第三章 はるかは、やなやつ!・5
はるか ワケあり転校生の7カ月
23『第三章 はるかは、やなやつ!5』
湯船に鼻の下まで漬かって考えた……念のため、自分ちのお風呂です!
吉川先輩も、反応するのに数秒かかった。
で、数秒後「アハハハ」と笑って、結局地下鉄まで二人で笑いながら行って喫茶店に入った。そんでもって、三十分ほど気まずく話して帰ってきた。
問題は、まず、あの数秒間。
吉川先輩は、わたしの反応を伺っていたように感じたんだけど……考えすぎ……?
も一つは、喫茶店での話題。
三十分というのは、二人で面と向かって話した時間としては、今までで一番長かった。
疲れていたせいか、さっきのドギマギのせいか、お芝居の話も七坂の話も、お互いに「あ、そう……」って感じで滑ってしまう。滑るくせに話は尽きない。
話題はいつしか、学校で共通の話題にできる人の話になった。
友だち、先生、Y駅近くのタコ焼き屋のおじさん、そして大橋先生のことなど……吉川先輩は、わたしを退屈させないように気を遣って……と思うんだけど、人物評が辛いってか、シニカル。
乙女先生はHBT「わたしのホンワカビューティーのHBに似てる」と思ったら、ヒステリービックリタヌキ。
たしかに乙女先生は、怒るとおっかない。
授業でも、よくお説教をする。こないだも、部活の無断欠席が多いルリちゃんにカミナリを落としていた。同時に部活の管理ができていないとタロくん先輩も叱っていた。こういうところをヒスととるらしい。
でも、それって、叱って叱られて当然の状況だったと思った。
ビックリは、お目々パッチリで口元は油断がならないチェシャネコだから。見ようによっては、ソーカナァだけども、吉川先輩はこう言う。
「アハハ、あれは二年前、階段を踏み外して転げ落ちたときのビックリがそのまま顔に貼りついてんだよ」
あれで、先生は膝のお皿を割ってしまった。ちょうどお母さんの介護が始まった頃だと、タマちゃん先輩に聞いた。吉川先輩も知ってるはずなのに。
タロくん先輩はHBTジュニア。まあ、見かけはそうだけど……。
タマちゃん先輩はマタちゃん。「タマちゃん」のデングリガエシかと思ったら、口癖の「また……」だということと、熱中すると膝が開いてくる……。
どこ見てんだ……と思いつつ、あのクッタクの無さと、普段の優等生ぶりとのギャップ……短時間なら楽しい先輩だと思えるのに。
まあ、今日三時間ほどの印象だから、保留にしておこう。
「はるか、何やってんのよ?」
母上が動かしていた手を止めた。
「役作りよ、役作り」
「ああ、お芝居の中で、ダルマサンガコロンダをやるんだ……」
「あのね」
「じゃなかったら、風呂上がりのドロボウさん?」
「違うよ。美少女アンドロイドよ、美少女!」
「アンドロイド。で、美少女……ワハハハ」
「そうゲラゲラ笑うことないでしょ!」
役作りを中断してスポーツドリンクを取りに行った。
「そう、ゲラゲラ、ゲラよ……あ、お母さんにもちょうだい」
「なによ、忙しい人ね。笑ったと思ったら、もう落ち込み? ソ-ウツだよソーウツ」
グラスを渡しながら、母上の手許を見るとゲラ刷りの束。




