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はるか ワケあり転校生の7カ月  作者: 大橋むつお
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第四章 二転三転・3

はるか ワケあり転校生の7カ月


32『第四章 二転三転・3』




 このままでは、クラブがバラバラになって脱落する者が出てくる。


 みんな口に出しては言わないけど、大橋、乙女両先生に頼り切っている。


「わたしと、タロくんの責任や」

 タマちゃん先輩は、ハンバーガー屋さんでくり返していた。

「先輩、膝が……」

 と、わたしもくり返していた。


「また二人でクラブを引き締めよ」

 そうタロくん先輩にも話したそうだ。

「分かってる。オレがなんとかする」


 返事はいいらしい。


 しかし「今日部活休みます」とルリちゃんからメールがきても、

「今日、ルリちゃん休みです」

 人ごとのように先生達に報告するだけのタロくん先輩。

「言わなあかんで!」

 タマちゃん先輩はタロくん先輩に迫る。

「言い方を考えてんねん!」

 タロくん先輩は、いつも、そう答えるだけだそうだ。


 分からないでもない、言い方によっては……。

「ほんなら、あたし辞めるから」

 こうなりかねない。


「わたしが言うてもええねんけど……」


 タマちゃん先輩のため息混じりの語尾には「もう言うてしもた……」の後悔がうかがえた。

 結果は、かんばしくなかったのだろう。

 それ以上は、部長であるタロくん先輩の顔を潰す……。

 というより、クラブの秩序を崩してしまう。タマちゃん先輩はそう心配しているようだった。

 二人の気持ちは、どちらもよく分かる。入部届も出していない新参者のわたしが、あまりしゃしゃり出ることではないような気がする……そこまで思い至ったとき、ポツリポツリと雨。


 手紙を濡らさないようにかばいながら校舎へ。


 そのとき、中庭の対角線の方向に吉川先輩と由香の姿が見えた。

 今まで、大きな蘇鉄にさえぎられて見えなかったんだ。

 瞬間、吉川先輩と目が合った……。


 それから二日。


 由香は未提出の課題があるので、教室に残っている。待っていても、かえって邪魔になるだろうと思い、先に帰ることにした。

 上履きを下足のローファーに履き替えて、頭を上げると吉川先輩が立っていた。


「テスト前日で悪いんだけどサ、ちょっとつき合ってくれないかなあ」

「ええ……いいですよ」


 と、答えた二十分後。わたしたちは天王寺公園に来ていた。

 正確には、天王寺公園の奥にある市立美術館のさらに裏にある「慶沢園」


「ウワアー……こんなところがあるんだ!」


 広大な回遊式日本庭園であることぐらいは、わたしの知識でも分かった。

 つい二三分前まで、天王寺駅前の、ロータリーや空中回廊のような歩道橋。そこに繋がる、JRや私鉄、地下鉄の出入り口、アベノハルカス、ファーストフードなどから吐き出されてくる群衆と、その喧噪の中にいたとは思えない。

 東京でいえば、渋谷の駅前から、いきなり明治神宮の御苑に来たようなもんだ。


「もう一週間も早ければ、花菖蒲がきれいに咲いていたんだけどサ。今は、クチナシとか睡蓮くらいのもんかな」

「なんで、こんな所があるんですか?」

 直球すぎて、間の抜けた質問。

「ここは、元は住友財閥の本宅があって、この庭園は付属の庭」

「これが付属……」

「昭和になって、住友家から大阪市に寄贈されたんだ」


「へー……」


 間の抜けたまま、ため息をついた。


「ハハ、そういう間の抜けた感動するはるかって好きだぜ」


 誉め言葉なんだろうけど「感動」の前の修飾語は余計だ。


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