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はるか ワケあり転校生の7カ月  作者: 大橋むつお
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第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ・6

はるか ワケあり転校生の7カ月


16『オキテが決まって簡易書留』




「で、今日からほんまのクラブとして扱いたい」


 じゃ、今までのは……。


「ま、クーリングオフ効きのお試し期間」

「ほな、わたし介護休暇とってるさかい。オオハッサン、このプリント見とって。あとはよろしゅう……みんなもな」


 乙女先生はテレビで見た神沼恵美子そっくりの後ろ姿でプレゼンを出て行った。


「ほんなら、クラブのルールを決めよか」


 で、以下のル-ルってか、オキテが決まった。


①部活は週四日とする。変にポコポコ休まれるより、いっそ共通の休みを取った方がいい。そのかわり日頃の部活は休まないよう。土日は、公演前を除いてはやらない。くどいようだけど日頃の部活は休んじゃいけない。


②部活は四時から六時。これ、四時に来るんじゃなくて、四時には部活にかかれる体制でいること。われらが真田山学院は、なんと七時間目まであって、クラスの終礼やら、掃除当番なんか当たっちゃうと、この四時ってのが妥当なセン。その代わりってか、六時ってのは部活を終わる時間じゃなくて、校門を出る時間。


③やむを得なく休んだり遅刻する時は、部長か顧問の乙女先生に言っておくこと(メール可)


④基礎練習はもちろん、本編の稽古に入ったら、基本的な練習は各自自分の時間でやること。部活の時間はその成果をぶつけ合い切磋琢磨(せっさたくま、って読むんだよ)する場である。


⑤したがって、シャバ(部活以外)の空気を部活に持ち込まないこと。モチベーション八で前日の稽古が終わったら、次の稽古は、そのモチベーション八から始まらなくてはならない。むろん部活の最中に教科の課題やら、宿題をやってはいけません。


⑥これは、一年限りのオキテ。今の演劇部は再建団体なので、顧問とコーチの指示を第一にすること。


 ほかにも大橋先生は、こう言った。


「今年はオレの本だけ演るけど、来年度以後は自分らで本決められるように、暇があったら、戯曲(お芝居の本)読みなさい」


 で、戯曲のリストを配ってくれた。

 ヌヌヌ……五十本ほどの戯曲が書かれていたが、さすがのわたしも読んだことがあるのは四本しかなかった。


「それから、これ『大阪スプリング・ドラマフェスタ』の通し券や、二十本ほどの芝居がタダで観られる。タロくんに渡しとくさかい、できるだけ観ときなさい」


 お、いいものメッケ!


「それから……」


 先生は乙女先生のプリントを広げて見せた。


「八月十八日にピノキオ演劇祭に出るさかいにそのつもりで。で、演る本はこれや」


 乙女先生が置いていった紙袋から台本を取り出してみんなに配った。テレビのバラエティー番組並に段取りがいい。


 台本の表紙には『ノラ バーチャルからの旅立ち』と書かれていた。


 家に帰ると、着替えもせずに部屋に籠もって、パソコンと睨めっこ。


 あの土曜の夜から、わたしはエッセーを書き始めた。


 パソコンだから、いくらでも書き直せる。倒置法を使ったり、やめたり。助詞や改行にこだわったり、あれこれ手を加えているうちに締め切りが迫ってきた。


 タイトルは「オレンジ色の自転車」。つまり、わが中古のオレンジチャリ。中味は、まだナイショ。


 やっと思い切って、プリントアウト。かねて用意の封筒に入れると、オレンジの愛車にうちまたがり街の本局を目指して、走り始めた!


「アッチャー……」


 オッサンか、わたしは。


 あと二三秒かってとこで、駅横の踏切の遮断機が下りてしまった。


 このラッシュ時、十分は踏切は開かない。しかたがないので跨道橋を兼ねた駅の階段を自転車を担いで駆け上がる。「あんた、見かけより重いのね」愛車につぶやくと「はるかに言われたかないわよ」と言い返されたような気がした。


 速達の簡易書留で出し終わって、夕陽を背に受けての帰り道。踏切は皮肉なことに開いていた。タイミングの悪い女だよなあ、わたしって……。


 帰り道は山に向かっているので、いやでも目玉オヤジ大明神さまが目に入って、思わず手を合わせる。


 駅前の塾へ急ぐガキンチョたちが物珍しげに見ていく。心なし笑っていたような気がしたが、「あんたたちも、お受験の前にはやるんでしょうが」と、『アリとキリギリス』のアリさんの気持ち。


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