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はるか ワケあり転校生の7カ月  作者: 大橋むつお
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第三章 はるかは、やなやつ!・3

はるか ワケあり転校生の7カ月


21『ドラマフェスタ』




 その週末は『ドラマフェスタ』の通し券をタロくん先輩から借りて、お芝居を観に行った。


 由香も誘ったんだけど、土日はお店が忙しく、家事は由香の仕事である。

 頼めば大学生のお姉さんもやってくれるらしいんだけど、この日は就活のガイダンスでアウト。


「ごめん、タイミング悪うて。また誘ぅてな」


 スマホの向こうで洗濯機の音がした。


 通し券では一人しか入れない。二人となると、一人分の当日精算券をワリカンにしなくてはならない。

 いくらになるのかなあと、当日精算の受付を横目で見る……。

 え、三千五百円! ワリカンで千七百五十円……映画の学割より高いよ。

 由香を誘えなくてよかったかも。今度由香と遊びに行くときは映画にしよう。


 土曜のマチネーで混んでいたけど、一人なのでなんとか座れた。

 演目は、ブレヒトの『肝っ玉お母とその子供たち』


「へえ、ブレヒトか……」という大橋先生から、本を貸してもらって読んだり、ネットでブレヒトを調べたりと下準備してから観に行った。

 迫力はあった。大勢でいっぺんに同じ台詞をしゃべったり、突然大阪弁の漫才みたくなったり……ああ、これが「異化効果」なのかと思ったりしたが、正直「それでどうなのよ」である。


 その前は、タイトルは忘れたけど「イジメと自殺」のお芝居。

 上手いんだけど。こんなことで自殺する? 

 で、その子の遺書にイジメた子の名前が書いてあって、その親たちが責任のなすり合い。最後に親たちが和解してカタルシス。

 ああ、最初にこのカタルシスがあって、そのカタルシスのために組み立てたストーリーだな……と思った。


 正直イジメはある。


 東京にいたころもあったし、大阪に来るときは、自分自身のこととして心配もした(現にクラスの何人かからはシカトされてもいる)

 でも、死んだりしない。死なないで苦しんでいるのが大多数だ。

 わたしなら、いじめられて、泣いたり、いじけたり、ときには戦ってボロボロになっていくところを書く。そこにこそドラマがあるからだ。

 和解のカタルシスのために、その子を死なせるのは、やっぱ変だと思った。


 その前は『西遊記』をもじったコメディーだった。とても上手い人と下手くそな人がいた。

 でも、なんで上手く、また下手くそに感じるのか、説明はできない……。

 そんなことを思っているうちに、ブレヒト芝居はカーテンコール。満場われんばかりの大拍手。白けてんのはわたしひとり。


 やっぱ、わたしって、芝居には向いていないのかなあ……さっき思い出したお芝居も、けっこうお客さんたちは喜んだり感動したりしていた。やっぱ、わたしって演劇オンチ?



 劇場を出て駅に向かう。ケータイの着メロ。


「あ、吉川裕也……」


――今どこにいる?――


 どこったって、説明なんかできないよ。大阪の地理なんて、まだよく分かんない。

 仕方がないので、「T駅へ向かう途中」……とメールを打ったら、打たれた。

 肩を軽くポンポンと。


「あ」


 振り向くと、吉川裕也がニコニコとイケメン顔で立っていた。


「もう、側にいるんだったら直接声かけてくださいよ」

「だって、怖い顔して歩いてんだもん。声かけづらくってサ」

「考え事してたから……ヘヘ」


 急場しのぎのホンワカ顔になる。


「デートしようぜ」

「デート!? 今から!?」

「うん、今から。だって前から言ってただろう」

「う、うん」

「それとも、なんか先約でもあるのか?」

「ないない、ありませんけど……」

「じゃあ、決まり。これから大阪の原点を見にいこう」


「大阪の原点?」


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