どうしたんですか?」


 なずなは気付いたらそう、聞いていた。


 「いや、車の中でのあなたが、疲れているように見えましたので」

 「試合見てくれますか?」

 「そのことなんですが」


 運転手はキャップ帽を脱ぎ、胸の前で握り潰すようにしながら、視線を逸らした。


 「引退試合って、そんなの悲しいですよ」


 頭を掻く運転手。


 「僕も応援しますんで、是非勝って下さい。あと…」


 そう言ってうつむいた。

 なずなは立ち上がり、運転手の方へ歩いて行った。

 運転手が急に抱きついてきた。咄嗟に身を屈めようとしたが、首筋に冷たい感触があった。


 「キャッ」


 首筋にあった感触は、今ではあまり見ない缶コーヒーと同じサイズの缶ジュースだった。

 抱きついてきたと思ったが、缶ジュースを渡そうとしただけだったようだ。

 缶に「かりんだこまっちゃう」と書かれているが、見たこともないジュースだった。


 「僕の生まれ故郷のローカルジュースなんです。最近復刻したみたいで。これ飲むと元気が出ますよ。頑張って下さい」


 そう言うと運転手はこちらのお礼の言葉も聞かずに出て行った。

 名前からして、このジュースは花梨なのかもしれないが、そもそも花梨のジュースは飲んだことがない。気がする…。

 缶ジュースのタブを開け、1口飲んでみた。甘さの中に少しの酸味とラフランスに近い風味がした。好きな味だ。


 なずなは残りを冷蔵庫に入れ、スティックを握り、控室を出た。

 少し表情が柔らかくなっているのを自分でも感じた。

 「やれるだけやって…、最後の試合を楽しもう」



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 競技場の照明が消え、辺りが暗くなった。

 赤、黄色、青、緑色の様々なカラフルなライトが競技場内の天井や観客席、コートを照らし出す。

 場内に飾られた創始者である富豪の銅像にスポットライト全てが集中する。

 会場内に実況の声が響き渡る。


 ≪あなたがいなければ、今のこの熱気に満ちたこの会場は存在しなかったでしょう…。あなたがいたから、私たちはこんなに素晴らしいスポーツを知ることができた…。あなたの想いを受け、私たちはこのスポーツを今後も愛していくでしょう…≫


 ペナントを制した選手だけが手にすることができるカップにスポットが移動する。


 ≪ペナントも終盤。優勝争いが激化してきました。本日の試合を制するのは≫


 佐藤にスポットが照らされる。


 ≪ゲートボール界のビッグマウスが進化し、技術に磨きをかけた天才。カントウ所属、佐藤!≫


 歓声が沸き起こる。黄色い声援も多いようだ。

 次になずなにスポットが当たる。


 ≪病気がちな父親を養う為に今日も闘う。なんて健気な女子高生なんだ。ハスラーとして鍛えたタッチ力を武器に一矢報いるか。みんなの妹、カンサイ所属。なずなアアーーー!!!≫


 歓声はやはり男性からの方が多く、歓声だけでなく、独特の応援で声を揃えたものが聞こえてくる。

 実況の声も選手には聞こえているようで、なずなは恥ずかしそうに(こうべ)を垂れた。


 ≪まずはルールの説明から!試合時間は30分。ボールは全てで10球。先攻後攻は奇数と偶数に分かれます。本試合では順位の低いなずな選手に先攻後攻の決定権があり、なずな選手は先攻を選択しました≫


 歓声に混じり、なずなを蔑むような言葉も聞こえてくる。


 「大した腕も無い顔だけのクセに、よくもまぁ試合に出られるよ」

 「どうせ、目立ちたいだけの頭お花畑なヤツなんだろ」


 男性の試合に関係ない声援と彼女を罵倒する声、そしてブーイングが起き続けている。

 手が小さな、なずなの手には少し余る程の赤い色をした1番球を強く握り締めている。


 (罵倒なんて、もう慣れた。私は私のプレーをするだけ。1日でも長くプロを続けて、お父さんの借金を返して、そして、そして…!)


 ≪コートは盾20m、横15mの正方形、第1ゲートから順番に通っていき、第2ゲート、第3ゲートと進み最後には中央に突っ立つポールを目指します。ゲートは各1点でポールが2点。1球で5点まで獲得でき、5球で25点≫


 佐藤が2番球を拾い上げ、ボールについた芝生を払った。

 その行為だけでも黄色い声援が聞こえてきた。


 ≪試合時間の30分が終了するまでにより多くの点数を取っていたプレイヤーの勝利となります!さぁ、いよいよ試合が始まります≫


 試合開始の鐘がなる。

 1番がコールされ、なずなが1番球を置き、打撃の態勢に入る。


 (この世界に絶対しがみつくんだ…!!)


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