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はるか ワケあり転校生の7カ月  作者: 大橋むつお
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第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ・2

ワケあり転校生の7カ月


11『玉串川』




 引っ越しして、まずやったことは、ネットの環境をソフト面でもハードってか、アナログな部分でも整えること。お母さんのメシの種だからしかたがない。


 つまり生活環境的には、テーブル、机、ベッドくらいのもんで他のものはほとんど整理されていない。かなりの家財を荷ほどきしてないし、東京の家に残したままのものも多い。


 この未整理ぶりには、かすかな期待があった。


 離婚は衝動的なもので意外と簡単に元の鞘に収まるんじゃないかって……。


 しかし、そんなハカナイ期待を抱き続けていては、いつまでもゴミ箱のようなところで暮らさなくてはならない。


 仕方なくわたしは、オレンジ色の愛車で、ホームセンターと我が家を三往復した。


 最初は意気込みすぎて車道にはみ出し、クラクションを鳴らされた。

 車のお尻に思い切りイーダをしてやろうと思ったけど、スモークガラスのベンツなので止めた。


 一回で運べる量はたかがしれている……のを忘れていた。三往復目の帰りにはくたびれ果てて、玉串川のほとりで小休止という状態になった。


 玉串川。


 川幅四メートルほどの小川ではあるが、川とその沿道はよく整備されている。川の両岸には、それこそ「視界没」の桜並木。今は葉桜だけど、満開の時はスバラシイだろうなあと思って、川面に目を落とす。


 ゆるゆると流れる川には、鯉だとか鮒だとかが、流れに逆らってかわいく群れている。

 川面に映るわたしの影。

 セミロングの髪がタラーっと顔を覆って、お化けみたい。

 ポッケからゴム(シュシュなどというカワユゲなものではありません)を出してヒッツメにしてみた。


 いくぶん明るくなるが、やはり暗い印象……。


「しっかりしろ、はるか!」


 小声で自分を励ます。


「ここで飛び込んでも、死なれへんで」


 びっくりしたあ!


 振り返ると、なんと、大橋むつおがコンニャクのような顔で立っていた!


 ゲ、開いたパソコンから付いてきたってか! わたしにはマサカドクンという訳わかんないのがくっついている。こんなオジサンがいたって……やっぱ変だよ。


「先生どうして……」

「どうしてて、オレここの住人やさかいに」

「え、先生が!?」

「はるか、高安に越してきたんか!?」

「……」

「ん……?」


 脳みそのセットアップに時間がかかった。


「え、ええ、五日ほど前に。準急停まるし、家賃とかも手頃でしたから。あ、わたし高安町です。駅にも近いし、小さいお店とかはあるんですけど、ホームセンターとか遠くって、でも、高安山が近くて、あ、今朝お洗濯してて気がついたんです。タラーっとした山だけど、緑が近くにあるっていいです……あ、行きがけにカラスがアホーって鳴いてて、大阪って、カラスまで大阪弁。アハハ……」


 わたし、会話に空白ができるのがやなんで……でも、なにあせってんだろ?


「おもしろい子ぉやなあ」

「ハ、アハハハ」

「ホームセンターやったら、近所の外環沿いにもあるで」

「ほんとですか?」

「うん、高安町からやったら、チャリンコで五分ほどやなあ」

「もう、お母さんたら……」


 わたしは、プリントアウトした地図を睨んだ。


「お母さんは?」

「寝てます」

「ああ、徹夜で原稿打ってはったんやな」

「なんで、知ってるんですか!?」

「滝川からメールもろた」

「あ、タキさん!」


 二人がお友だちであることを思い出した。


「図書館の場所教えたろか」

「え?」

「はるか、本好きやねんやろ?」

「そんなことまで?」

「これは、オレの観察や。転校初日に本借りていく子ぉは、めったにおらんさかいなあ」


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