表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はるか ワケあり転校生の7カ月  作者: 大橋むつお
18/95

第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ・8

はるか ワケあり転校生の7カ月


18『中之島のバラ園』

 


 その帰り道、地下鉄の駅を素通りして、南に向かって歩き出していた。


「ごめん、地下鉄乗りそびれちゃった……」

「ええやん、これ堺筋やさかい、ほっといても日本橋に着くさかい」

「日本橋まで歩くの?」

「くたびれたら、どこかで地下鉄に乗ったらええやん」

「そうだね……」

「それから、ニホンバシと違て、ニッポンバシ」

「ウフフ、だったよね」


 大阪の地名はムズイんだよね。都島と書いてトシマじゃなくて、ミヤコジマ。放出はなてん杭全くまたなんて、もうお手上げ。


「でも、はるかが東京帰らへんて分かって安心した」

「……でも、由香って鋭いかもよ」

「え……?」

「東京への未練は、近所の八幡さまにお賽銭といっしょに納めてきちゃった」


 短くスキップして、一歩由香の前に出る。


「お賽銭?」

「うん、ピッカピカの百円玉にしてね……でも一個だけどうしても残ってんの」

「なに……?」


 由香の怯えたような視線を背中に感じる。自分が、とてもケナゲな子に思えてくる。


「なんやのん?」

「ごめん……言ってしまったら、手からこぼれてしまいそうで、ごめんね」

「ううん、かめへんよ。はるかが大阪に居てくれることは、はっきりしたんやさかい! 今は、それだけでええよ」

「うん。言える時がきたら言うわね、由香にだけは……」

「ありがとぅ!」


 スキップで、由香は、わたしの横に並んだ。


 しばらく二人で歌いながら歩いた。カラオケみたく元気に、AKB48、スマップ、ももクロなどなど。大阪に来て、こんなに歌うのは初めてだ。


 帰宅途中のOLさんたちが拍手をしてくれた。


 いつもだったら、こんなこと恥ずかしくて、とてもできない。だけど、この時は平気ってか、とても自然だった。


「あ、すごい!」


 ハイテンションの由香の横顔越しにすごいバラ園が見えてきた。


 わたしたちは、中之島まで来てしまった。そして目の下に広がるバラ園!


 うわあああ!


 二人は子犬のようにバラ園に突撃した。


「わあ、すごいバラだ! バラばたけ! バラだらけ!」

「でました、はるかのおやじギャグ!」

「違うよ、韻をふんだのよ韻を!」


 わたしたちは、子どものように(もう子どもじゃないんだよ! ってときもあるけど、使い分けます。この年代の特権)はしゃぎまくり!


「ねえ、知ってる、黄色のバラは友情を表してんねんよ。赤は情熱。白はえーと清純、純潔。ハハ、これはうちらに向いてないなあ」

「由香、魚屋さんなのに花に詳しいのね!?」

「うちの向かいが花屋さん」

「なんだ、そうか。でも大したものよ」

「あたしが、それともバラが?」

「言わぬが花ってね」

「なんや、その京都のオバハンみたいなあいまいさは。江戸っ子やったら、はっきりせえよ!」

「両方よ、両方」

「また、そんなあやふやな。黄色いバラに賭けて誓いなさいよ!」

「由香、おっかなーい!」

「アハハ……ねえ、由香。青いバラってないの? 青空みたいに青いの」

「バラに青はあれへんよ。花言葉はあるけど」

「なんての、青いバラの花言葉は?」


「不可能」


「不可能……」


 急速にバラたちが色あせていくような気がした……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ