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8:サマーバケーションに突入してまずは?

朝、目覚めた後しばらくしても特に呼ぶ声もしないから不思議に思いながらリビングに降りると、母さんはまだソファの上でぐーすかいびきをかいていて、そろそろいつもの出勤の時間だというのにもかかわらず、特に起きようという気配すら感じさせない、見事な熟睡っぷりで、よっぽど昨日疲れたんだなあ、今日は休んだほうがいいんじゃないかなあ、と思うけれども、起こさなかったら起こさなかったで文句を言われたり脇腹にチョップをもらいそうなので、ひとまず母さんのの肩を掴んで揺する。

「おーい。おーい。母さーん、起きないでいいのー?」「う、うー…」「おーい、起きてー」「うーん、んー…」「今日は仕事やすみー?」「んん、ん〜?…」ダメだ。僕の言葉に反応して一瞬頷いたりもしたように思えたけど、目は相変わらずつぶったままで、すぐに動かなくなってしまう。

「おーい、起きてー。職場に休みの電話入れよっかー?」「んん、ダメ〜…もう起きるから…」なんとか意識は覚醒したみたいだ。

僕はキッチンに向かい、あったパンを適当に焼いてバターを塗って皿に乗せて母さんに渡す。母さんはそれを食べているうちに眠りかけの頭を完全に起こして、食べ終わったらすぐに着替えて、メイクをあっという間に済ませてゆく。「お金あげるから、これで弁当買ってね。遅刻しないようにね。行ってきます」と言い残して、母さんは千円を財布から取り出し机の上にポイと置くと、慌ただしく出かけて行った。行ってらっしゃ〜い。

実のところ、家を出る予定もないので、べつに弁当代なんか要らなかったのだけれど。まあ言ってなかったから仕方がないか。

岬野咲高校にも、本日、夏休みが訪れた。開区奈落高校よりも数日遅れたのは、補習を実施したせい。テロの時に結構休んだから、それを取り返すための補習だ。

夏休み。受験生的に言い換えれば天王山。この期間の頑張りの重要さったらない。点をいくら伸ばせるかはここにかかっている。


起きてしばらくは特に勉強もせずにごろごろする。

最近では、『審判』と呼ばれ始め、ネットを賑わし続けている方法すら未解明の大量殺人・ドクロ事件も徐々にヴァージョンアップしており、ただ単に殺すだけでなく、ドクロを刻んだ人を集めて何やらルールを決めてゲームをさせて、負けた人は死ぬ、だとか、最近のマガジンで連載しているようなイベントを開催して、それも、それまでと違うのは、消せないドクロマークを体に刻み込まれたのに生きている人間がいることだった。そのゲームには大抵生き残りが存在しており(全滅ということもあるが)、大体の生き残りはゲーム参加前と後では性格が別の人間のようになってしまうのだという(浜口くん談)。参加した人間はルールにもよるのだろうが皆、騙しアリ暴力アリな中で死に物狂いで生き残ろうと必死にみっともなく足掻くのだ。そして、実際に殺すのは自分じゃないとしても、(もちろん自分が殺したとしても)自分が何人もの人を殺して殺して、自分のせいで何人もの人が死んで死んでーーという感覚に陥るにきっと違いない。人を殺した後でもまともでいられる奴は、ちょっとどこか、元からヤバイやつなのだろう。そんなわけで、この夏休みを機に他県へと逃げるように引っ越す人間は多く、島根もびっくりの圧倒的な速度で、過疎化は進んでいる。

今日から夏休み。相変わらず、再び岬野咲本校で授業をする目処はついていない。「浜口くんは夏には戻れるかな?」などと言ってたけども、それはとても甘い考えだったらしい。卒業まで戻れることはないと考えて、これからを生きたほうがいいだろう。


積んでいたラノベを読んでいると、携帯が震えた。浜口くんからのメッセージだ。こんな時間に迷惑なものだ、と思う。小学生の時に、8時以前には友達に連絡するなと習わなかったのだろうか。しかし、それからも少し間を置いて携帯は鳴り続けるので、恐る恐る液晶を覗いてみる。

『起きてる〜?』

『起きてるでしょ?』

『なんで既読つかないの?』

『見てるんだよね?』

『無視しないでよ』

『ねえ』

『返事ください。』

……


怖っ。僕は携帯を放り出して、読書を再開する。しかし間も無く携帯から音楽が流れ出した。ついに電話してくるか…でも、ここはやっぱりまだ起きてないってことにして、出ないほうがいいよな。よし、そうしよう。じゃあ早速音量をゼロにして震えてもうるさくないよう布団でぐるぐる巻きにして…と、それを実行する前に、浜口くんからとあるメッセージが送られてきた。


『次電話して出なかったら、寺内くんち行くから。』


正直な話、これは僕に対して相当効き目のある脅しだった。僕はあまり、家に入られるのが好きじゃないからだ。何故って、やっぱ、プライベートな空間だし…兎に角、家に入られるくらいならば、浜口くんの相手をするほうがまだマシだった。

数秒して、本当に浜口くんは僕に電話をかけてくる。僕はそれに、2コールほどで応答する。

「もしもし」

『あー、やっと出た!』そりゃ、脅されたら、ねえ。

「ごめん、さっきまで寝ててさ。メールとか、今見たばっかで」

『まったくもう、そうだと思ってたよ!』

白々しい。

多分、お互いにそう思っていたはず。

『ところで今日暇でしょ?』「えー、と、決めつけないで欲しいんだけど」『暇なんだよね?』「いや、僕も色々とあってさ、読書とか、ゲ」『わかった。じゃあ今日、ボクんち来ない? ボクは寺内くんち行ってるのに、不公平だなって思っててさ』「いや、僕は別にそんな」『一時間後に行くから、準備しといてね、約束だよ』「え」ブツ。切られた。えらく一方的な約束だった。







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