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はるか ワケあり転校生の7カ月  作者: 大橋むつお
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第一章 はるかの再出発・3

ワケあり転校生の7カ月


3『おったまげた』




 食堂に入って、おったまげた。


「たぬきそば」をたのんだら、なんとそばの上に、煮染めたウスアゲが載ってるじゃないの! 


 これは「きつねそば」だ。たぬきがきつねに化けた!


 日本は広い。東京で「たぬきそば」って言えば、かけそばの上に揚げ玉と決まったものなのに……。


「大阪でたぬきそばって、みんなこんなの?」


 健康的にきつねうどんをすすっている由香に聞いてみた。


「うん、東京はちゃうのん?」

「うん、かけそばに揚げ玉がのっかってんの」

「かけ……ああ、すうどんのそばバージョン。で、揚げ玉て、なに?」

「なにって、揚げ玉……は、天ぷら揚げたときにプワプワって出てくる……その……」

「その……?」

「……タマタマ!」

「タマタマて……アハハハ、笑ろてしもて食べられへんわ!」


 食堂にいた人たちの視線がいっせいに集まり、わたしはホンワカを通り越して、真っ赤になった。


「テンカスって言うんだよ、大阪じゃ」


 思いがけない標準語が降ってきた。


 標準語の勧めで、わたしと由香は図書室に行った。


 標準語の主は、生徒会長の吉川裕也ということなんだけど……ひとまず置いておいて、図書室。

 わたしは、大の読書家……って言っても、文学少女というほどでもない。気に入った本をかたっぱしから読む。


「あー、おもしろかった!」


 で、読むのと同じ速度で忘れていってしまう。


 わたしのイニシャルをHGからHBにした張本人は、こう言う。


「はるかは本を読んでるんじゃなくて、食べて排泄してるだけ」


 うまいたとえではあるけども、デリカシーがない。なさすぎ! 


 な・さ・す・ぎ!!!!


 まあ、こんなところでムキになっても仕方ないので、ひとまず先にいきましょう先に。


 わたしは大阪に来てひとまず少女になってしまったようだ。


 ま、それだけ、わたしの転校は急なことだった。そして東京と大阪の文化が違うということなんだ。


 この真田山学院高校の図書室は、創立百年を超える学校だけあって、ざっと見渡して、蔵書数は二万冊に近いとみた。

 ファッション雑誌から、ラノベの「ぼく妹」「竜王のおしごと」などなど、なつかしの太宰の全集に、司馬遼太郎全集、ごひいきの氷室冴子さんや伏見つかささん、渋めの瀬戸内寂聴さんの本、おなじみの赤川次郎さんや白鳥士郎さんの新刊も、かなりそろっている。あ、三島由紀夫の「金閣寺」の初版本まで……。


「いい学校にきた!」


 わたしは、思わずほくそ笑んだ。


「はるかて、ほんまに本好きやねんね」

「え、どうして?」

「よだれが垂れてる」

「え!?」 


 思わず、ハンカチを出す。


「アホ、たとえよ、たとえ」

「その、アホってのはきついなあ、どうせならバカって言ってよ」


 親愛の情を示す単語にまたしても東西の文化の違いを感じつつ、わたしは、無意識に新刊本をつかんでカウンターに向かった。


「すみませーん!」

「はるか、本借りるつもり?」

「え、あ……うん」


「はーい……」


 司書室の奥からチェシャネコがやってきた!


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